「北海道電力〈泊原発〉の問題は何か」が語るもの
先日発行された「北海道電力〈泊原発〉の問題は何か」(泊原発の廃炉をめざす会編、寿郎社)を読み終えた。この本は泊原発の危険性をさまざまな視点から説明した本であるが、泊原発の問題は、日本のすべての原発に共通するものであることを再認識させられる。
内容は以下の7つの章からなる。
第1章 日本を変えるステージの始まり 市川守弘
第2章 倫理から見た原発 常田益代
第3章 泊原発に迫る地震と津波の危険 小野有五
第4章 泊原発は構造的にどこが危険なのか 斎藤健太郎・林千賀子
第5章 フクシマで起きたことが泊で起こったら 難波徹基
第6章 原発なしでも北海道はやっていける 菅澤紀生
第7章 司法はフクシマ事故に重い責任がある 海渡雄一
そのほかに「原発と向き合う-それぞれの現場から」として斎籐武一、村上順一、清水晶子、宮内泰介、みかみめぐる、宍戸隆子、鈴木亨各氏のエッセイも収録されている。
どの章も重要なことが書かれているのだが、私はとりわけ第3章の小野有五氏による「泊原発に迫る地震と津波の危険」が興味深かった。
泊原発の周辺に活断層があることについてはこれまでも小野有五氏が講演会などで話していたが、その話しをより深く噛み砕いて説明しているのがこの章だ。
日本の太平洋側では太平洋プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでおり、ここではしばしば海溝型の大地震が発生する。しかし、日本海側は太平洋側のように大きな地震が起こらないというのが多くの日本人の感覚ではなかろうか。小野氏によると1970年までは日本海側にはプレート境界がないと言われていたそうだ。ところが、1983年に秋田沖でマグニチュード7.7の日本海中部地震が起き、1993年にはマグニチュード7.8の北海道南西沖地震が、そして1995年にサハリンでマグニチュード7.6の地震が起きた。そしてこれらの震源が日本海の東縁に並んでいたころから、北米プレートとユーラシアプレートの境界がここにあることがはっきりしたという。
ただし、北米プレートとユーラシアプレートがぶつかってユーラシアプレートの沈み込みが始まったのは比較的最近のことだという。このためにまだ沈み込みが浅くて深さが50キロメートルほどしかなく、しかもプレート境界では複雑な運動が生じているという。
また、奥尻島は日本列島でもっとも早いスピードで隆起してきた島であり、しかも傾きながら隆起してきた島なのだ。その隆起は大地震によってもたらされたという。奥尻島の海岸にある露頭からは、4つの津波堆積物が確認されている。
奥尻島を隆起させてきた第一級の活断層が泊原発から100キロ圏内ぎりぎりのところにあるのだが、この断層が動けば間違いなく巨大な津波が発生する。また、二つの活断層が連動して動く可能性も高い。
そして、泊原発の周辺も奥尻島のように地震のたびに隆起した地域だという。泊原発のすぐ近くで、地震性隆起を示す地形が見られるのだ。すなわち隆起した海食洞やノッチ、海成段丘、離水ベンチなどだ。
泊原発は、いつ巨大地震や大津波に襲われてもおかしくないところに建てられているということに他ならない。改めてその恐ろしさを痛感する。
第4章の「泊原発は構造的にどこが危険なのか」では、福島第一原発で用いられていた沸騰水型軽水炉と、泊原発で用いられている加圧水型軽水炉の違いが一般の人にも分かりやすく解説されている。私もこの説明で相違点と問題点がだいぶ整理できた。福一の事故報道によって何となく沸騰水型のほうが危険なのではないかという思い込みを持っている人がいるかもしれないが、この解説を読めばどちらがより危険などということは言えないことがわかる。巨大地震にはどちらも耐えられない。
第6章の「原発なしでも北海道はやっていける」では、北電がしきりに脅していた電力不足がいかに欺瞞に満ちたものであるかを具体的に暴いている。原発を再稼働しないなら原発に代わるエネルギーが必要だが、再生可能エネルギーはそんなに簡単に普及できないという意見がある。しかし、原発なしでも電気は足りているのだから、これは再稼働を認める理由にならない。原発は即停止できる。あとは二酸化炭素を放出する火力発電などをいかに減らしていくかという問題だけだ。原発がないと電気が足りないと信じている人は、相変わらず原子力ムラに騙されているといっていいだろう。
本書を読めば、普通の感覚の持ち主なら、この国は直ちに原発の廃止を決定し、燃料を安全なところに移してほしいと思わずにはいられないだろう。原子力を続けるか否定するかは、地球の破局を黙って見ているか否かの選択といっても過言ではない。
最後に、福島から北海道に家族で避難された宍戸隆子さんの「故郷を奪われる苦しみ」から一部を紹介したい。
「原発は安全です」と、どれほど聞かされたでしょう。チェルノブイリの原発とは違うとも、五重の壁に守られているから放射性物質は外に漏れ出すことはないとも。原発がいかに安全でクリーンな未来のエネルギーであるかをつづったカラーの広報誌が時折配られました。でも原発は爆発し、たくさんの放射性物質が今もなお大気にも海にも放出されています。
町は原発のお金で生きてきました。原発関連の仕事についている人はたくさんいましたし、飲食業界にとって東電様は大事なお客様でした。そんな中で原発の危険を口にしたらどうなるか。「気が狂った」「変な宗教にはまった」「政治活動なのか」・・・・・・徹底的に抑圧されるか無視されるか、です。
安全神話が完全に崩れ去った今、それでも原発を稼働させたいと思っている人こそ「気が狂った」「変な宗教にはまった」人ではなかろうか。今までは騙されていた国民も、これからは「騙された」では通用しないし済まされない。もう決して騙されてはいけないのだ。原発を容認することがどれほど破滅的でどれほど大きな責任があるのかを、日本人の一人ひとりが考えていかなければならない。
なお、東洋大の渡辺満久教授よると、佐賀県の玄海原発以外の日本の52基の原発はみな活断層のそばまたは真上にあるとのこと。もしここで地震が起きたなら、耐えられる原発はない。ということは、次にまた日本の原発が過酷事故を起こすのは時間の問題でしかない。
日本中の原発52基はすべて活断層のそば、あるいは真上にある(小海キリスト教会牧師所感)
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