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2019/05/29

新葉を噛み切る小蛾類の不思議(1)

 今年も新緑の季節が巡ってきた。そして新葉がハラハラと舞う季節になった。

 5月22日付の北海道新聞夕刊「科学」のコーナーに、北海道博物館の堀繫久さんによる「葉の落下傘で地上へ」という記事が掲載されていた。ウラキンシジミという蝶の幼虫が、アオダモの小葉を食いちぎって地上に落下し、その葉を食べて葉の下で蛹になるという話だ。

 私はウラキンシジミのことは知らなかったのだが、昨年の新緑の季節にこれと同じことをする蛾に気づいた。

 昨年の5月下旬、みずみずしい新葉が開いたばかりのイタヤカエデから、青々とした新葉がハラハラと何枚も落ちてくる光景に出会った。開葉したばかりだというのに、なぜこんなに葉が落ちてくるのだろうか? 疑問に思い落ちてきた葉を拾って良くみると、どの葉にも蛾の幼虫らしき小さな幼虫がついている。どうやら新葉の葉柄を噛み切って落としているらしい。この小さな幼虫は、地面に落下してから葉脈に沿って葉を綴り、体を隠してしまう。

 

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 はて、何の幼虫だろう? こんなに沢山落ちているのだから、きっと「イタヤカエデ 蛾 幼虫」でネット検索でもすれば種名が分かるだろうと思ったのだが、検索してもそれらしき昆虫は出てこない。気になったので、知人の蛾の研究者に連絡をするとさっそく見に来られた。ミクロレピ(小蛾類)の幼虫だというが、飼育しないと種名は分からないという。そこで、5月30日に幼虫のついた葉を拾い、飼育してみることにした。

 この幼虫はイタヤカエデの葉をつづって中に潜みながら、葉を食べていく。蛾の幼虫の飼育はしたことがなく、拾った葉が乾燥して死んでしまう幼虫がいたので途中から水分を補うようにしたら、今度は葉にカビが生えたりと、慣れないことをやるとなかなか上手くいかない。容器を洗って新しい葉を入れたり、新たに幼虫のついた葉を拾ってくるなど、ちょっと手間取った。ハチに寄生されている幼虫も何頭かいたが、残った幼虫は次第に大きくなって6月19日に繭をつくった。繭は葉を楕円形に齧り、それを二つ折りにした中に作る。

 

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 こちらは容器と葉の間に作った繭。
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 6月24日に蛹化。繭をつくってから4、5日ほどで蛹化するようだ。

 

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 そして7月13日になってようやく成虫が出てきた。

 

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 もちろん私には種名が分からない。蛾はとても種類が多いうえ、ミクロレピと言われる小蛾類の分類はとても難しい。ミクロレピが専門ではない知人も分からないとのことでミクロレピの専門の方に成虫をお送りし、ミドリモンヒメハマキと教えていただいた。

 飼育してみて分かったのだが、幼虫が必要な餌の葉は噛み切った葉1枚で足りるようだ。ウラキンシジミ同様、新葉を噛み切って落下傘にして地上に降り立ち、その一枚の葉で育ち繭もそこに作る。小さい蛾だからこそこんな芸当ができるのだろう。

 さて、この蛾の幼虫はなぜ葉を噛み切って落としてしまうのだろう? 樹上で葉を食べて蛹化しても良さそうなものだが、そうせずに餌の葉ごと落下するのは何か理由があるに違いない。

 知人によれば、蛾の幼虫がまだ有毒物質を蓄えていない新葉を食べるために葉を切り落とすのではないかとのことだった。十分ありえることだと思う。これは私見だが、樹上よりも地面に落ちてしまったほうが野鳥などに見つかりにくくなるということもあるかもしれない。

 ウラキンシジミと同様にこの蛾も樹木の葉を餌としながら地上で蛹化し羽化することを選択したということだが、実はその後、このような生態を持つ蛾をほかにも見つけることになった。(続く)

新葉を噛み切る小蛾類の不思議(2)

 

 

 

 

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