ミチゲーションというまやかし
9月6日に行われた学園通の説明会で「ミチゲーション」という言葉を持ち出した参加者がいて驚いた。
ミチゲーションの本来の意味は「和らげること、緩和、軽減」であるが、環境対策に関して使われる場合は回避、最小化、矯正、軽減、代償のことを指す。
大きな開発行為においては環境アセスメントが義務付けられているが、アセスメントに際しコンサルタント会社が行っているのがミチゲーションだ。
日本の場合、環境アセスといっても「事業をしない」という選択肢はまずない。とてもおかしなことなのだが、はじめから事業を行うことが前提となっている。だから希少な動植物などが確認されたからといって事業を取りやめたりはしない。事業の中止はありえないのだから、環境対策として取り入れるのは部分変更とか、影響の低減ということになる。
たとえば、道路の建設予定地にナキウサギの生息地があった場合を考えてみよう。まず、ナキウサギの生息地を壊してしまうのは影響が大きすぎるので、ルートを変えることで生息地破壊を避けようとする。どうしてもルート変更ができない場合は、改変面積を最小限になるように工法を検討したりする。また、繁殖期を避けて工事をするとか、できるだけ騒音や振動が小さい機械を使うなどの対策をたてる。
しかし、そのような影響低減のための対策をしたところで、影響を完全にゼロにすることなどできないし、もしナキウサギがいなくなってしまったら、それまでだ。事業実施後にモニタリング調査を行うこともあるが、それが新たな事業で活かされたという話しも聞かない。
植物の場合、よく行われるのが移植だ。北見道路では移植したホソバツルリンドウが消えてしまったそうだ。つまり、移植というのは失敗するというリスクをいつも伴っている。そして消失しても誰も責任をとれない。
森林を伐採したら、別の場所に植林をするなどして新たに森林を確保するなどということもある。代替である。以前、十勝地方の林道で世界ラリー選手権が行われたことがあった。主催者はラリーで二酸化炭素を排出した代償として、植樹を行っている団体に寄付をしたそうだ。これなども一種の代替であろう。もっとも、林道を滅茶苦茶に荒らし、動物との衝突事故を起こしているのだから、そんなことをしてもラリーによる自然破壊の代替にはならない。また、植林で炭素を固定する森林を育成するのなら、しっかりと手入れをしなければならないし、100年も200年もかかる。樹を植えさえすればいいというものではない(「植樹とカーボンオフセット」参照)
いわゆる自然再生、復元もそうで、「破壊する代わりに別のところに復元する」などというのはまやかしでしかない。たとえば湿原には湿原特有の昆虫やクモなどの無脊椎動物が多数生息しているが、湿原を壊せばそれらがまるごと失われてしまう。湿原ではないところに水を溜めて湿原を造っても、それは壊した湿原と同じものにはなり得ない。とりわけ、移動能力の低い小動物などは新たに出現した湿原に簡単に移動することはできない。環境保全で一番大切なことは、「壊さない」ことだ。
自然を破壊から守るためには、まず破壊を回避しなければならない。少なくとも回避できる方法を探り、努力しなければならないだろう。学園通りの件で言うなら、カシワ林を伐採しないで済む方法を考えるということになる。そして、自然保護団体の提案した暫定二車線案は、伐採を回避できる案なのだ。だから、伐採面積の縮小という帯広市の見直し案より優先して、時間をかけて議論すべきだと私は思う。
ミチゲーションは、開発行為の免罪符として使われているのである。だから、自然破壊を行う事業者やコンサルタント会社はミチゲーションが大好き。そのことに気づかずに安易にミチゲーションなどという言葉を持ち出したなら、事業者は大喜びすることにもなりかねない。少なくとも自然保護の議論の中で、自然保護団体が自ら口にすべき言葉ではない。
以下は建設業界に関わりを持つ技術者の方のブログだが、業界関係者もそのことがよく分かっているのである。
ミチゲーションという仮面(思考の迷路)
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