鵜呑みにしてはいけない温暖化懐疑論
昨日の北海道新聞夕刊科学欄に「IPCC第5次報告書を考える 上」とのタイトルで、渡辺正氏(東京理科大総合教育気候理数教育センター教授)の温暖化懐疑論が掲載されていた。
新聞に紹介されている彼の主張の主なものは二つ。一つは世界の平均気温が最近の17年は横ばいであることをグラフで示し、二酸化炭素による温暖化はあり得ないとしている。
世界の平均気温偏差のグラフは気象庁が公表している。
渡辺氏はこのグラフの1997年以降の部分だけを抜き出して、平均気温は横ばいと指摘している。たしかにここ17年の部分だけを見たら横ばいに見えるのだが、1890年からの変化を示すグラフを見れば上昇しているのは明らかだ。もちろん、年によって変動を繰り返しながら全体として上昇しているのだ。そして最近17年の横ばいはこうした変動の幅に収まってしまう範疇でしかない。これについては以下のブログで解説している。
国立環境研の江守正多氏の話しを聞く--温暖化問題(ペガサス・ブログ版)
ごく最近の部分だけを抜き出して「横ばい」「二酸化炭素の影響はない」と言いきってしまうのは拙速だろう。
渡辺氏がもう一つ指摘しているのが北極海の海氷の面積が最近増えているということだ。海氷の面積については以下のサイトで公表している。
「しずく」が捉えた北極海氷面積の最新状況 今夏の北極海は低温傾向(宇宙航空研究開発機構)
渡辺氏が新聞で取り上げているグラフは出典がIARC-JAXAとなっているので、同じサイトのものだ。ただし、新聞に取り上げているグラフは8月から10月の部分だけで、しかも上記のサイトで記されている1980年、1990年、2000年のデータは入れていない。そして、もっとも海氷の面積が小さくなった2012年と今年を比べて「1年間で60%増え、大幅に回復した」と結論づけているのだ。
毎年、海氷が年間で最も小さくなる時期は9月である。そして9月の海氷面積が今年は昨年に比べて広くなったのは事実だ。しかし、渡辺氏は重要なことを隠蔽している。上記サイトには海氷の厚さを示す図(図3 最近11年間(2003-2013年)の4月20日に観測された北極海の海氷分布)が掲載されている。この図を見ると、厚い多年氷が減少し、薄い一年氷(前年の夏以降に生成した氷)の面積が増えていることが一目瞭然だ。北極海の氷はここ10年間でどんどん薄くなっている。つまり体積が減少しているのだ。
今年は海氷面積が回復したといっても、それは薄い一年氷だ。今年は夏の気温上昇で7月前半には急激に海氷の面積が縮小したのだが、7月後半以降は曇天傾向となり、気温が低く保たれ海氷の解ける速度が遅くなったと考えられるとのこと。しかし、なぜか渡辺氏は新聞では海氷面積が急激に縮小した7月を除いたグラフを示している。
北極海の氷は多年氷が減って薄い一年氷が増えており、薄い一年氷は気温の変化によって簡単に縮小したり拡大するのだ。たった1年の海氷面積の増加だけを取り上げて温暖化していないというのは、自分の説に不都合なデータを隠しているといえる。
新聞では、柴田一成氏(京都大学大学院理学研究科教授)の、太陽紫外線の効果や、黒点数変動に伴う銀河宇宙線の効果により、太陽活動が気候変動に影響を及ぼしている可能性は否定できないという主張も取り上げている。
これについては「海の研究者」さんが太陽活動だけでは地球温暖化は説明できないことについて解説している。
太陽活動だけでは地球温暖化は説明できない
再・太陽活動だけでは地球温暖化は説明できない
IPCCの報告書に疑問を投げかけるのはいいのだが、自分の説に都合のいい部分だけを切り取り、都合の悪い部分を隠してさも温暖化していない、あるいはIPCCは間違いと主張するのはいかがなものか。
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