先日、環境省のレッドリストの見直しが行われ、ニホンカワウソが絶滅危惧ⅠA類から絶滅へと変更されたことがニュースになった。そういえば、最近ではカワウソのことはすっかり話題にならなくなっていたが、最後の記録から30年以上も経過しているという。
絶滅というのは進化の歴史の中でずっと繰り返されてきたことだ。とはいっても、近年は人為的な要因で絶滅種が急増している。いとも簡単に生物を絶滅に追い込んでしまうヒトという生物の責任は重い。
ところで、今回の見直しに関してマスコミはニホンカワウソの絶滅のことばかり取り上げていたのだが、それだけが変更点ではない。エゾナキウサギが準絶滅危惧種へとランクアップされたのである。
環境省のホームページに、注目される種のカテゴリー(ランク)とその変更理由が説明されている。
別添資料6
哺乳類ではニホンカワウソとミヤココキクガシラコウモリが絶滅種とされたほか、エゾナキウサギのランクが上げられ、馬毛島のニホンジカが「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定された。ほかにはゼニガタアザラシ、トドのランクが下げられ、九州地方のツキノワグマが絶滅とみなされて「絶滅のおそれのある地域個体群」から削除された。
複数の哺乳類が絶滅と判断されたことはたしかに今回の見直しの注目点ではある。しかし、それと同時にエゾナキウサギがランクアップされたことも、北海道にとっては注目すべきニュースだ。ところが北海道新聞をはじめとした北海道のマスコミは、ナキウサギについては取り上げなかったようなのだ。
その理由は恐らく環境省のプレスリリースに関係していると思われる。8月28日に発表された「報道発表資料」の、「3 注目される種のカテゴリー(ランク)とその変更理由(別添資料6より抜粋)」では「哺乳類」はニホンカワウソと九州地方のツキノワグマの絶滅しか取り上げていないのだ。
環境省はなぜランクが上がったナキウサギのことを、「注目される種」としてプレスリリースで取り上げなかったのだろうか?
これまでナキウサギは、「夕張・芦別のエゾナキウサギ」が「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されていただけで、種としてはレッドリストに入っていなかった。しかし、アセス調査などでは以前からナキウサギは希少種として特別扱いされていた。ナキウサギは実質的には絶滅危惧種と同様に認知され扱われているのである。
また、ナキウサギは本来ならとっくに天然記念物になっていてもおかしくない存在なのだが、なぜか天然記念物になっていない。このために「ナキウサギふぁんくらぶ」が天然記念物指定を求めて署名活動を続けている。
こうしたことからも今までレッドリストに取り上げられていなかったこと自体が不可解であり、軽視されていたとしか思えない。そして、今回ようやく環境省が準絶滅危惧種として認めたのだ。
ナキウサギは高山帯の生物という印象が強いが、しかし実際には低山にもそれなりに分布しており、そのような生息地が開発行為や森林伐採などによって影響を受けているのである。士幌高原道路、日高横断道路、そして大規模林道もナキウサギの生息地を破壊する道路計画だった。情けないことに、こういう大規模開発にナキウサギが絡んでいると、自然保護に消極的な環境省は絶滅危惧種に指定したくないという心理が働くのだろう。しかしこれらの道路はいずれも中止になり、足かせがなくなったのである。今回ようやく環境省がナキウサギを準絶滅危惧種に指定したのは、こうした背景も関係しているのではなかろうか。
ところで、国営美蔓地区かんがい排水事業でもナキウサギの生息地の破壊が問題になっている。加森観光が強引にスキー場開発をしようとしているサホロ岳北斜面は、大雪山系の生息地と日高山脈の生息地をつなぐ重要なナキウサギ生息地なのである。ナキウサギの生息地破壊は今も続いている。
こうした問題が浮上しているにも関わらず、北海道のマスコミはナキウサギの準絶滅危惧種指定をなんら報じなかったのだ。環境省は今ごろになってようやくレッドリストに入れたことが恥ずかしいのか、プレスリリースにも入れなかった。そしてプレスリリースばかりに頼って深く取材しようとしないマスコミは、ナキウサギのランクアップにも気がつかなかったのだろう。なんともお粗末な話しである。
最近のコメント