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2013/06/20

隠された初期被ばく

 6月14日発行の週刊金曜日(947号)に、アレクセイ・ヤブロコフ氏へのインタビュー記事「チェルノブイリで起きたことは福島でも起きる」が掲載されていた。アレクセイ・ヤブロコフ氏は、先日日本語訳が出版された「調査報告 チェルノブイリ被害の全貌」の著者の一人だ。

 そのインタビューで、以下のやりとりがある。

―放射能で汚染された地域の子どもたちをすぐ別の場所に移すべきだ、という要求もありますが。

 理論的にはそうでしょう。また、長期の被曝をさけるのも賢明な選択です。しかし私たちの調査では、残念ですがいくら遠くの汚染されていない地域に避難しても、本人がもし事故当初に被曝していたらどうにもなりません。結果的に、その時間に最大限の被曝をしているのですから。避難した後で発病したというケースも、珍しくないのです。

 福一からは事故後2年以上経過した今も大量の放射性物質が放出されている。

今現在、福島第一原発各号機放出量と関東に降っている放射性降下物の量6/16川根眞也氏(内容書き出し) (みんな楽しくHappyがいい)

 場所によって汚染の程度は違うものの、東北南部から関東地方にかけては土壌も汚染されてしまった。食べ物に気をつけていても放射性物質を完全に排除することは困難だし、風によって放射性微粒子が舞い上がるたびに呼吸から取り込むことになる。だから、汚染地から移住できる人は移住するに越したことはない。しかし、初期被ばくだけはどうしようもない。

 そしてこの初期被ばくに深くかかわる福一からの放射性物質の大量放出の実態、すなわちいつどれだけの放射性物質が放出され、風でどのように運ばれたのかということこそ政府や東電が隠してきたことだ。福島第一原発の場合、4機もの原発が爆発して複数回にわたって大量の放射性物質を放出させたので、チェルノブイリのように単純ではない。そして、いつ、どのような核種がどれくらい放出され、それらがどの地域に拡散したのかはよく分からない。これらが誰にでも分かるような図などで発表されていたなら、各自がどれだけ初期被ばくをしたのかの目安にはなるだろう。

 ヨウ素131の大量放出について情報収集されている方がいるが、いったいどのくらい放出されたのかははっきりしない。

福島第一原発事故 マスコミが触れない話し その45 事故発生時のヨウ素131大気放出量(オオルリのブログ)

 いずれにしても大量のヨウ素131が放出されたことは間違いないだろうし、東電も政府もそれを隠蔽したのだ。だから、情報のない一般の住民は大量被ばくをしてしまった。ところが、福島医科大学では医師・看護師たちに安定ヨウ素剤を配っていた。

ヨウ素119万Bq/kgの汚染でヨウ素剤を飲んだ福島医科大学の医師・看護師(院長の独り言)

 この情報化時代、政府やマスコミが、あるいは情報を知り得た人がインターネットなどを通じて放射性物質の放出情報を伝えていれば、どれほどの人が初期被ばくを軽減できたかと思うと、ただただ愕然とする。政府は、はじめから住民の避難にSPEEDIを役立てようなどという気はなかったのだろう。複数回にわたる放射性物質の大量放出を、知る人は知っていた。にも関わらず情報を出さずに住民を被ばくさせ、言い訳として「パニック」を持ち出したのだ。このような国は原発などもつ資格はない。

 福島県の子どもたちの甲状腺検査では、事故後2年にして甲状腺がんの発症率が極めて深刻な事態になっていることは「極めて深刻な甲状腺がんの発症率」で書いた。この記事で触れているように、先の発表は174,376人のうちの二次検査を終了した383人の結果であり、二次検査が必要とされた者のうち検査を終えていない者が2/3ほども残っているのだ。しかも174,376人というのは、36万人いるという福島の子どもたちの半分に満たない。

 以下の記事によるとチェルノブイリ事故の6年後に日本でも子どもの甲状腺がんが増えていたそうだ。環境省の甲状腺調査では長崎や弘前からもB判定の子どもが見つかっており、東北や関東だけではなく全国で甲状腺がんが多発する可能性がある。また、福島で甲状腺がんを発症した12人はすべて乳頭がんとのこと。ベラルーシでも乳頭がんが多発しており「乳頭がんが放射性物質誘発がん」と考えられるそうだ。福島の子どもの甲状腺がんが被ばくに起因しているのは間違いないだろう。

「乳頭がんが放射性物質誘発癌だ」ベラルーシと福島の甲状腺がん・小学校に降ったヨウ素の量6/16川根眞也氏(内容書き出し) (みんな楽しくHappyがいい)

 甲状腺がんの発症率からだけでも、福島では相当量の初期被ばくをしたと推測される。はたして、福島の事故によって東北や関東の人たちはどれほどの初期被ばくをしてしまったのだろう。政府が放射性物質の放出量の過小評価をしたり隠蔽をすればするほど、信じたくないくらい大量の放射性物質が飛散したのではないかと疑ってしまう。

 福島ではチェルノブイリのような健康被害は生じないと豪語していた人たちがいる。しかし、政府は自己保身のために必ず嘘をつく。ヤブロコフ氏に週刊金曜日のインタビューで「放射能をめぐる状況で、政府が『安全だ』と言っても絶対に信じるなということです」と言っている。チェルノブイリの被害を知る人の発言こそ、信頼に値する。

 IAEAはチェルノブイリの事故でも甲状腺がんだけは被ばくとの因果関係を認めざるを得なかった。おそらく日本政府も同じで、甲状腺がんだけは医療費を無料にするなどして対処するだろう。しかし、それ以外の健康被害については被ばくとの因果関係を認めようとしないに違いない。ヤブロコフ氏も言っているが、個々人について発病の原因を特定するのは究極的に不可能だからだ。それをいいことに、政府は健康被害が顕著になっても知らんぷりを貫くのだろう。

 チェルノブイリの原発事故で被ばくした人たちは今でも健康被害が続いている。ヤブロコフ氏によると、福島の事故でも少なくともこれから七世代にわたって健康被害が続くだろうという。今後のことを考えると本当に気が滅入ってくる。

 政府がまずやらなければならないのは、汚染地に住む人たちの「移住の権利」を認めること、被ばくした人たちにできる限りの補償をすること、福一の収束作業を東電に任せないこと、日本にあるすべての原発の廃炉を決断することだろう。ところが、政府が福島で力を入れているのは、健康被害の不安を口に出すことがはばかられるような空気をつくることらしい。巧みなマインドコントロールだ。

福島で作られつつある異様な「空気」 (Life is beautiful)

 政府はそうやって福島に住民を戻し、除染で対処する方針のようだ。除染に巨額を投じるのは税金をドブに捨て、しかも住民を見捨てることに等しい。いい加減にしてほしい。

福島・除染は50年、総費用は25兆円?-でも手当できたのは44億円(めげ猫「タマ」の日記)

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