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2016/10/26

労基法を守らせないとブラック企業はなくならない

 電通に入社し一年足らずで自殺に追い込まれた高橋まつりさんの労災認定は、大企業で平然と行われている長時間労働やパワハラを浮き彫りにした。

 こういう痛ましいニュースを聞くたびに、社員をこきつかって死にまで追いやる日本の経営者の歪んだ思考について考えざるをえない。そして、こんな企業が大企業としてもてはやされている現実に震撼とする。

 健康な生活があってこそ、人は能力を最大限に発揮できる。朝から晩まで社員を奴隷のごとくこき使い休日も与えないような会社は、社員を会社の利益のための道具としか思っていないのだろう。大事な働き手である社員の心身の健康を大切にしてこそ、企業としての業績もあげられるし誇りを持てるのだと思うが、日本の経営者にそういう考えの人がいったいどれほどいるのだろうか。

 そもそもこの国では労基法が完全に形骸化している。労基法では、原則として一週間40時間(労働時間は特例措置対象事業場では44時間)を超えて労働させてはならないと定めている。一週間に5日勤務の場合は一日8時間を超えて働かせてはならないということだ。このような労働が当たり前であり前提であるにも関わらず、定時に帰れる職場はいったいどれほどあるのだろう。

 事業者が労働者に残業や休日労働などの時間外労働をさせる場合は、労組(労組がない場合は労働者の過半数代表)と36(サブロク)協定を締結して労働基準監督署に届け出なければならず、その協定で定められた範囲内の残業しか認められない。ただし、36協定を結んでいても時間外労働には上限があり、一か月で45時間、一年では360時間となっている。

 高橋さんの遺族の弁護士が入退館記録を元に集計したところ、月130時間を超えることもあったという。上限の2~3倍の残業をしていたことになるから無茶苦茶だ。電通に関しては労基法の無視がまかり通っているだけではなく、パワハラもあったとされている。これでは心身の健康が損なわれないほうが不思議だ。

 電通がとんでもないブラック企業であることは間違いないが、この国にはこういう苛酷な労働を強いている似たり寄ったりのブラック企業が数えきれないくらいあるのだろう。

 それにしても労働者はなぜ自分の健康より仕事を優先して無理をしてまで自分を追い詰めてしまうのだろう。労基法を知らないのだろうか? 知っていても、抗議したら嫌がらせをされるだけとか、どうせ改善などされないと諦めているのだろうか?

 日本人はとかく同調意識が強く、同僚が残業をしているのに一人だけ定時に帰ることに罪悪感をもつ人が多いのではないかと思う。定時に退社する人に対し、悪口を言うような人がいるとしたら、それこそ心が歪んでいる。「法律で定められた当たり前の労働時間を守ると白い目で見られる」という矛盾した状況が蔓延しているように感じる。こうした労働者の同調行動は会社の違法行為やパワハラを許し、自分で自分の首を絞めることになりかねない。

 それに、「大企業の正社員の地位を手に入れたのだから、できるかぎり頑張るのは当たり前」、「正社員なら残業は当たり前」という感覚もあるように思う。退職をしたいと思っても、労働環境の良い企業に正社員として就職することは困難だと諦めてしまう人もいるかもしれない。そういう理由はたしかに理解できるのだが、労働者がこういう意識で無理をし続ける限り過労死はなくならないし、ブラック企業が改善することも見込めない。

 長時間労働で疲労困憊になったなら、「こんな労働環境は絶対におかしい」という自分の正直な気持ちに向き合って転職を決意したり、労基法違反で会社を告発する勇気を持ってほしいと思わずにいられない。同調意識、同調行動を労組の活動で発揮すれば、ずいぶん状況が変わってくるのではないか。平然と違法行為をして社員を奴隷のごとく使う会社の責任が重大なのは言うまでもないが、一方で自分の身を自分で守るべく行動するのも自立した大人の責任ではないかと思う。

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