クモ

2025/08/31

式根島とヤマトウシオグモの思い出

 2001年8月末、私は母と伊豆諸島の式根島へ向かった。この年の8月は私はあちこちに出歩いていた。中旬にサハリンに出かけ、下旬には母が人で暮らす東京の実家に寄ってから沖縄で開かれた蜘蛛学会の大会に参加。そして再び実家にもどってきてから式根島に行こうということになった。式根島に行ってみたい、というのは母のたっての願いだった。急いで宿と船を予約し、29日の夜、竹芝桟橋初から船に乗った。夜行2泊の旅である。

 

 なぜ式根島なのかといえば、それは父が若き日にその島で何日間かを過ごし、「トベラの島」という随想を残していたからだった。大島に旅に出た父はそこでSさんという女性に出会い、彼女の実家のある式根島を訪れることになった。その旅をつづったのが「トベラの島」だ。

 

 船ではほとんど眠れないまま、30日の朝に式根島に降り立った。8月末といえばもう夏休みも終わり観光客もあまりいない。船を降りた人たちはマリンスポーツを楽しむ若者などが大半で、高齢の母と40代半ばの私はちょっと風変わりな旅行者だった。

 

 式根島は面積がおよそ3,7平方キロメートル、周囲が12キロメートルという小さな島だ。島の形はちょっと北海道に似ている。島は岩礁に囲まれており、北東に野伏港と小浜港という二つの船着場がある。台地状の島の中央から東側が市街地になっている。西側は何か所か展望台があるあだけで自然のままになっている。南北が2キロメールほどしかないので、どこでも歩いていける。

 

 朝、野伏港に降り立った私たちは、宿に荷物を置くとまずは島の南端にある地鉈温泉に向かった。「トベラの島」では「地獄」として登場する海中温泉だ。父が行った頃はこの温泉に降りる階段は岩に刻まれた狭くて急な道だったというが、今はすっかり整備されて手すりつきの階段になっていた。しかし自然の岩に囲まれた湯舟はおそらく昔とさほど変わってはいないのだろう。地熱で暖かいのか、岩の上には無数のフナムシがうごめいている。私たちは海風に吹かれながらしばしの時間をこの温泉で過ごした。父とSさんは夕暮れ時にランタンを手にこの温泉にきたというが、夜なら確かに地獄というのも頷ける。

 

 地鉈温泉を後にして入り口の道路に戻り、足付温泉への道をたどった。トベラやツバキなどの常緑樹の中の道は人通りもなく、そこここにジョロウグモが網を張って道をふさいでいる。私は、母とのんびりと歩きながら、道沿いのクモにも目を凝らしていた。照葉樹林の島には、北海道では見られないクモが多くて楽しい。レストランで昼食をとってから石白川海岸に出て、その後は東要寺という島に一つだけあるお寺に寄った。このお寺も「トベラの島」に登場するが、お墓には花を絶やさないというのが島の習慣だという。その習慣だけは保ちたかったのだろうか、今はお墓に供えられた花はすべて色鮮やかな造花になっていた。

 

 二日目は神引展望台に向かった。できれば西側(北海道の地図に見立てると渡島半島部分)をめぐる遊歩道を歩いてみたかったが、70代後半という高齢の母のことを考えて神引展望台だけに絞った。ここは島で一番標高が高いところだという。つまり、この島には山らしい山はない。展望台への歩道をゆっくりと登っていくと、眼下に岩礁海岸の素晴らしい光景が広がってくる。観光シーズンも過ぎて展望台には誰もいない。静かなひとときを楽しんでから、海岸沿いの遊歩道をたどって中の浦海水浴場、大浦湾海水浴場を回った。この二つの海水浴場は、岩礁に囲まれた天然の入江で、湾奥は美しく弧を描いた白い砂浜がある。8月末ともなると海水浴客もまばらで、私たちは静かな海辺で小休止した。

 

 私は岩礁に海岸特融のクモがいるのではないかと気になり、母を砂浜に残して海岸縁をうろついた。岩礁にはイソハエトリがいた。そろそろ帰ろうかと思ったとき、砂浜の汀線付近を歩いている一頭の雄クモが目に入った。海岸のクモに疎い私はイソタナグモだろうか?と思ったが、上顎が長くて違う感じがする。他にも同じクモがいないかと母を砂浜に待たせたまましばらく歩き回ったが(歩き回るといっても小さな海水浴場なので行ったり来たりしただけだが)、結局その一頭しか見つけることはできなかった。

