石狩川源流部の国有林違法伐採プレスリリースの考察
北海道森林管理局は、14日に大雪山国立公園の石狩川源流部での違法伐採について、今年になってから自ら行った調査結果を公表した。以下が、プレスリリース。
上川中部森林管理署管内国有保安林における森林法違法行為について(PDF)
これによると、今年行った調査は伐採予定区域内とそれに隣接する森林での全伐根の調査と集材路の再確認、請負業者からの聞き取りと関係書類の確認とのことだ。現地はかなり広大(北海道新聞の報道によると約130ヘクタール)で起伏があり、場所によってはササが深く生い茂っているため、全伐根の調査は容易ではない。相当数の職員によって何日もかけて行われたのだろう。北海道森林管理局は、昨年の秋の時点では「調査しない」と言っていたのだから、このような時間と人手をかけた調査を行ったことは大きな前進といえる。
報告によると、越境伐採は合計で437本(220立方メートル)だ。昨年の調査では越境伐採は77本(区域外伐採52本、土場作設の際の伐採25本)だったのだから、昨年はきわめていい加減な調査しかしていなかったということだ。また違法に開削された集材路の長さは13,753メートル、すなわち13.753キロメートルであったことを認めた。昨年の調査では12.214メートルだったので、1.539メートルの新たな違反が確認されたことになる。なお、土場の新設は0.41ヘクタールの超過で、これは昨年の調査結果と変わらない)。
越境伐採と知事の同意を得ていない集材路や土場の新設については、森林法第34条第1項第9号及び同条第2項第6号違反に当たると認めている。当然のことだ。ただし、このような違法行為が行われたことの原因の説明については首をひねってしまう。
越境伐採については業者の作業員が越境していることを知りながら土場に近い場所で立木を集中的に伐採していたというのだ。しかし、昨年自然保護団体が指摘した越境伐採の場所は土場とは程遠い一番奥の場所だったのだから、この説明とは合わない。越境伐採の伐根のあった地点を落とした地図を提示すべきだ。それに業者が勝手に土場に近い場所で集中的に越境伐採したということなら、森林管理局の職員が境界を越えて収穫調査をしたということにはならないし、支障木にも当たらない。この違法に伐採された木は盗伐にはならないのだろうか? 森林管理局の理由はにわかには信じられない。
では、伐採予定区域内での伐採はどうだったのか。報告によると、その超過分の合計は1,565立方メートルだ。仮に1本が1立法メートル(胸高直径が36センチのトドマツの材積はおよそ1立法メートル)として本数に換算したなら1,565本になる。販売木ではない木をどれほど大量に伐ったのかがイメージとして分かるだろう。
不思議なことに、全伐根の調査をしているのに確認した伐根の本数がまったく記載されていない。越境伐採については本数を出しているのに、なぜ伐採予定区域内の調査結果では本数を隠しているのだろう。自然保護団体が8月に一部の林小班で調査したときには本数で4.6倍も過剰に伐っていたことが分かっている。この地域では7903本が伐採予定木だったので、過剰伐採の本数は万単位の数になるのではなかろうか。
この伐採予定区域内での過剰伐採は「盗伐(森林窃盗)疑惑」と関係してくるために極めて重大な問題だ。この調査報告では主な原因を「請負業者が支障木(伐倒作業や集材路作設の支障となるために伐倒する立木)を上川中部署の監督職員等に断り無く伐採したことが共通の原因となっています」としている。本来、支障木が発生する場合は森林管理署に届け出なければならないのだが、それをしなかったというわけだ。
しかし、この理由もかなり苦しいと言わざるを得ない。自然保護団体の調査ではナンバーテープのない伐根(販売木ではない)は細いものから太いものまで様々であり、支障木と思われるものがあったことは否定しないが、直径が5、60センチもある太い木も多数伐られていたことを確認している。売ったならかなりの収益になるだろう。だから網の目のように集材路を張り巡らせて販売木以外の木を多数伐採したのではなかろうか。
また、その他の理由として「請負事業者の現場作業員が自らの判断で、土場から遠い箇所の伐採予定木の一部を伐採しない代わりに近い箇所にあった伐採を予定していない立木を伐ったり、伐採予定木であることを示す番号札を別の太い立木に付け替えて伐採するという、自らの作業負荷を不正に軽減するためと考えられる悪質な行為を行っていました。」としている。土場から遠いところにある木のナンバーテープをはがしてきて、土場の近くの立木に付け替えるなどという話しは聞いたことがない。これが事実なら伐根に残されたナンバーテープの色・番号とその位置から立証できると思うのだが、裏付けるデータは公開されていない。
過剰に伐られたのが支障木だとしても(私はそうは思わないが)、土場に運ばれて販売されたはずだ。とすると収穫調査で算出された材積より、土場に積み上げられて販売された丸太の材積の方がはるかに多くなるはずだ。ところが昨年の秋の現地説明会では、土場に出された木の材積は収穫調査の材積とほとんど変わらないと言っていたのだ。あの説明は今回の調査結果と矛盾する。森林管理局の言うように両者の材積の差が大きくないということなら、過剰伐採分の材がどこかへ消えてしまったことになる。ここで何らかのからくりによって盗伐が行われているという疑惑が生じるのだ。だから、具体的な数値まで公表し、納得できる説明がなされなければならない。
これほどの過剰伐採は、市民の目から見れば盗伐としか思えないのだが、その可能性については一切触れていない。森林管理局の理由づけは、なんとか盗伐以外の理由で済ませたいという意図がうかがえるのである。得られたデータを棚に上げ、かなり頭をひねって「原因」を考え出したのではなかろうか。
また報告では業者、職員の不正を認めて処分を明記しているのだが、その具体的処分内容には触れていない。軽くすまされる問題ではないだろう。
林野庁が自ら大掛かりな調査を行って不正を認め、業者と職員の処分を決めたことは自然保護団体の活動の大きな成果であり評価できる。しかしこの報告は不完全であり闇に包まれた部分がかなり残されている。国立公園の森林の生物多様性を破壊した反省も書かれていない。今後はこれらの点について問いただしていかなければならないだろう。
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