雌阿寒岳噴火に備えた避難道路建設は無意味
昨日、雌阿寒岳の噴火警戒レベルが2になった。11日から火山活動がやや活発になっているためだ。活火山では噴火警戒レベルによって立ち入り禁止や避難などの対応が定められている。噴火警戒レベル1は通常の状態であり(活火山であることに留意)、2は火口周辺規制。3は1-4に分かけられていて、雌阿寒だけの場合、3-1で登山規制とオンネトー観光自粛、3-2でオンネトー観光中止、雌阿寒温泉避難となっている。つまり、ごく小さな噴火が発生しレベル3になった時点で、オンネトーの観光は実質中止となるというのが現状での対応だ。
以前にも指摘したが、雌阿寒岳が噴火した際に避難路が必要だとして、北海道はオンネトーの南端から螺湾方面に抜ける道路の建設を計画している。ここには未舗装の道道モアショロ原野螺湾足寄停車場線があるが、狭くてカーブの多い砂利道では速やかに避難できないために新たに二車線の舗装道路を開削するというのだ。この道路開削は盛土や切土が必要となり、およそ40メートル幅にわたり森林が切り開かれることになる。そして、さらに問題なのは、この一帯には風穴地があり希少なコケなどが生育していることが自然保護団体の調査で分かってきた。避難道路の開削は、この阿寒富士西麓に広がる風穴や植生に大きな影響を与えるのは間違いないだろう。当然、自然保護団体はこの道路建設に反対している。
前述したように、噴火警戒レベル3になればオンネトー周辺には観光客はだれもおらず、避難路をつくったところで避難する人などいない。それにも関わらず避難道路が必要だというのが建設主体の北海道の言い分だ。そこを問うと、噴火は必ずしも段階的に起きるのではなく突然起きる可能性があるからだという。つまり、レベル1やレベル2であっても、湖畔に被害が及ぶような噴火が起きる可能性もあるので避難路が必要だという主張だ。
それならレベル2でオンネトー観光を中止すればいいだけの話だ。そもそも、噴火警戒レベルが2になってオンネトー観光を禁止したところでなんの問題もないし、レベル2で観光を自粛する人も多いだろう。予防原則の観点からも、早めに立ち入り禁止にしたほうが被害防止になるのは言うまでもない。御嶽山の噴火でも火山性微動が観測された時点で火口周辺の立ち入りを禁止していたなら、被害者は出なかっただろう。
もしレベル1(通常の状態)から何の前触れもなくオンネトー湖畔にいる人に被害が及ぶような噴火が起きるかもしれない、と主張するのであれば(常時観測している火山でその可能性は極めて低いと思うが)、それは火砕流や泥流、噴石などが湖畔まで及ぶということであり、そもそも避難道路があったとしても避難する時間的余裕はない。だからこそ、噴火警戒レベルに応じて立ち入り禁止の範囲を決めているのだ。
この避難道路ははじめから必要がないものに他ならない。多額の税金をつぎ込み、自然を破壊するだけだ。私は、観光道路を整備したい人たちが避難道路にかこつけてこの道路建設を働きかけたのではないかと推測している。一度動き始めた公共事業を止めるのは困難だが、この道路ほど無意味なものはないと思う。
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