日高地方のサクラソウ移植に思う
6月7日付けの北海道新聞の日曜版「日曜Navi」に、全道の植物調査をしている五十嵐博さんの活動が紹介されていた。その記事の中で、むかわ町の「まちの森」に移植されたサクラソウのことが紹介されている。
サクラソウの仲間にはオオサクラソウやエゾコザクラ、クリンソウなどいろいろな種があるが、単に「サクラソウ」という種名のものもあるのでちょっと紛らわしい。このサクラソウは、江戸時代に荒川の河川敷に自生していたものを栽培してさまざまな品種が生みだされたことで知られている。
サクラソウは、北海道では日高地方にのみ分布しているのだが、自生地が日高自動車道(国道の高規格幹線道路)の用地となり危機に瀕しているということを、かつてサクラソウ研究者である鷲谷いづみさんからお聞きしたことがある。鷲谷さんはサクラソウ保護のために開発局に申入れをして尽力されたと聞く。
このサクラソウ保護の件をめぐって日高地方の植物愛好者の方などとやりとりしたことがあるが、結局、自然保護運動という形にはならなかったようだ。日高地方にはいわゆる自然保護団体がない。だから、平取ダムの反対運動なども地元からは起きなかった。
で、このサクラソウの件がその後どうなったのか知らなかったのだが、新聞記事によると町民有志が数年がかりで自生地から「まちの森」に移植したそうだ。「まちの森」には現在1万5千株以上が生育しているという。
高規格道路で自生地が縮小されておしまい、となってしまうよりは確かにいいのだが、移植でしか対処できなかったことはやはり残念というしかない。移植は「種」の保全にはなっても決して生育地保全ではないし、これでは日高のサクラソウ群生地が守られたとは言えない。野生生物や生物多様性保全というのは本来の生息・生育地そのものが守られてこそのものだからだ。
サクラソウは環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されているし、北海道では日高地方の限られたところにしか生育していない。道路建設にあたっては環境アセスメントを実施しているはずだが、保護すべき希少植物の生育地があってもこの国では生息地保全が優先されないのだ。「はじめに建設ありき」で計画が進められるために、希少動植物や生物多様性保全は単に努力目標になっているにすぎない。レッドリストに登載されたからといって保全義務があるわけではないのは事実だが、いったい何のためのレッドリストであり生物多様性保全なのかと思わざるを得ない。
開発予定地に希少な植物が生育している場合、その保全策の定番が「移植」だ。しかも、移植をした後に枯れてしまう場合も少なくない。「まちの森」に移植したサクラソウは無事生育しているようだが、サクラソウは一般に種子でもよく増えるし有毒でシカが食べないなどの条件も関係しているのだろう。これを保護の成功例とか美談にしてはならない。
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