日高山脈一帯の国立公園の名称に「十勝」を入れる愚
日高山脈襟裳国定公園が国立公園に昇格することになった。昇格にあたって面積が倍以上になる。この国立公園の名称について、2月22日に開催された環境省の中央環境審議会自然環境部会は「日高山脈襟裳十勝国立公園」とする環境省の原案を了承した。まだ確定ではないが、5月に予定されている審議会の答申を経て6月には確定する予定になっている。
この国立公園は日高山脈一帯を指定区域とし、南は襟裳まで伸びている。日高山脈は「十勝」と「日高」にまたがる山脈で、稜線の東側が十勝管内、西側が日高管内になる。また襟裳は日高管内に含まれる。
「十勝」は1市16町2村で構成される広域行政区の名称で、広大な地域を指す。この広大な地域のうち、この国立公園に含まれる「十勝」部分は山脈の東側と襟裳から続く広尾町のごく一部の海岸しかない。そして日高山脈の東側は「日高山脈」という固有名詞に内包されている。これら以外に「十勝」に含まれる地域はない。
日高山脈以外に「十勝」はほぼないわけで、この国立公園の名称に「十勝」を加える意味も理由も見いだせない。なぜこんなことになっているのかというと、「十勝」を入れるか入れないかについて複数の団体が要望をしてきたという経緯がある。
名称に「十勝」を入れることを要望してきたのは、十勝圏活性化推進期成会、日高町村会、十勝・日高地方の13市町村の首長だ。
他方で「十勝」を入れないように要望してきたのは十勝自然保護協会、北海道自然保護連合、北海道自然保護協会、北海道勤労者山岳連盟、日高町村議会議長会。
さらに、環境省が実施したパブリックコメントでは名称について14件の意見があり、いずれも「十勝を入れない」という意見だった。
このように意見が分かれる中で、環境省は中央環境審議会自然環境部会において、地元自治体の要望を尊重するとして「日高山脈襟裳十勝国立公園」という原案を提示した。しかも、この審議会にはオブザーバーとして地元自治体の二人が参加し、意見まで述べた。また委員には関係市町村の要望書のみが配布され、自然保護団体などからの要望書は配布されなかった。委員からは「十勝」を入れることに反対する意見も述べられたが、最終的に多数決で環境省の原案が了承される形になった。つまり、賛否両論がある中で「十勝」を入れる原案に誘導するような議事進行がなされたというのが実態だ。しかも、パブリックコメントで出された意見は反映されることもなかった。
環境省は、地元自治体の要望を尊重したいというが、「地元自治体の首長の意見=地元の人たちの意見」ではない。それに、国立公園なのだから、道民はもとより国民の意見を尊重するべきではないか。なぜ地元首長の意見を尊重するのかさっぱり分からない。
「十勝」を入れるように要望していた地元自治体の首長の目的が何かといえば、「十勝」の知名度を高めて観光につなげたい、ということでしかない。しかし、名称に十勝を入れることで観光客が増えるとはとても思えないし、そもそもそんな発想自体が「卑しい」と思えてならない。そんな自分勝手な首長らの意見をそのまま原案に取り入れてしまう環境省も見識が問われる。
国立公園の名称はその地域を端的に表すものであるべきだし、短い名称に越したことはない。観光客にとっても短い方が覚えやすいし分かりやすい。むしろ、実態に合わない「十勝」を加えることで、多くの人が混乱するだろう。
はっきり言っておきたい。意味不明の「十勝」を入れた名称など迷惑だ。みっともないし、恥でしかない。
なお、十勝自然保護協会は今回の審議会の進行が極めて公平性を欠くものであったとして、環境省に質問および要望書を提出し、再審議を求めている。
日高山脈襟裳国定公園の国立公園化に伴う名称について環境省に質問および要望書を送付
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