日向製錬所スラグ裁判 第5回口頭弁論を終えての感想
本日、(株)日向製錬所と(有)サンアイが黒木睦子さんを訴えた裁判の第5回口頭弁論があった。いつものように市民メディアみやざきの大谷憲史氏と鰯氏による傍聴記がアップされている。
裁判とはなにか 6/12 宮崎地方裁判所延岡支部 第5回審理
民事訴訟の口頭弁論は、意見陳述や証人尋問を除き、出された書面の確認や次回の期日などの打合せをするのがメインなので、重要なのは原告と被告の双方から出されている書面の中身だ。今回の口頭弁論までに出された書面に関しては大谷憲史氏が報告している(ただし、以前にも指摘したように口頭弁論前に書面内容を公開してしまうのは非常識だと思う)。
前回の口頭弁論で黒木さんは地権者を証人として呼びたいと発言していたのだが、実際に出した書面で求めた証人は何と原告である(株)日向製錬所の社長と、同じく原告の(有)サンアイの社長だ。私は昨日この大谷氏の報告記事を読んで、正直なところ頭がくらくらしてきた。
証人は自分に有利な証言をしてくれる人に依頼する。この裁判で被告である黒木さんが立証しなければならないのは、埋め立てに用いたフェロニッケルスラグ(原告はグリーンサンドと主張)が産業廃棄物であり有害であるということ。あるいは抗議行動が業務妨害には当たらないということなど。彼女は準備書面でそれを主張した上で、自分の主張を裏付ける証言をしてくれる人に証人を依頼する必要がある。
たとえば、産廃問題に取り組んできた専門家とか、粉じんの吸引が咳の原因になることを証言してくれる専門家などだ。ところが黒木さんが求めた証人は、埋めたフェロニッケルスラグは産廃ではなく無害だと主張している原告そのものである。「産廃ではない」「無害である」と主張している原告が「産廃である」「有害である」という証言をするはずがない。いったいなぜ、原告を証人として選んだのだろう?
尋問事項を見てその理由が分かった。黒木さんが日向製錬所の社長に対して求めているのは「被害が出たときの責任の所在」についての説明であり、訴訟を起こした理由である。一方、サンアイ社長に求めているのは、土地造成にあたっての土地の選定や経緯だ。
日向製錬所の社長に対する尋問は、立証趣旨と食い違っているのだが、責任の所在というのは黒木さんがこの問題でずっと訴えてきたことだった。サンアイ社長に対する尋問も、おそらくこれまでのサンアイや地権者との紛争に関わることだろう。それを裁判の場で証言させたい、つまりはこれまでの両社との紛争の決着を裁判での証人尋問で行いたいというのが黒木さんの意向だったのだろう。
しかし、この裁判はこれまでの紛争の続きではない。名誉毀損に関しては、黒木さんは自分がブログやツイッターに書いたことが事実であるという立証をしなければならない。業務妨害に関しても抗議行動が損害を与えていないということを主張しなければならない。どうも黒木さんにはこれまでの紛争の続きを裁判でできるものと勘違いをしているようだ。そう考えると、これまでの彼女の書面での主張も理解できる。
結局、今日の口頭弁論で裁判長は黒木さんの証人に関する申立書を採用しないことを決定した。最終的に証人の採用の可否を決めるのは裁判所だから、この決定は致し方ない。原告を自分の証人として申請してしまったのだから、当然といえば当然だと思う。
どう考えても黒木さんがやるべき立証をせず、勘違いをしたまま裁判が進んでいる。黒木さんは今回、原告から反論が出されなかったことも納得いかなかったようだが、裁判の争点と関係のない説明を相手に求めたのなら反論がなくても当然である。
おそらく彼女は「紛争の続きを裁判で決着させる」という思い込みによって裁判を闘ってきたがゆえに、裁判長の判断に納得がいかないのだろう。黒木さんにとってはとても厳しい状況になってしまったが、自分の納得するやり方を貫くというのが彼女の強い信念なのだろうから、第三者はどうすることもできない。
断っておくが、私は黒木さんがブログで書いてきたことが間違っているとは思っていない。彼女は嘘を書く理由などないし、おそらく事実をそのまま書いたのだろう(一部に勘違いをしているところがあるのではないかとは思うが)。ただ、名誉毀損が免責されるためには書いたことが事実であることを立証しなければならないのだが、黒木さんは勘違いをしているがゆえに自分に立証責任があると考えておらず、逆に原告に説明責任があると考えているようだ。
裁判で立証できないということをもって、彼女が書いたことが嘘であるという証明にはならないから「裁判の判決=真実」と単純には決めつけられない。でも、立証できなければ裁判には勝てない。
そして裁判の結果がどうであろうと、彼女のブログ記事は、フェロニッケルスラグのリサイクル偽装疑惑や、行政と事業者の癒着疑惑について重要な問題提起をしていることは間違いない。
「日向ミナマタ水・土壌汚染・防災研究会」のブログ主は企業の違法行為を指摘しているが、それが事実なら刑事事件にも発展しかねない問題だ。もし造成に使われたフェロニッケルスラグが産廃であるということになれば、今までのようなスラグの埋め立てができなくなり、製錬所はその処理に膨大な費用が必要になるだろう。もちろん行政の責任も問われることになる。黒木さんのブログは、原告らにとって都合が悪いものでしかないだろう。
裁判がはじまると同時に、ツイッターで彼女が嘘を言っているなどと騒ぎ、彼女を支持する人たちをよってたかって叩くアカウントが湧いてきたのもあまりに不自然であり、「いじめ」そのものである。少なくとも、黒木さんは裁判長から提出を求められた証拠書類はすべて出しており、それに関して嘘は言っていない。いったい何が嘘だというのだろう。
そういう意味で、私は彼女を支持する立場であることに変わりはない。ただし彼女の信念(というか勘違い)は、他者が変えることはできない。
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