原発事故から10年
今日で東日本大震災から10年になる。10年前のあの異様な揺れは今も忘れられない。北海道はそれほど大きな揺れではなかったが異様な長さの地震で、震源地は近くなくても大きな地震に違いないと直感した。プレート境界に位置する日本は太古から大地震や大津波に襲われてきた。しかしマグニチュード9という大地震はそうそう起きるものではなく、観測史上最大級の地震だ。海辺の街に襲い掛かる大津波の映像を見て、その自然の猛威に人々は逃げることしか術がないと実感した。
それでも地震や津波の被害だけなら日本人は何度も立ち直り復興を果たしてきた。自然災害は無くすことはできない。過去の自然災害の教訓を生かし、被害を減らす努力をするしかない。
しかし、忘れてはならないのは人災だ。東北地方太平洋沖地震とそれによる巨大津波は4基もの原発の爆発を引き起こし、世界中に大量の放射性物質をまき散らした。その事故は今も継続中で、廃炉の目途さえ立っていない。これは地震大国に原発を作ったことによる人災だ。頻繁に大地震や大津波に襲われてきた国に原発を建てたなら、いつかはこういうことになるのは誰にでも想像できる。だからこそ全国で原発に反対して裁判が起こされた。しかし、政権におもねる裁判官はことごとく原告の主張を退けてきた(一部原告勝訴の判決が出ても、上訴で覆された)。
では、福島の原発事故を経験してこの国は何か変わったのだろうか? 私にはほとんど変わっていないように見える。福島県では小児甲状腺がんが多発した。転移している事例も多く、医師が手術が必要だと判断した進行がんだ。ところが、これに対しては「過剰診断によって良性のがんを見つけているだけ」という主張がなされ、国連までもが同じような評価をしている。チェルノブイリの事故で認められた小児甲状腺がんは、福島ではその因果関係すら否定されようとしている。その前提に被ばく量の過小評価がある。これについては「study2007」さんが「見捨てられた初期被曝」で指摘しているが、studyさんの指摘もスルーされている。
被曝の過小評価といえば、宮崎・早野論文がある。東大名誉教授によるスキャンダルとも言える事件だが、マスコミは大きく取り上げることはなかった。これについてはこのブログでも過去に取り上げてきたが、早野氏は黒川氏の指摘に対して回答をしていない。以下、参考記事。
爆発によって放出された放射性物質は、福島県だけではなく首都圏にまで降り注いだ。原発事故による内部被ばくによってがんその他の病気になったとしても、因果関係の証明はまずできないだろう。事故後の病気の発症率に有意差が出たとしても、個々の病気が被曝由来だという判断はほぼ不可能だ。それを良いことに原子力ムラとその利権関係にある人達によって、原発事故の過小評価が繰り広げられているというのがこの国の実態だ。
復興を目指して放射性物質で汚染された土壌が大量に発生した。環境省は何とこれらの汚染土の再利用を進めようとしている。タンクに貯まり続ける汚染水も海洋放出が検討されている。汚染されたものは拡散させないという原則すら無視だ。
チェルノブイリの原発事故は石棺によって一応の収束を見た。しかし同じレベル7である福島の原発事故は10年たった今も継続していている。使用済み燃料プールの燃料の取り出しも2基で終わっただけで、1号機と2号機は手が付けられていない。溶け落ちた核燃料などいつ取り出せるのかも分からない。汚染水も貯まる一方だ。被曝による健康被害がチェルノブイリより少なかったのは、単に放出された放射性物質の大半が風によって太平洋側に流れたという幸運があったからに過ぎない。事故としては福島の方がはるかに深刻だ。
原発事故という人災については原因究明もその被害も責任もことごとく曖昧にされ、人々が忘れ去るのを待っているかのように見える。しかし、福島第一原発の現場では今も、そしてこれから何十年も事故は継続中だ。避難した人々にとっても以前の日常は戻らない。
福島の原発事故を受け、脱原発を決めた国がある。その一方で、当事国の日本は未だに原発を稼働している。あの事故のあと、原発に対する国民の意識は大きく変化し、多くの国民が「将来的に、或いはすぐに原発ゼロにすべき」と考えるようになった。しかし、自民党政権や経済界は今も国民の声を無視して原発にしがみついている。この違いは何なのだろう?
あの大事故を経験しそれがまだ継続中だというのに、10年経ってもこの国の原子力をめぐる利権構造も無責任体質も何も変わっていない。それは政権や原子力ムラだけの問題ではない。原発事故はもうこりごり、原発ゼロに向かうべき、と思っている国民が多いにも関わらず、選挙になれば自公政権が圧勝を続け、脱原発を掲げる政党は支持が伸びない。あの事故を経験したにも関わらず、選挙に行かず自民党圧勝を許している人達は相変わらず多い。脱原発に舵を切れない責任は私たち国民一人ひとりにもあるのだ。
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