 

 家に帰ってから、それがヤマトウシオグモであることを知り驚いた。ヤマトウシオグモは日本固有種で、満潮時には水没してしまう海岸の潮間帯に生息するという変わったクモだ。しかも個体数は多くない。満潮時は岩のくぼみや干潟の石の下などに住居をつくって潜んでおり、干潮時に餌を求めて徘徊するという。それまでは和歌山県の白浜が北限とされていたが、式根島での発見で伊豆諸島が北限かつ東限になった。式根島に生息しているのだから、伊豆諸島の他の島に生息していてもおかしくはない。きっと、誰にも気づかれることなくひっそりと暮らしているのだろう。

 

 そんなこともあって、式根島は思い出深い場所となった。式根島を訪ねてから13年後の2014年に母は亡くなったが、まだ母が十分に元気だったあのときに行っておいて本当に良かったと思う。母も願いが叶い、よい思い出を胸に旅立てただろうと思っている。

 

 この式根島への旅のことは、父の遺稿集「山の挽歌」のあとがきで少しだけ触れている。

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ヤマトウシオグモ色鉛筆画

 

2024/08/15

ナガコガネグモ

 庭のカボチャの葉裏にナガコガネグモが網を張っていた。北海道で見られるコガネグモの仲間(Argiope属)はこの一種だけ。成体は夏の終わりから秋にかけて見られる。このクモが見られるようになると、夏もそろそろ終わり。雄は雌よりずっと小さく地味な色をしている。体長は雌が20~25mm、雄が6~10mm。コガネグモ科。

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雌 2024年8月15日 北海道十勝地方

 

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雄 2021年8月26日 北海道十勝地方

2024/08/10

ニワオニグモ

 庭にニワオニグモの雄がいた。自宅の庭で見たのは初めて。色彩に多少の変異があるが、オレンジ色に白い斑紋が入る美しいクモ。ヨーロッパでは庭などに普通に生息しているそうだが、北海道では安定的な生息地は標高700~800m以上の山地。それ以下の場所で見られることもあるが、定着はできないようだ。私の居住地も安定的な生息地ではない。体長は雌が15mm前後、雄が10mm前後。コガネグモ科。

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2024年8月10日 北海道十勝地方

 

2024/06/25

ボカシミジングモ

 全身がほぼ真っ黒の小さなクモで、アリを専門に捕食する。クモの体の何倍もある大きなアリを吊り上げて捕食しているところを見かけることが多い。今日見かけたものは人工物に網を張っていた。体長は4mm前後。ヒメグモ科。

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2024年6月25日 北海道十勝地方

 

2024/06/19

クマダギンナガゴミグモ

 ゴミグモの仲間には腹部が銀色で黒い斑紋がある種が何種類かおり、北海道にはクマダギンナガゴミグモとオオクマギンメッキゴミグモ生息している。クマダギンナガゴミグモは腹部が長めで普通に見られるが、オオクマギンメッキゴミグモは少ない。垂直円網の中央に頭を上にして止まる。体長は7mm前後。コガネグモ科。

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雌 2024年6月18日 北海道十勝地方

 

2024/06/18

ワカバグモの交接

 今日はワカバグモの交接(交尾)を見ることができたので、その様子を紹介したい。クモの雄は触肢に精子を吸い取って持ち歩き、雌の腹部下面にある外雌器と呼ばれる生殖器に挿入して交接をする。このために、雄の触肢の先端は複雑な形態をしている。

 

橋の欄干にワカバグモの雌雄がいるのを見つけた(10:25)。右が雌で左が雄。雄は雌の後方から近づき、第1・2脚を雌に接触させている。雌の腹部の上に丸く見えているのが雄の触肢。雌に食べられないように後ろから接近するのだろう。
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しばらくすると、雄がすごい速さで雌の前に向き合うように移動し(10:27)、あっという間に欄干から落ちた。
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2頭のクモは欄干からぶら下がり、交接の態勢に入った(10:27)。雌雄が向き合い、雄は第3脚で雌の第3脚と第4脚を抱え込み、第4脚で雌の腹部後端を押さえている。糸にぶら下がったまま交接をするのが普通なのかどうかは分からないが、向き合ったと思ったら目にも止まらないような速さで落下したので、この態勢が一般的なのかもしれない。ぶら下がった態勢は、雌に捕食されるのを防いでいるようにも見える。
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雄の触肢の動きは陰になってよく分からない。雌はじっとしていてほとんど動かない(10:28)P6180010


