新岩松発電所新設工事アセスの公聴会で北電にレクチャー
昨日、新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書に係る公聴会が新得町で開かれた。暮れも押し迫ったこんな時期に公聴会とは・・・とは思ったが、道民として意見を言っておかねばならないので公述人として申し込んでいた。
今回の公述人は私を入れて3人。公述の制限時間は一人15分。13分で一度ベルが鳴るので、なんだか学会の口頭発表みたいだ。傍聴者は十数人だったが、大半は北電関係者と地元新得町役場の関係者のように見受けられた。
今回の公聴会のお知らせは11月30日付けで北海道のホームページに掲載されたのだが、少なくとも北海道新聞にはお知らせ記事はなかった。不可解に思って北海道の「報道発表」のページも見たが、報道発表がなされていないようだ。道条例に基づくアセス公聴会について報道発表しないとは、どういうつもりなのだろう。北海道のアセスに関わるページをこまめにチェックしている人などほとんどいないだろうから、マスコミが記事にしない限り大半の人は公聴会の開催すら気づかないだろう。一般の人がほとんどいないのは当然だ。結果として、事業者である北電へのレクチャーみたいな感じになった。
公述を行った3人は、ともに工事実施区域に生息しているシマフクロウへの影響について意見を述べた。このような公聴会では、賛成意見ばかり並べ立てるヤラセを疑わせるような公述人がたいていいるのだが、今回はそのような人はいなかった。泊原発3号機のプルサーマル導入に関する道主催のシンポジウムでは北電のヤラセが発覚して問題になったから、さすがにそれはできなかったのだろう。3人の公述人の意見は、事業者である北電社員には耳が痛い内容ばかりだ。北電関係者は、これらの意見をどう受け止めたのだろうか。
今回の公述内容は道職員が録音をとっていたが、要約したものを北海道環境影響評価審議会に提出するとのこと。しかし、なぜ要約したものしか提出しないのだろう。要約では伝えたいことのすべてが伝わらないし、重要な部分をカットされる可能性も否定できない。
道民意見のほかに、関係市町村の意見、北海道知事の意見が出され、それに基づいて最終的な評価書が作成されることになる。はたして道民意見はどれほど評価書に反映されるのだろう。ほとんど反映されないのであれば、「聞きおくだけの公聴会」という評価になる。
以下が私の公述原稿。北電関係者はこのブログをチェックされていると思うので、しっかり読んでいただきたい。
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私は、新岩松発電所の建設計画について知ったとき、シマフクロウへの影響のことが頭をよぎりました。北電はこのことについてどのように考えているのか大変疑問に思い「新岩松発電所新設工事環境影響評価方法書」および「準備書」を閲覧しました。これらを読んで浮かび上がってきた問題点について述べます。
シマフクロウ情報の隠蔽について
はじめに指摘しなければならないのは、方法書でも準備書でもシマフクロウの情報を隠蔽しようとしているのではないかということです。岩松地区を含むペンケニコロ川流域では、美蔓地区国営かんがい排水事業のアセスメント調査が行われていました。この報告書にはシマフクロウのことが書かれています。ところが「方法書」にはこのアセスメント報告書が参考文献として取り上げられていませんでした。北電がこのアセスメントのことを知らないというのはとても不可解なことです。
その後、北海道への公文書の開示請求によって、北電は美蔓地区国営かんがい排水事業のアセス調査を事前に知っていたことが分かりました。この文書は2010年11月26日付けの「岩松発電所再開発計画に係る事前相談について」というものです。ここには北電が次のような説明をしたと書かれています。「(近くで開発局がおこなっている、かんがい排水事業の自主アセスにならって)自主アセスを実施することで環境配慮の責任を果たすこととしたい」。つまり、北電は美蔓地区のかんがい排水事業でアセス調査を行っていることを知っていたにも関わらず、このアセス報告書を方法書の参考文献に取り上げなかったのです。シマフクロウの情報を隠蔽しようとしたとしか思えません。
