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2024/07/15

足るを知る

 斎藤幸平さんの「人新世の『資本論』」はベストセラーとなりかなりの部数が売れたようだ。とは言うものの、やはり大多数の人たちが今も資本主義を支持し、経済成長を支持しているのが現実だろう。つい先日も、脱成長を批判する投稿をX(旧ツイッター)で見かけた。

 

 いったいなぜ、そんなに資本主義や経済成長に頼りたい人が沢山いるのだろうか? ソ連や中国の社会主義がダメだったから資本主義しかないと思っている人も多いのかもしれないけれど、だからといって経済成長を続けなければならない理由にはならない。ちなみに斎藤幸平氏は、「20世紀に社会主義を掲げた国の実態は労働者のための社会主義とは呼べない単なる独裁体制にすぎなかった。それは資本家の代わりに党と官僚が経済を牛耳る『国家資本主義』だったのです」と「ゼロからの『資本論』」で書いているが、私もその通りだと思う。

 

 私たちの住む地球は、人類によって大きく破壊されてしまった。原生林は次々と伐採され、湿地は埋め立てられ、人の手の加わっていない自然はどんどん無くなっている。自然破壊に伴って多くの生物が絶滅したり絶滅の危機に立たされて生物多様性が破壊されている。

 

 海も陸地も大気も化学物質で汚染され、その汚染物質を体内に取り込んだことで生物も汚染されている。私たち人間は紛れもなくこの地球上の生態系の一員であり、自然環境がなければ生きていけない。自然によって生かされている存在だ。そして、すでに人類の危機は始まっている。それなのに、経済成長、経済成長といって自然を破壊し、環境汚染を続け、自然を蝕んできた。経済成長とはいずれ自分達の首を絞める行為に他ならないのに、なぜそんなに経済成長に捉われてしまうのだろう?

 

 それは「足るを知る」という精神を忘れてしまったからではなかろうか。

 

 長く生きていて実感するのは、人が生きていくために必要なものはそれほど多くはないということ。しかし、次から次へと物をつくりだしては捨てるという資本主義によって、私たちは不要なものまで大量に所有するようになってしまった。私自身も例外ではない。少しずつ物の整理をしてきたが、なぜこれほど物を溜めてしまったのかと思う(もらいものが多いのだが)。

 

 そんな生活に慣れた結果、「毎日同じ服を着ているわけにはいかない」とか、「新しい機種が出たから買い換えよう」というような思考になってはいないだろうか?

 

 人の欲とは際限がないもので、店先に素敵な衣類が売られており金銭的に余裕があれば衝動買いをしてしまうこともあるだろう。しかし、その結果は大量の衣類を所有することになり、古い(といってもまだまだ十分に着られる)ものを処分するようなことになってしまう。私たちの生活はこうやって資本主義によって大量に作り出された「商品」に振り回されている。

 

 しかし、欲しい物を手に入れることができたところで、嬉しいのははじめのうちだけで、大抵はすぐに「もっといい性能のものが欲しい」「新しい製品が欲しい」という欲望が湧いてきて際限がない。そして、物質的な豊かさが、人の幸福感と結びついているわけではない。お金を持っていれば安心感はあるかもしれないけれど、しかし、お金持ちが幸福とは限らないし、質素な暮らしをしていても精神的に安定して幸せな人は沢山いるだろう。むしろ、精神的に安定している人こそ、物に執着しないのではないかと思えてくる。

 

 狩猟採集生活をしている民族は今も少数いるが、まさに「足るを知る」という生活を続けている。もともと生物というのはそういう暮らしをしてきたからこそ現代まで生き延びてきたはずだ。

 

 「脱成長」というと、「江戸時代の生活に戻る気か?」と言い出す人がいるが、何も今の利便性をすべて手放して昔の生活に戻れなどとは言っていない。本当に必要なものだけを生産し、生み出した商品はできるだけ平等に分けてなるべく長く使うような社会に転換していけばいいだけだ。もちろん簡単ではないけれど、そういう方向転換をしない限り、地球は持たない。

 

 人類は、もういい加減にこのことに気づいていいのではないか? 資本主義に毒された人たちに必要なのは、まさに「足るを知る」という精神だと思う。

 

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