 

すると、風が吹いてきて2頭のクモがクルクルとすごい勢いで回転し、揺れた反動で欄干の錆びた柱に触れると雌はそこに前脚をかけて静止した。雄は右(向かって左側)の触肢を外雌器に挿入しているように見える(10:30)。

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交接を終えて2頭が離れたのが10:32頃。交接の時間はおよそ5分くらいだった。

 

2023/12/30

クモの絵を描く楽しみ(エビグモ編)

 今日は、今まで描いてきたクモの標本画の中からエビグモ科のクモを紹介しようと思う。

 

 エビグモ科のクモは網を張らない徘徊性のクモで、歩脚が長く側方に伸びている。草本や樹木の枝葉、幹などに生息し扁平な体をしているものが多い。

 

【ブチエビグモ】
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色彩・斑紋には変異があり、灰白色と黒のブチ模様が鮮明なものの他、全体的に灰褐色の個体や腹部に二つの淡色斑がある個体などがいる。

 

 

【ハモンエビグモ】
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淡い灰褐色をしたエビグモで、河川敷などで見ることが多い。

 

 

【コガネエビグモ】
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茶褐色の体色をしたエビグモで、北海道ではよく見かける。

 

 

【キタエビグモ】
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私の居住地周辺ではよく見かける小型のエビグモ。

 

 

【キエビグモ】
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腹部は濃灰褐色で、淡色の小斑が並ぶ。

 

 

【キハダエビグモ】
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主に樹木の幹に生息しているエビグモ。

 

 

【ヤマトヤドカリグモ】
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草地など開けた環境に生息し、地表近くの草間などで見かける。

 

 

【スジシャコグモ】
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近縁のシャコグモに良く似るが、北海道にはスジシャコグモしか生息していない。第1、第2歩脚を揃えて植物の葉や茎などに静止していることが多い。

 

2023/12/09

クモの絵を描く楽しみ(カニグモ編)

 以前、「クモの絵を描く楽しみ」という記事で、コガネグモ科のクモの標本画を少し紹介した。その後も時間があるときにクモの標本画を少しずつ描いている。今回もまたリクエストがあったので、その後に描いたカニグモ科のクモからいくつかを選んでアップしたい(フノジグモ以外は寒冷地に多い種)。いずれもB6サイズのケント紙に色鉛筆で描いている。

 

 カニグモ科のクモは網を張らない徘徊性のクモで、長くてがっちりした第一歩脚と第二歩脚で獲物を捕らえる。花や葉などの植物上で獲物を待ち伏せるもの、木の幹などを徘徊しているもの、落葉の下などに棲んでいるものなどがいる。

 

【ヒメハナグモ】
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全身白色あるいは黄色で、腹部の肩に赤褐色の斑紋を持つ個体もある。

 

【ギョウジャグモ】
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本州の高標高地と北海道で記録があるクモで、採集例は少ない。

 

【フノジグモ】
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腹部は赤に黒い斑紋の個体のほか、黄色に黒い斑紋の個体もいる。

 

【タカネエビスグモ】
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北海道と本州の山地に生息する。腹部の色彩斑紋は変異が大きい。

 

【チクニエビスグモ】
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本州以南は山地に生息するが、北海道では平地から山地まで広く分布。

 

【ノラオチバカニグモ】
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草地などに生息するが、個体数は少ない。

 

【アトムオチバカニグモ】
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北方系の種で、採集例は多くない。

 

【ダイセツカニグモ】
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大雪山の高山帯に生息する固有種。

 

【シギカニグモ】
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日本では北海道にのみ分布。

 

【カニグモ】
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カニグモ属の基準種のため「カニグモ」という和名がつけられた。

 

2023/10/20

キハダカニグモ

 散歩から帰ったら家の壁に小型の黒っぽいカニグモの雄がいるのを見つけた。キハダカニグモだった。キハダカニグモは北海道ではあまり多くないようで、これまで居住地周辺で見たことはなかった。和名の通り、樹幹に生息し、樹皮に似た体色をしている。体長は雌が4~8mm、雄が4~6mm。カニグモ科。

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雄 2023年10月7日 北海道十勝地方

 

2023/10/19

チビサラグモ

 森林に生息するサラグモで、地表近くの低い場所にシート網を張るために、自然状態では背面からの写真がどうしても撮れない。写真の個体は倒木の脇に網を張っていたもの。体長は4~5mm。サラグモ科。

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雌 2023年6月10日 北海道十勝地方

 

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