また、この地域にシマフクロウやイトウが生息しているために、環境推進課が北電の自主アセスを認めなかったことも開示文書から明らかになりました。つまり、北電はシマフクロウやイトウが生息しているからこそ条例に基づいた環境アセスメントを実施しなければならなかったのです。ところが、「方法書」では驚くべきことに、「野生生物への配慮」を記載していなかったのです。配慮しなければならない希少動物が複数生息しているにも関わらず、野生生物への配慮を記載しなかったのはなぜでしょうか。私には希少動物への影響がないと見せかけるためだったとしか思えません。
また岩松地区はシマフクロウの生息地ですから、生態系の「上位性」の注目種として当然、シマフクロウを選定しなければなりません。ところが、準備書では「オジロワシ」と「クマタカ」しか選定していません。これも恣意的にシマフクロウを除外したとしか思えません。
北電が配布用に作成したカラー印刷の「準備書要約書」では、重要な鳥類としてオジロワシ、オオワシ、クマタカ、クマゲラ、オオジシギが取り上げられていますが、ここにはシマフクロウの種名はまったく見当たりません。
絶滅危惧種であるシマフクロウやイトウの生息地であるがゆえに環境影響評価を行うことになったにも関わらず、シマフクロウを無視あるいは軽視した方法書や準備書になっているのです。事業実施区域周辺に希少動物が生息していることは、事業者が事業を進めるにあたって不都合なことに違いありません。これらの事実から、北電はシマフクロウについて隠蔽しようとしたとしか考えられません。希少動物への影響を真摯に検討するという姿勢からかけ離れています。
杜撰なシマフクロウ調査について
次に指摘しなければならないのは、北電のシマフクロウの調査です。北電は、生態系の「上位性」の注目種としてシマフクロウを選定しなかった理由について、「対象事業実施区域ではシマフクロウの生息は確認されていない」と説明しています。しかし、対象事業実施区域にはシマフクロウの採餌場があります。岩松発電所が発電を停止すると、発電所の放流口は干上がった状態になり魚が取り残されるのですが、シマフクロウはそこを採餌場として利用しています。また、8月7日に新得町で開催された準備書の説明会でも、参加者からシマフクロウの声を何度も聞いているという発言がありました。北電が事業実施区域でシマフクロウを確認できなかったのであれば、杜撰な調査といわなければなりません。
そもそも事業実施区域で確認されなかったので「上位性」の注目種として選定しなかったというのは弁明でしかありません。知事は「方法書」に対して次のような意見を寄せています。「当該事業の実施により発電所放流口の移設や取水量が増加するなど、河川生態系への影響が懸念される。当該事業実施区域およびその周辺には採餌を河川に依存する希少種が生息する可能性があることから、当該事業の実施が要因となる河川生態系の変化が本地域の生態系上位種に与える影響について、準備書において予測・評価することが必要である」。知事は岩松地区がシマフクロウの生息地であり、シマフクロウは生態系上位種であるとして注意を呼び掛けているのです。シマフクロウを「上位性」の注目種に加えて報告書を書きなおす必要があります。
シマフクロウに与えるストレスを無視した評価
また、この準備書ではシマフクロウに与えるストレスが考慮されていません。猛禽類はきわめてデリケートで、騒音や振動、人や自動車の往来、環境の変化などに敏感に反応し、大きなストレスを受けることが分かっています。したがって発破を伴うような工事はシマフウロウに多大なストレスを与えると考えられます。ところが「準備書」では騒音や振動について「低減に努める」としているだけで、発破音の大きさや環境に与える影響などについて明らかにされていません。しかも、工事に伴う人や自動車の往来については何ら評価がされておらずストレスを無視したものとなっています。
