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2013/03/11

原発事故から2年、いまだ真相を語らないNHK(追記あり)

 今日で東日本大震災から2年。最愛の家族や友人を震災で亡くし、避難生活を余儀なくされている方たちが未だに何万人もいるのかと思うと、いたたまれない気持ちになる。自然災害とはいえ、防災がしっかりしていれば助かった命も多いのだ。テレビの「復興」「復興」の掛け声もなにか虚しい。地震大国に生きる私たちは、効果的な防災対策に取り組むことこそあの日の教訓だろう。もちろん、それはコンクリートだけに頼ることではない。

 そしてまた、日本全国あるいは世界から寄せられた義援金はどうなったのだろうという疑問が残る。がれきの処理もかなりの税金の無駄づかいをしたとしか思えない。なんだか溜め息が出てくる。

消えた震災がれきの謎(日経ビジネス)

 それにもまして、私たちが学び、反省せねばならないのは世界中を放射能で汚染し、今も放射能を放出しつづけている福島第一原発の事故だ。ところが、原発事故のことがどんどん忘れられようとしているのではないか。

 昨日のNHKスペシャル「3.11あの日から2年 メルトダウン原子炉“冷却”の死角」は、福島第一原発の事故がどのように起きたのかを「冷却」に焦点を当てて検証した番組だった。おおよその内容は以下。

 まず、1号機と2号機の非常用冷却装置が作動したかどうかをめぐって現場が混乱していたという話し。1号機では非常用復水器(イソコン)という冷却装置が設置されていたが、電源喪失によってこれが作動しているかどうか分からなくなってしまった。そして、作動していないことを伺わせる兆候があったのに、作動しているのではないかという思い違いをしていた。また2号機ではRCICという冷却装置も作動しているかどうかが分からなかった。2号機の冷却装置に危機感を募らせているうちに1号機の水位がどんどん低下してメルトダウン。

 3号機ではディーゼルによる電源が維持されていたが、電源が切れるのは時間の問題だった。そこで、消防車による注水がなされたのだが、注水がうまくいかなかった。その原因は消防車からの水の半分近くが復水器に流れこんでしまい、炉心に十分に水が流れなかったとのこと。これについては事故調査委の報告にはなく、今回NHKがはじめて明らかにしたと言っていた。

 もうひとつ、4号機の燃料プールについても触れていた。こちらは線量が高くてとても建屋に入れなかったという作業員の証言があった。しかし爆発によって建屋が壊れたことで外部からの注水が可能になったとの話しだった。

 3号機の注水の失敗は新しい知見だった。しかし1号機と2号機の非常用冷却装置さえ働いていれば、また3号機の外部からの注水さえうまく行っていたら大事故は防げたかもしれないという印象を持たせかねない。もっとも不可解なのは、いまだに1号機の配管破断の疑いについて一切触れないことだ。これについては先日、元国会事故調査委の田中三彦さんが東電によって1号機の調査を妨害されたことを明らかにした。

 3月4日発行の週刊金曜日に、田中三彦さんへのインタビュー記事が掲載されていた。その中で田中さんは1号機に関し、未解明の3点について指摘している。非常用復水器からの出水の可能性、津波到達前に非常用電源が止まっていた可能性、電源喪失の前から原子炉内の圧力が上がらなかった可能性だ。これらのことから地震による配管破断の可能性が高いとしている。

 また、最近明らかにされた重要なことがある。それは1号機がベントを開始する前の12日早朝から放射能が漏れだしていたということだ。

 http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2013/02/post-3059.html 

 地震で非常用復水器につながる配管が破断したのなら、復水器が作動したか否かという以前の問題ではないか。配管破断や放射能漏れは1号機のメルトダウンを考える上で最も重要なことなのに、NHKは相変わらずこのことだけは報じない。12日早朝からの放射能漏れについても何も報じない。

