日本には向かない大型風力発電
風力発電の問題点については、これまでもカテゴリー「環境問題」の「銭函海岸の風力発電計画を考える」という連載記事で取り上げてきたが、福島の原発事故を契機にさらに風車の建設計画が進んでいるようだ。私は当然のことながら原発を止めて自然エネルギー(再生可能エネルギー)へ転換していくしかないという立場だが、だからといって自然エネルギーならなんでもいいしリスクは目をつむるべきとは思っていない。
とりわけ大型の風車を利用する風力発電はデメリットも多く、安易に賛成できない。これまでも書いてきたが、その一つは低周波音による健康被害だ。風力発電の低周波音による健康被害は世界中で確認されている。武田恵世さんの「風力発電と健康被害の実態」(北海道の自然51号、北海道自然保護協会)によると、日本はもちろんのこと、風力発電を行っている国ほぼ全てで健康被害が確認されているという。
共通した症状は、睡眠障害、睡眠遮断、頭痛、耳鳴り、耳閉感、動揺性めまい、回転性めまい、吐き気、かすみ目、頻拍、イライラ、集中力・記憶力の異常、覚醒時もしくは睡眠時に生じる身体内部の振動感覚に伴うパニック発作などだという。これらの症状は風力発電機が止まったり、風力発電機から十分離れるとなくなることから、風力発電との因果関係は明らかだ。ただし、症状が出る人と出ない人があり個人差が大きい。
それでは人の居住地を避けて発電機を設置すればいいという人もいるだろう。しかし、低周波音はかなり遠くまで届き、発電機が大型になるほど長い安全距離が必要になる。平地では少なくとも2.4km、山間部では3.2km以上民家から離す必要があるというアメリカの研究報告もある。狭い土地に住宅がひしめきあっている日本の場合、人家との距離を十分とることは難しい。北海道では風車は多くが風の強い海岸近くに建設されているが、民家が近くにない場所はほとんどないのではなかろうか。たとえ影響を受ける人の数が少ないといっても、健康被害を無視することはできない。
環境省は洋上風力発電の普及を目指しているという。ただし、日本の場合は海底に固定する着床式に適した場所が少ないため、海上に浮かせる浮体式に力を入れたいようだ。
日本の風力、洋上に活路 環境相、「7年で発電40倍以上」新目標言及(産経新聞)
しかし、日本は毎年台風に襲われるし、大津波に襲われる危険性もある。台風や大津波に洋上風車が耐えられるとは思えない。陸地にある風車も故障などで止まっているのをよく目にするが、洋上ではメンテナンスも大変。漁業との関わりもある。海鳥への影響も懸念される。そう考えると、日本では大型の風力発電はとても向いているとは思えない。
それだけではない。鶴田由紀さんの「風力発電による大気汚染物質の増加について-アメリカ・コロラド州の事例-」(北海道の自然51号、北海道自然保護協会)によると、アメリカでの調査で、風力発電は建設すればするほど火力発電所の運転を非効率にし、二酸化硫黄、窒素酸化物、二酸化炭素の排出量を増大させたことが明らかになったという。
また永尾俊彦さんの「風力発電 エコか公害か?」(週刊金曜日2013年3月22日号)によると、風力発電で二酸化炭素の排出量が増えるということに関しては、フランスの持続可能な環境連盟(FED)による調査結果でも確認されているとのこと。また、この記事では元北海道電力室蘭支店長の以下の発言を紹介している。
「風力は風まかせなので出力変動が大きく、そのままでは新聞社の輪転機や工場のモーターを回せない。『屑電気』なんです。良質で安価な電気の安定供給を義務づけられている電力会社が、風力の比率をある程度以上増やせないのは当然です」
しかし、北海道の石狩湾では洋上風力発電40基、エコパワー(コスモ石油系15基)、市民風力発電(グリーンファンド 生協系)10基、銭函風力発電(日本風力開発系)15基という驚くべき数の風車建設が計画されている。健康被害はもとより、石狩砂丘に残されている希少な自然(すでにかなり破壊されてしまった)のさらなる破壊も懸念される。以下参照。
石狩市での風力発電学習会 報告(ぬかみそ)
電力会社は風力発電をやりたがらないのに、風車建設だけが目白押しというのは、その陰に風力発電利権が絡んでいるのではなかろうか。
石狩湾の風量発電計画を考える 学習会(ぬかみそ)
週刊金曜日3月22日号には飯田哲也さんへの風力発電に関するインタビューが掲載されていたが、飯田さんの意見にはかなり愕然とした。健康被害を過小評価しているし、説得力のある主張にはなっていない。重要な発言をいくつか以下に引用したい。
(低周波音の被害について)低周波音が大きい場合には不愉快など人体に何らかの影響があることは否定しないが、風力発電からの低周波音はほかの音源に比べてはるかに小さく、学問的に影響が確認された例は見当たらない。
(二酸化炭素が減らないという意見について)経団連や御用学者がそういうことを言っているが、明らかな詭弁だ。風力発電所一つにバックアップ用の火力発電所が一つ対応しているという素朴なイメージから捏造したデマゴギーだ。
(フランスの持続可能な環境連盟による二酸化炭素増加の主張について)そのレポートはにわかに信じられない。ドイツ政府の公式統計を見れば、この20年間明らかに二酸化炭素を減らしている。
原発は断固として反対だし即時にやめるべきという立場だが、だからといってデメリット、リスクを無視して闇雲に自然エネルギーを普及させることがいいとは思わない。原発事故によるリスクより自然エネルギーのリスクは小さいからといって、リスクを軽視して邁進したなら、きっとあとになって誤算や無駄が生じるだろう。健康被害への補償、台風や津波による破損、メンテナンスの困難さ、効率の悪さによる損失、大気汚染物質の増大・・・。「急いては事をし損じる」のである。そうした無駄こそ省エネに反するではないか。
自然エネルギーへの転換は必要だが、それぞれのデメリットやリスクをしっかりと検討し、将来を見通したエネルギー計画を考えていくことこそ大事ではないかと思う。少なくとも大型風力発電が日本に向いているとは思えない。
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謹啓、茨城県神栖市に洋上風力発電の風車が設置されましたが取らぬ狸の皮算用で発電量では修繕維持費も捻出出来ず画餅となりました。結局、空疎な事業計画と政治家と業者の利権誘導にて決定されました。橋本昌県知事と額賀福志郎元財務大臣は毒饅頭の毒が回り茨城空港も出鱈目な需要予測をでっち上げ建設致しました。敬具
投稿: 関 正道 | 2013/03/26 20:15
やはり、メンテナンス費用も捻出できないのですか。まさに利権のなせる技ですね。リスクも十分に検討せずに飛びつくのは、資源とエネルギーの無駄づかいにほかなりません。
投稿: 松田まゆみ | 2013/03/26 22:49