黒木睦子さんによる日向製錬所の告発は大企業の公害問題
マスコミでは報じられないが、宮崎県日向市の主婦黒木睦子さんが、(株)日向製錬所と(有)サンアイから名誉毀損で提訴された。黒木さんの実家のすぐ前の山中に日向製錬所がフェロニッケルスラグ(グリーンサンド)を運び込んで埋めており、風が吹くとその粉じんが実家にまで到達して子どもが咳を出し困っているという(現在は黒木さんの実家前は埋め立てが完了している)。
彼女は日向製錬所のほか、トラックで運搬してくる(有)サンアイにも抗議したが埒が明かず、警察に訴えたり、行政や市議に相談したり、新聞社に情報提供するなど、おそらく個人として思いつく限りのことをしてきたようだ。しかし、誰もとりあってくれない。日向精錬所も行政も埋めているのはグリーンサンドという製品であり産廃ではないと主張している。彼女のブログやツイッターは、企業が投棄した有害物質から子どもたちや下流域の人たちの健康を守ろうと行動している彼女の生の声である。
黒木さんのブログ
宮崎県日向市 産業廃棄物のゴミの山が目の前で非常に困っています
黒木さんのツイッター
https://twitter.com/mutsukuroki
ところが、日向製錬所と(有)サンアイは、名誉毀損であるとして彼女のブログやツイッターの削除と損害賠償を求めて提訴した。なお。日向製錬所の親会社は住友金属鉱山株式会社という大企業であり、過去に土呂久砒素公害を起こしている。
原告らは名誉毀損で提訴しているが、この問題の本質はもちろん産廃問題であり公害問題だ。フェロニッケルスラグは「鉱さい」に分類される産業廃棄物である。そして、水銀やカドミウム、鉛、六価クロム、砒素などの有毒物質が基準値を超えて含まれる「鉱さい」は有害産業廃棄物なのである。以下参照。
産廃知識 廃棄物の分類と産業廃棄物の種類等(公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター)
黒木さんは、フェロニッケルスラグが積まれた場所の沈殿池の水質検査結果を公表している。以下。
山に捨てている(株)日向製錬所の産業廃棄物を「商品だ」、という宮崎県は説明が出来ないなら全部片付けて下さい。それが出来ないなら、全責任を取ると一筆書いて下さい。No.1
ここに示している検査結果では、明らかに環境基準を超える有毒物質が検出されている。この水が垂れ流しになっていて、その下流には水田があるという。ならば、明らかに公害問題であり健康に関わる重大な問題だ。
もしフェロニッケルスラグが価値のある製品なら、それこそ黒木さんの主張するように、日向製錬所が倉庫などに保管するべきだし、販売して活用するのが筋だ。山の中に埋めているのは廃棄目的としか考えられない。つまり日向精錬所がフェロニッケルスラグを山の中に埋めるという行為は産廃問題そのものだし、埋め立て場所から有害物質が流れ出ているのなら、産廃による公害問題だ。産廃ではないから問題ないという態度をとっている行政の責任も極めて大きい。
これは傍からみている私にも、告発者の口を封じるための裁判であるとしか見えない。ネット上ではスラップ訴訟だと言う人と、そうではないと言う人がいる。例えば、「市民メディアみやざき」の大谷憲史氏の以下の発言。この裁判の争点は産廃問題ではなくブログに端を発する名誉毀損で、原告と被告に争点にズレがあるからスラップ訴訟とは言えないという見解のようだ。
https://www.facebook.com/NorySkywalker/posts/898625176816648
確かに名誉毀損で提訴されているので、争点は名誉毀損にあたるか否かになる。しかし、権力者や企業が弱者であるジャーナリストや市民の言論などを封じ込める目的で、名誉毀損を理由に訴えるというのがスラップ訴訟の常ではないか。名誉毀損はあくまでも手段であって、黒木さんの言論封じの本質は産廃問題の隠蔽にあると捉えるべきだろう。このような裁判をスラップと言わず何をスラップというのだろう。
大谷氏は以下の発言もしている。
スラップ訴訟の意に即して考えると、産廃問題のことや自分たちの不都合なことを隠して、一市民である黒木さんに対して威圧的、恫喝的な訴訟を日向製錬所側が起こした、ということになります。
しかし、日向製錬所だけではなく、日向市役所、宮崎県庁等は、今回の件を「産廃問題」として捉えている様子はなく、当初、記事にする予定であった西日本新聞も、その後、記事の掲載を見合わせています。
大谷氏は、グリーンサンドの投棄が産廃か否かということに関して、日向製錬所や行政が産廃と捉えている様子がないから産廃問題ではないと言いたいようだ。これが市民メディアを名乗る者の発言なのかと首をかしげたくなる。ジャーナリストであるなら、企業や行政の言い分をそのまま鵜呑みにするのではなく、産廃か否か、有害か無害かを自ら取材によって検証するべきではないか。
また、黒木さんが訴状に対して認否を行っていないことを指摘して争点にズレがあると言っている。しかし、以下の裁判傍聴記から推測するなら、黒木さんは答弁書の書き方が分からないようだし、名誉毀損の闘い方の理解が不十分のように感じられる。これは争点のズレというより法的知識の問題だろう。
黒木さん関連。日向製錬所との第一回口頭弁論のこと。 (Come on by !英語ガレージ!)
