えりもの森裁判(1審の差し戻し審)を終えて
11月はじめに右手首を負傷してしまいブログの更新をさぼっているが、10月17日発行の「ナキウサギつうしん84号」(ナキウサギふぁんくらぶの機関紙)に寄稿したものをアップしておきたい。原稿を書いた時点ではまだ判決が出ていなかったのだが、判決では原告らの請求は棄却されてしまい控訴した。したがって、この裁判はまだ続くことになった。
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えりもの森裁判(1審の差し戻し審)を終えて
6月5日、「えりもの森裁判」の1審差し戻し審が結審し、10月2日に判決が言い渡されることになった。記録をたどれば、提訴は2005年の年末。あれから13年目にようやく終結を迎えた。提訴した当時は数年で終わると思っていたので、まさかこんなに長期間にわたるとは思いもよらなかった。後半には提訴したのがいつだったのか、そしてどんな経緯をたどったのかも忘れてしまうくらい長い裁判だったが、今となると感慨深い。
提訴のきっかけは2005年の秋。ナキウサギふぁんくらぶの市川利美さんから、えりもの道有林の一部が皆伐されているとの情報が寄せられた。この地域一帯は希少な動植物が生息しており、私たち自然保護団体のメンバーが大規模林道の調査で何度も足を運んでいたところだ。現地に出かけてみるとこれまで針葉樹と広葉樹で覆われていた場所がぽっかりと切り取られたように伐採されて景色が一変していた。そればかりか、ナキウサギふぁんくらぶが確認していたナキウサギ生息地までも集材路で壊されている。
北海道は平成14年から木材生産のための伐採はやめ、森林の公益的機能を重視した森づくりにすると宣言したはずだったのに、どうして皆伐されているのか? 情報開示請求により伐採に関する資料を取り寄せて分かってきたのは、この皆伐が「受光伐」とされていることだった。「受光伐」とは、下層木の成長を促進させるために抜き伐りをする伐採方法だ。ところが実態は紛れもなく「抜き伐り」ではなく「皆伐」。そして伐採跡地にはトドマツの苗木が植林された。生物多様性の豊かな天然林をトドマツの人工林にしてしまったのだ。
この皆伐やナキウサギ生息地の破壊は森林のもつ公益的機能を損なっており北海道の条例や生物多様性条約に違反するのではないか? そんな疑問から市川守弘弁護士、ふぁんくらぶ代表の市川利美さん、そして私の3人が北海道の監査委員に対して住民監査請求を経て始まったのが「えりもの森裁判」だ。原告らは、違法な伐採により森林のもつ公益的機能を損ねたことによる損害と、過剰な伐採による道有財産への損害を主張した。
裁判の長期化の最大の要因は1審の不当判決と被告である北海道の抵抗だと私は思っている。現場に通って調査を重ねた私たちから見たら、過剰な伐採が行われたことで北海道の財産である森林が損害を受けたことは明らかだった。原告らの主張をまったく認めず違法性の判断すらしなかった1審はどうみても不当判決であり、1審への差し戻しを命じた高裁の判決はまっとうなものだったと思う。それにも関わらず、被告の北海道は最高裁に上告した。最高裁も高裁の判断を支持して地裁に差し戻しをしたわけで、北海道の対応は時間稼ぎではないかと思わざるを得ない。
裁判の出発点は皆伐が森林の公益的機能を損ねたということだったが、終盤では過剰な伐採による財産としての損害に焦点が絞られた。公益的機能の損害は認められなかったものの、森林を財産とみなしてその管理のあり方を問う裁判はこれまでに例がなく、自然保護の観点からも注目される裁判だと思う。
思い返すと、「えりもの森裁判」はこの後に展開された北海道の森林伐採問題への取り組みの第一歩だった。これを皮切りに、私たち自然保護団体は上ノ国町のブナ林の違法伐採、十勝東部の伐採による自然破壊、大雪山国立公園幌加地区の風倒木処理を名目とした皆伐、石狩川源流部の違法伐採など、違法伐採や大きな自然破壊を伴う伐採問題に取り組むことになり、それなりに成果を上げることができた。
これまでも違法伐採の話しはいろいろ耳にしたが、一般の人が立ち入ることのない山の中では森林管理者と業者が癒着して違法伐採を行っていても誰も確認できず見過ごされてきた。「えりもの森裁判」の大きな意義は、こうした違法伐採に歯止めをかけることだし、それは一定程度の成果を上げたと思う。
このあと控訴や上告とさらに続く可能性もあるが、まずは13年もの長きにわたり尽力してくださった弁護団の先生方にこの場を借りてお礼申し上げたい。
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