黒木睦子さんの裁判の判決について思うこと
昨日10月14日に、(株)日向製錬所と(有)サンアイが黒木睦子さんを訴えた裁判の判決が出た。いつものようにイワシさんと大谷さんがその報告をして下さっている。それらの報告をもとに、今回の裁判についての感想を書きとめておきたい。まず、お二人の報告は以下。
平成26年(ワ)第86号、第89号損害賠償請求等事件 判決書概要
この裁判は黒木睦子さんがブログやツイッターに書いた記述が名誉毀損に当たるかどうか、原告企業に対する抗議行動が業務妨害に当たるかどうかを問われた裁判である。そして結論から言うなら、名誉毀損を認め、被告にブログの文言の一部の削除と損害賠償(72万5千円)の支払いを命じるという判決であった。名誉毀損は認めらたが、業務妨害は認められていない。つまり、原告の全面勝訴とは言えない。
名誉毀損に関しての最大の争点は、黒木さんが造成工事に用いられたフェロニッケルスラグは「有害なゴミ」と書いたことの真実性だと私は認識している。企業側は「無害な製品」と主張して「有害なゴミ」であることを否定していた。したがって、間接的には産廃問題であり環境問題でもあった。しかし、不可解なことに裁判所は有害性には着目したものの「ゴミ」、すなわち産業廃棄物と書いたことについては判断していないようだ。ということは、裁判所はゴミ(産廃)であることを認めたということなのだろうか? いずれにしても、造成に用いたフェロニッケルスラグが「有害である」とか「健康被害が生じた」ということをネットで書いたりその他の方法で流布してはなららない、というのが裁判所の結論である。
さて、私がお二人の報告を読んで最も疑問に思ったのは、裁判所が黒木さんの提出した沈殿池の水質検査結果(計量証明書)について、「第3者の立会いがなく、場所を示す写真もない」「対象試料が沈殿池から採取した水であると認めるに足りない」という判断をしたことだ。それに対し、「県や市の公共機関が『公益財団法人・環境科学協会』に依頼した検査は、企画・試料採取時・検査時・結果の公表まで各検査の信用度が高い」「原告日向製錬所が東洋環境分析センターに依頼した検査は、公共機関による検査と同様の結果を示しており、正確性・信用性を担保するものといえる」としていることである。(引用はイワシさんの報告より)
この判断はとても納得いかない。そもそも、このような検査では検査試料は採取した者が持ち込むのが普通だ。つまり自己申告である。ところが、裁判所のような判断をしてしまえば、採取時の写真がなく立会人がいない一市民からの持ち込み試料はすべて疑わしいということになりかねない。しかし、実際にはそのような持ち込み試料など多数存在するだろう。
福島の原発事故により、日本は広範囲にわたって放射能に汚染された。その汚染を調べるために市民が土壌を採取して検査機関に送り、土壌汚染の一覧やマップなども公開された。裁判所の考えに従うのなら、市民が採取した土壌試料で採取時に写真や立会人がいない場合は検査結果が「信用ならない」ということになりかねない。市民による調査を否定することに繋がる。
また県や市などの公共機関が実施した検査の方が信用度が高いというが、その根拠は何によるのだろう? たとえば、福島の原発事故では空間線量を計測するために公共機関が線量計を設置したが、その数値が実際より低くなるように設定されていたとか、モニタリングポストの周辺が除染されていたという情報がある。公共機関の実施する検査なら信用できるというわけではない。
常識的に考えても、一市民があのように高濃度に汚染された水をどうやって入手できるのかという疑問がある。たとえば鉱山跡などでは重金属に汚染された水が出てくるが、そのような場所は普通立入禁止になっている。黒木さんの検査結果で検出されているセレンは極めて限られたところにしか存在しないとされる。判決では、そういう視点が全く欠けている。
黒木さんの提出した計量証明書は、黒木さんが有害と信じた根拠として極めて重要な証拠だった。計量証明書が証拠採用されていれば、黒木さんが有害と信じるに足る根拠となり、名誉毀損が成立しないことにもなり得た。それを、このような理由で退けてしまったことは不当としか思えない。
スラグ粉じんによる健康被害についても証明されなかったとしているが、粉じんの吸引で咳などの健康被害が生じることは一般に知られており、それを何ら考慮していないようだ。もっとも、これは黒木さんが積極的に立証すべきことではあった。
ただ、今回の裁判では黒木さんが弁護士をつけなかったばかりか、名誉毀損裁判において立証責任が被告にあることを理解せず、逆に原告に説明責任があると勘違いしたまま自己流で裁判を進めてしまった。このために黒木さんは自らの立証を怠ってしまったのも確かだろう。こうした黒木さんの勘違いが判決に大きな影響を与えたことは否めない。もし、弁護士をつけていたなら、このような初歩的なミスを犯すことはあり得なかっただろう。また、ネット上には黒木さんに有利な情報を提供しているサイトが複数あった。黒木さんがこれらを活用しなかったのは本当に残念である。
名誉毀損が認定された理由として「本件ブログ投稿及び本件ツイッター投稿が誰でも自由に閲覧することができ、かつ、拡散性の高いインターネットという媒体に1年6か月弱にわたり掲載され続けていること、断定的表現を用いて繰り返し投稿がされていることなど」としている(大谷さんの報告から引用)。つまり、疑惑や推測でしかないことに関して断定的な表現をすると名誉毀損になりかねないということが示された。これは、ネットで表現活動をしている人は気をつけねばならないことだろう。
黒木さんにとってはかなり厳しい判決だし、納得していないに違いない。私も部分的には不当な判決ではないかと感じている。この判決を受けて、黒木さんが控訴するかどうかは分からないが、もし控訴するのであれば、彼女が1審で繰り広げた自己流の闘い方を全面的に改めなければならないと思う。
また、黒木さんは弁護士をつけなかったが、弁護士を付けて勝訴したとしても相当額の弁護士費用が発生しただろう。今回は業務妨害についての訴えは退けられた。それを考慮して控訴しないというのもひとつの選択肢ではあると思う。
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