河合雅雄さんを悼む
今日の新聞で、霊長類の研究者として知られる河合雅雄さんの訃報を知った。
河合雅雄さんのことは著名な霊長類学者として若い頃から名前だけは知っていたが、著書を読んだのはだいぶ後になってからだ。草山万兎のペンネームで「子どもの本」(日本児童図書出版)に「私の博物誌」として連載していたエッセイが目に留まったのだが、後に草山万兎が河合雅雄さんであることを知った。それをきっかけに買って読んだのが「少年動物誌」だった。本書で河合さんの少年時代のことだけではなく文学者としての側面を知った。
この本をきっかけに河合さんの本は10冊以上は読んだと思う。中でも私が好きなのは「小さな博物誌」なのだが、これは前述した「子どもの本」に連載したものを書き直して一冊の本にまとめたものだ。少年時代の自然を舞台にした体験と動物学者になってからのエッセイなのだが、読んでいるだけで情景が脳裏に浮かび上がってくる。子どもたちが自然の中で遊びまわる生活はかつてはどこにでもあった日常風景なのだろうけれど、今となってはどれほど貴重なものかと改めて考えさせられる。
最後の2章は特に印象に残っている。「森の幻視境」はウガンダの森で蝶の採集に出かけたときのエッセイ。研究の休みの日を利用し、いい歳をした大人が捕虫網を持って原生林に蝶の採集に出かけて4種もの珍種を一挙に網に入れたときのことを書いたものだ。私も子どものころは虫捕りが大好きだったので、彼の心の動きや感動が手に取るように分かる。描写も素晴らしく、虫好きなら誰もが感動を共にすることができるだろう。
最終章の「メルヘンランドでの再会」は、ゲラダヒヒの研究をしていたエチオピアのセミエン高地を再訪し、かつて観察していたヒヒたちと再会したときの話。河合さんの呼びかけに応えて現れたヒヒの群れ。彼はヒヒたちの名前を思い出し、ヒヒたちも警戒を解く。そして、孤児のアテグとの握手。種を越えた人と動物との心の交流に、何とも言えない暖かい気持ちになる。
人と自然の関わりだけではなく戦争についても問い続けた動物学者だった。ご冥福をお祈りしたい。
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