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2015/05/09

更別村の十勝坊主とその保全

 若い頃からいわゆる観光旅行というものに興味がない私は、どこかに出かけたくなっても観光地に行くことはほとんどない。出かける先はほとんどが山野だ。

 先日は、暖かな日和に誘われて十勝坊主を見にいった。十勝坊主というのは周氷河地形の構造土の一つで、地面がこぶ状に盛り上がった地形だ。構造土は地中の水分が凍結と融解を繰り返すことで形成される。たとえば大雪山の高山帯で見られるアースハンモックや多角形土、階状土なども構造土だが、十勝坊主は平地で見られる構造土だ。

 帯広畜産大学農場にある十勝坊主は北海道の天然記念物に指定されている他、音更町にあるものは町指定文化財になっている。また更別村のイタラタラキ川流域の十勝坊主群の一部は、北海道の学術自然保護区(勢雄地区)に指定されている。他に、帯広空港の近くにも十勝坊主群がある。

 今回、見にいったのは更別村と幕別町の境界付近を流れるイタラタラキ川流域の十勝坊主群だ。左岸の一角、さけ・ますふ化場の近くに学術自然保護区があり看板が出ている。

P10605401_3

 実際に行って驚いたのだが、ここの保護区の十勝坊主群は猫の額のように小さい。そして保護区の南のイタラタラキ排水路流域にはもっと広い十勝坊主群がある。ササに覆われているので写真だと凹凸がちょっと分かりにくいのだが、直径が1メートル前後、高さが50センチ前後くらいのこぶがポコポコと連なり、不思議な光景だ。

P10605312_2

 しかし、なぜ広い方の十勝坊主群を保護区に指定せず、猫の額のようなところを保護区にしたのだろうか?

 実はイタラタラキ川流域に広がる十勝坊主群は、バイパス水路工事によって分断され一部が壊されてしまっている。以下参照。

 2.化石構造土:北海道更別村(農林水産省)

 つまり、広大な方の十勝坊主群にはバイパス水路の計画があったため保護区指定をせず、規模のごく小さい一部の場所のみを保護区指定したということではないかと思われる。貴重な周氷河地形の保存よりバイパス水路工事を優先したがゆえに、十勝坊主群の一部が壊されてしまったと言えそうだ。

 バイパス水路の工事に当たっては十勝坊主の調査が行われているのだが、農水省は「バイパス水路整備後における十勝坊主の形態変化や周辺植生の変化は認められず、現況河川を存置した工法は、自然環境への事業の影響軽減を十分果たしていると考えられます」と記している。工事が周氷河地形に変化を与えていないので問題ない、と言いたいようだ。ただし、工事が本当に影響を与えていないかどうかはそう簡単には分からないだろう。何十年も経過してから変化が現れるかもしれないのだから。

 では、何のためにバイパス水路を造ったのだろう?

 上記サイトの空中写真を見るとよく分かるのだが、イタラタラキ川流域は十勝坊主群のある部分を除き河川の直線化工事が行われている。十勝坊主群のある区間はその保護のために直線化工事をせずに蛇行した自然の状態を残したのである。しかし、もともと森林だったところを農地開発すれば大雨のときには河川に一気に水が流出するようになる。さらに流域に湿地が広がっていた蛇行河川を直線的に改修し河岸まで農地にしたのである。流速が落ちる蛇行部周辺で水が溢れ、その周辺の農地で湛水被害や過湿被害が生じるのは当然のことだ。その解消のために十勝坊主群を壊してバイパス水路を造ったのだ。

 また、十勝坊主群の上流にはヤチカンバの保護区があるのだが、周辺の農地の過湿被害を防ぐために行われた排水工事によってヤチカンバ生育地が乾燥化し、危機的な状況になっている。ヤチカンバは湿地に生育する植物なのだが、乾燥化によって生育地にササやヤマナラシなどが侵入してしまったのだ。

 結局、十勝坊主の分布域やヤチカンバの生育地のみ手をつけなければ保全できるという訳ではないことがよく分かる。森林や湿地を農地にしたり蛇行河川を直線化するということは、これまで保たれてきた自然のバランスを崩してしまうことに他ならない。自然のバランスを崩してしまったら、真の保全にはならないのだ。

 排水事業によって農地の排水は良くなったとしても、大雨などの際に河川に一気に水が流れ込むことに繋がる。水の出方が変わってしまえば河川にさまざまな影響を与えるし洪水の原因にもなる。そのために下流では床固工やら落差工などの治水工事が行われることになる。それらの工事がさらに下流の河床低下を引き起こすことになる。こうなると永遠に公共事業にお金をかけることになり自然破壊はさらに進むという悪循環に陥る。昨今、河川管理者によって行われている河川整備事業は、まさにこの悪循環といっても過言ではない。

 開発できるところはとことん開発しようという人間の傲慢さが、取り返しのつかない自然破壊を招き、税金の無駄遣いへと繋がっているのだ。

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