延岡地方裁判所 第二法廷 第1回口頭弁論の日に(鰯の独白)
今回の裁判は名誉毀損なのだから、まずは黒木さんがご自身の発言について「事実の公共性」「目的の公益性」「真実性・真実相当性」を主張することによって、名誉毀損の免責を主張するしかないのではなかろうか。これらの証明は被告である黒木さんがしなければならない。もちろん黒木さんが産廃問題として日向製錬所や関係行政機関を民事で訴える、あるいは刑事告訴するということもできるが、それをするにはやはり十分な証拠を集める必要があるだろう。どちらにしても、法の専門家の手助けを求めたほうがよいと思う。
以下は東海アマさんによる現地報告とブログ記事。
日向製錬所 公害被害者を訴える主婦へのスラップ訴訟問題 その1 (東海アマのブログ)
被告の黒木さんは今のところ弁護士をつけず一人でこの裁判に立ち向かっている。しかし、自然保護に関わってきた私から見ると、大企業から提訴されてしまった以上、弁護士もつけずに闘うということ自体に非常に厳しいものがあると感じざるを得ない。黒木さんは真実を主張しているのだから一人でも大丈夫と思っているのかもしれないが、裁判というのはブログに書いているような主張をしていれば勝てるというものではない。裁判での主張は基本的に書面で行われるのだから文章で論理的な反論をしなければならないし、その都度、証拠を提出していく必要がある。口頭弁論は次回期日を決めるのが主で、たいていはあっという間に終わってしまう。口頭弁論で意見を述べたいのなら、裁判所に意見陳述をしたいと申し出なければならない。
もちろん本人訴訟で闘うという選択肢もあるし、弁護士をつけるか否かは黒木さんの判断に委ねることだ。しかし日頃言論を仕事とし名誉毀損に注意を払っているジャーナリストでも、スラップを起こされたら弁護士をつける。まして法に疎い市民が、たった一人でスラップ訴訟に立ち向かうというのは無謀ではないかというのが正直な感想だ。
すでに裁判は始まっているが、まだ訴状に対する認否(答弁書)も出されていない。この問題は黒木さん個人が標的になっているが、明らかに企業による公害問題だ。支援団体の協力を得て、産廃問題や環境問題に強い弁護士をつけるなど検討できないものだろうか。
彼女が提訴されてしまった背景には、市民がネットを利用して一人で企業の告発を続けたということがあるのだろう。しかし、これは地域の公害問題である。本来なら地域の人たちが組織を立ち上げたり、環境保護団体と連携して公害問題として提起していくような大きな問題だ。企業も公益目的とした組織相手ならそう無闇に提訴はできないだろう。新聞などのマスコミにしても市民団体が動けば取り上げやすい。日向精錬所も一人だから口封じはたやすいと見たのかもしれない。
この問題の背景には、産廃に絡む企業と行政の癒着という大きな闇が垣間見える。
宮崎県都城市のブロガー殺人が宮崎県警によって自殺とされた事件は【権力犯罪】を免責する日本社会の縮図(杉並からの情報発信です)
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鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドライン
販売上の留意点
1) 各会員は、鉄鋼スラグ製品の販売において、販売先に対し、名目の如何を問わず販売代金以上の金品を支払ってはならない。
仮に、各会員が支払う運送費や業務委託費等が販売代金以上となるおそれがある場合は、各会員は、販売先以外の第三者を運送業者や業務委託先等として選定しなければならない。
なお、各会員は、販売先に販売代金以上の金品が還流することを認識・把握しながら、販売先以外の業者(運送業者を含む)に対し、販売代金以上の金品を支払ってはならない。
http://blogs.yahoo.co.jp/atcmdk/54877242.html
投稿: 水土壌汚染研究会 | 2015/02/01 11:16
宮崎県日向市で、主婦が住友金属鉱山や廃棄物業者から、恫喝訴訟を受けています。まるで強姦されているようです。
(株)日向製錬所 常務取締役早川直伸は、グリーンサンド(フェロニッケルスラグ)を「(有)サンアイさんにお売りしている」と住民説明会でみんなに説明しました。
でも、(有)サンアイ社長金丸喜輝さんは「買っていない。製錬所からダンプ運賃費を貰っている」と答えています。
違いがあります.
グリーンサンド(フェロニッケルスラグ)は、不要になった建設資材です。
建設資材は有価物でも、不要になれば廃棄物です。
廃棄物を運賃を払って谷に埋立てるのは、廃棄物処理法第16条に規定する不法投棄で3億円以下の罰金となります。
投稿: 日向水土壌汚染研究会 | 2015/02/11 08:51
宮崎県に問い合わせすると、「日向市西川内地区におけるグリーンサンドを使用した造成工事に係る土壌汚染対策法第4条に基づく届出はございません」との回答をえました。
土地所有者等は、土壌汚染対策法により第六十六条の規定によりは、三月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処されることになります。
http://blogs.yahoo.co.jp/atcmdk/54912534.html
投稿: terada | 2015/03/01 11:53