 もう一つ指摘しなければならないのは4号機のこと。番組では爆発する前に建屋の線量がものすごく高くてとても中に入れる状態ではなかったという作業員の話しを紹介していた。しかし、その原因については何ら言及しなかった。原子炉に燃料が入っていない4号機の線量がなぜそれほどまで高かったのか。それは、ガンダーセン氏が指摘しているように燃料プールの水位低下によって燃料棒が露出したからに他ならないのではないか。

http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2013/02/post-7817.html 

 ガンダーセン氏にはおそらく東電から情報が行っていたのだろう。ところが、日本ではそれが報道されない。2年たった今も、国民に隠されていることがたくさんあるのだ。当然NHKだってそのくらいの情報は知っているはずだ。ところが事故の検証番組では決して出さない。ここにNHKの欺瞞がある。NHKに限ったことではないが、本当に重要なことを隠しているのは国民を愚弄していることにほかならない。

 もう一つ、大沼さんの最近の記事を紹介しておきたい。

http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2013/03/post-ee7c.html 

 米国西海岸では2011年3月17日から年末にかけて、新生児の先天性甲状腺機能不全が増加したそうだ。以下のブログでこれについて解説している。

小児甲状腺がんは全国的規模に拡大を示唆する論文が公表(エビデンスに基づく考察)

 「環境省による福島県外の甲状腺検査を考察する」では、日本の子どもたちの甲状腺ののう胞や結節の保有率はそもそもかなり高い可能性も否定できないと書いたが、福島の事故による被ばくで全国的にのう胞や結節の保有率が増えた可能性も否定できない。事故による被ばくで増えたのであれば、山下俊一氏が2000年に長崎で行った調査でのう胞の保有率が0.8%という結果も納得がいく。

 日本では政府もマスコミも事故に関する情報の隠蔽、被ばくの過小評価に必死のようだ。これは事故を反省する姿勢ではない。東電はそのうち健康被害で米国民から提訴されるのではなかろうか。もちろん日本国民からも提訴が相次ぐだろう。

【3月11日追記】
 以下のNatureの記事を是非お読みいただきたい。これは2011年10月27日号に掲載されたもので、ノルウェーの研究チームによる報告などを紹介したものだ。

放射性物質はどのくらい放出された? 

 「定期点検のために停止していた4号機では、核燃料は使用済み核燃料プールに貯蔵されていたが、3月14日にこのプールが過熱し、おそらく数日にわたり建屋内で火災が発生した」「さらに、Stohl らは、4号機の使用済み核燃料プールに貯蔵されていた核燃料が、莫大な量のセシウム137を放出していた可能性を指摘している」と書かれている。また、地震の直後にキセノン133が漏れ始めていたことも書かれている。

 ノルウェーの研究チームの試算は日本政府の推定値の2倍だというが、実際にはどれくらいの放射性物質が放出されたのか(今も放出され続けているが)はそう簡単に分かりそうにない。推定値がチェルノブイリより少ないからと安心するのは早計だろう。

【3月12日追記】
 4号機燃料プールの燃料棒の露出については、2011年3月15日に東電自身が記者会見でその可能性を語っていた。

4号機、水が蒸発し水素爆発か 燃料棒露出の可能性も(朝日新聞)

 そして、日本政府は3月15日にIAEAに、4号機の使用済み核燃料プールが炎上し、放射能が大気中へ直接拡散したと報告をしていた。

「4号機は使用済み燃料プールが爆発炎上し、放射能が直接大気中に拡散」と政府はIAEAに報告 大飯原発にはMOX燃料を使用か? (リュウマの独り言)

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コメント

謹啓、福島第一原発事故は国家のみならず北半球を揺るがす死活問題で地震等により使用済み核燃料プールが破損すれば宇宙船地球号の全搭乗員が全滅致します。二本足歩行ロボットも瓦礫で立ち往生、放射線線量が強過ぎて作業員も踏み込めず将棋で申しますと詰んだ状態、北斗の拳なら「お前は死んでいる」状態に至っております。使用済み核燃料の最終処分法も決めずに原発を始めたのが釦の掛け違いでした。敬具

関さんこんにちは。
使用済み核燃料の処分もできないまま原発を造りつづけたことで、未来にとんでもない負の遺産を残すことになりました。しかも活断層の上に平気で原発を建ててきたのです。この反省もなくして再稼働などというのは正気ではありません。ここまで日本政府が腐っていると思うと、とめどなく情けなく、怒りがこみ上げてきます。

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