鮮やかな柿色が美しいカタオカハエトリ
5月11日、道南方面に出かけた際に川端ダム(夕張郡栗山町)に立ちよった。北海道では春に成体が見られるクモは限られているので、5月頃はそれほど熱心にクモを探すことはないのだが、ふとダムを取り囲んでいる鉄柵が気になった。橋の欄干などではクモがよく見られるからだ。
赤い錆止めが塗られた鉄柵を目で追っていくと、案の定クモが次々と目に入ってきた。イナヅマハエトリ、ウスリーハエトリ、アマギエビスグモ・・・。そして、Euophrys属らしい地味な小型のハエトリグモの♀幼体(下の写真)。
このハエトリは何だろうかと思っていると、すぐ近くに鮮やかなオレンジ色の脚をしたハエトリグモが現れた。カタオカハエトリEuophrys kataokai Ikeda 1996の雄だ。体長は3ミリほどしかない(下の写真)。
カタオカハエトリが北海道にも生息していることは知人からもらった標本で知っていたが、実は生きたカタオカハエトリを見たのは初めてだった。オレンジ色の脚や触肢が美しいだけではない。第1脚の先端には黒い毛が密生しており、その目立つ第1脚をしきりに振り上げるしぐさが何とも可愛らしい。しばし見とれてしまった。
さらに驚いたのは、近くに何頭ものカタオカハエトリがいたのだ。私が見ていた鉄柵はほんの2、30メートルの程度の範囲なのだが、雌雄合わせて10頭以上はいた。一度にこんなに沢山のカタオカハエトリが見られるとは、なんとも幸運だ。しばし幸せな時を過ごした。(この感覚は、たぶんクモや昆虫好きの人でないと分からないだろう)。
ところで、カタオカハエトリは1971年に八木沼健夫氏によって宮城県産の雄が日本新記録種Euophrys frontalis(Walckenaer 1802)として報告された。この報告では図や説明はないのだが、1977年に採集者である片岡佐太郎氏が雌雄の形態や図を記載している。しかし、後にこれは誤同定であることが判明した。また、本種はカキイロハエトリEuophrys herbigrada(Simon)とされたこともあったが、これも誤同定で、1996年に池田博明氏によってEuophrys kataokaiとして新種記載され、和名はカタオカハエトリが採用された。
一方、北海道からは本物のEuophrys frontalis(Walckenaer 1802)が記録され、こちらの和名はウデグロカタオカハエトリとなった。後に東北からも記録され、カタオカハエトリと同様に北海道と本州に分布する。
両者の雌は非常に良く似ており外観だけでは識別は極めて困難なのだが、雄では色彩が全く異なる。カタオカハエトリは脚や触肢がオレンジ色で第1脚の先端に黒色毛があるが、ウデグロカタオカハエトリの脚はオレンジ色をしておらず第1脚が黒色で、触肢には白色毛がある。もし片岡氏や八木沼氏がE. frontalisの雄のカラー図版や写真を見ていたら、同定を誤ることはなかっただろう。両種の違いについては以下を参照していただきたい。
日本のネオンハエトリなど微小なクモ(Jumping Spider Study Center of Japan by Hiroyoshi IKEDA.)
このような経緯から今ではカキイロハエトリという和名はほとんど使われないが、雄の鮮やかなオレンジ色はまさに熟れた柿の色であり、個人的にはカキイロハエトリという和名のほうがしっくりくる。
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