蝶と蛾
「蝶は好き(あるいは平気)だけれど、蛾は嫌い」という人は多いと思う。私も子どもの頃は、蝶は大好きだったけれど、蛾はあまり好きにはなれなかった。蝶は捕虫網でよく捕まえたし、夏休みには昆虫標本を作ることもあった。しかし、蛾にはあまり興味が湧かない。嫌いとか気持ちが悪いというほどではないのだけれど、手で触るのはちょっとためらわれた。
蝶ならば翅を揃えて上縁を持ったり、胴体をそっと持てばいいが、蛾の場合、蝶のようには扱えない。鱗粉が多くて暴れると手が鱗粉だらけになるし、胴体は太くてあまり持ちたいと思わない。つまり、採集をして標本を作ろうという気になれない。しかも種類が多すぎてよほど特徴的なものでない限り、素人が種名を調べるのも困難だ。
小学生の夏休み、木の茂みに大きな蛾が飛び込んだのを目にした。恐る恐る捕虫網で何とか捕まえると、ヤママユガだった。黄土色の翅に目立つ目玉模様のヤママユガは魅力的ではあるのだけれど、雰囲気は明らかに蝶とは違う。あの大きな蛾を採集したのは嬉しかったものの、結局、標本にしたいとは思えずに逃がしたことがあった。子どもの頃は蝶と蛾を別物という感覚で区別していたし、蛾はやはり苦手だった。大人になってから蛾の標本を作ろうとチャレンジしたこともあるが、鱗粉を落とさないように展翅するのが大変で、すぐに断念してしまった記憶がある。
昆虫採集が趣味の人も、蝶が好きな人と蛾が好きな人に分かれることが多い。そして圧倒的に「蝶好き」が多いように思う。やはり、どこか違うものを感じるのだろうか。蛾は種類が多くて同定が困難というのも関係しているのだろう。根気がないととても種名を調べる気にはなれない。かなりマニアックな世界だと思う。しかし、ライトトラップ(照明を用いて光に引き寄せられて集まってくる虫を採集する方法)で採集しやすいといのは利点かもしれない。
私は3年前から散歩がてら昆虫の写真を撮るようになり、昨年から蛾の写真も積極的に撮るようになったのだが、いろいろな蛾を見ているうちに、蝶と蛾について随分思い込みがあると思うようになった。蛾のイメージは、夜行性、鱗粉が多い、胴体が太い、色彩が地味なものが大半、という感じだったが、それがだいぶ変わった。蛾の中には昼間に花の蜜を吸っていてまるで蝶のようなものもいるし、鱗粉もそれほど多くないものもいる。胴体も蝶と変わらないようなほっそりしたものもいるし、色彩も赤やオレンジ色などカラフルなものもいる。じっくりと見るととても美しいものが少なからずいる。斑紋も「どうしてこんな複雑な模様をしているのだろう?」と感心してしまうものも多い。小さいのに、金色や銀色に輝く斑紋を持つものもいて目を見張ってしまう。蛾の世界はとても奥深い。
そして、「蝶と蛾」を明確に区別できる形態的特徴はないということも知った。結局、蝶も蛾も「鱗翅目(チョウ目)」という一つのグループに属しているというだけで、圧倒的に蛾が多い。鱗翅目の中の一部を蝶と言っているだけなのだ。そのあたりのことは、以下の記事を参照していただきたい。
このブログではこれから蛾もいろいろ紹介していきたいと思っている。蛾が嫌いだという人はスルーしていただきたいが、できれば蝶と同じ仲間の生き物として、興味を持ってもらえると嬉しい。「蛾は気持ち悪い」という思い込みを外すことができれば、今まで見えなかったものも見えてくるのではないかと思う。
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