準備書では「希少猛禽類については生息状況を把握し、重要な行動が確認された場合には専門家等の意見を踏まえ工事計画等の調整をします」としています。北電の説明によると「重要な行動」とは「繁殖に係る行動」であり、準備書の事業実施区域の周囲約500mの範囲では希少猛禽類の繁殖が確認されていないとのことでした。また、繁殖するような行動がないかモニタリングするとのことです。しかし、繁殖に関わる重要な行動が認められてから対策を講じるのでは遅すぎます。これでは何のためにアセス調査を行うのか分かりません。
また、繁殖していなければ大規模な工事をしても影響がないということにはなりません。たとえば、現在岩松地区にはシマフクロウが1羽しか生息しておらず繁殖できない状態にあるということもあり得ます。しかし、他の地域から分散してきた個体がここに住みついて番になる可能性はいつでもあります。現に、近隣にもシマフクロウの生息地があるのです。岩松地区は環境省がシマフクロウの保護増殖事業を行っているところであり、常にシマフクロウが安心して生息し、繁殖できる環境を確保しておくべきところなのです。北電は認識を新たにすべきです。
シマフクロウの情報の非公開について
さらに、シマフクロウに関して懸念されるのは、道民に情報が知らされないまま秘密裏に判断がなされることです。先に述べたように、この環境影響評価でもっとも懸念されるのはシマフクロウへの影響です。ところが、肝心のシマフクロウの具体的情報は別冊の報告書にまとめられて非公開となっており、道民はその内容を知ることができません。北海道環境影響評価審議会でもシマフクロウやイトウについての審議は非公開になっています。
北海道環境影響評価条例の第1章、第3条には次のように書かれています。「道、事業者及び道民は、事業の実施前における環境影響評価の重要性を深く認識して、この条例の規定による環境影響評価その他の手続及び事業の実施に際して講ぜられる措置等に関する手続が適切かつ円滑に行われ、事業の実施による環境への負荷をできる限り回避し、又は低減することその他の環境保全についての配慮が適正になされるようにそれぞれの立場で努めなければならない」
しかし、アセスメントにおいてもっとも重要な情報を秘匿にしているのですから、道民はこの条項に書かれている責務を十分に果たすことができないのです。もっとも重要な情報を非公開にして道民の意見を募るという感覚に驚きを禁じ得ません。道民を無視したアセスであり、アセス条例の主旨にも背くものです。
さらに、アドバイスをする専門家の名前も非公開です。このために、ごく一部の専門家に判断を託すことになります。専門家の名前を公開できないということは、責任の所在も明らかにしないということであり、アセスの信頼性にも関わってきます。アドバイスをしている専門家の名前を明らかにすべきです。
発電所からの放水量の変化について
もう一つ、シマフクロウだけではなく河川生態系への影響も指摘しておきます。
事業の目的の一つに最大出力の増加があります。出力を最大にしたときは発電所からの放水量がこれまでより大きくなります。また、ダムに水を溜めるために発電を停止する時間も長くなると推測されます。ということは河川の水量の変化が今まで以上に大きくなるということです。水量の変化は河川生態系に大きな影響をあたえます。この地域ではイトウが生息しており魚類への影響が懸念されます。
選択肢の追加について
最後に、環境に対する負荷を回避したり低減するための別の選択肢が用意されていないことについて述べます。
この事業の最大の目的は老朽化による設備の更新です。私は、老朽化した設備の更新自体を否定するつもりはありません。しかし、最大出力の増加はどうしても必要だとは思えません。
事業実施区域にはシマフクロウの採地場があるのですから、大規模な工事がシマフクロウへ影響を与えることは避けられません。であるならばできる限り影響を少なくするために、老朽化した水車や発電機を新しいものに交換するだけに留めるという選択肢があって然るべきです。ところが、この準備書でははじめから発電量の増加を前提としていて、交換のみに留めるという選択肢が用意されていません。これはアセス書として欠陥があると言わざるを得ません。
原子力発電による電力供給が増加するに従って、火力発電所の休止が増え、水力発電は原発の調整電力として利用されるようになってきました。原発は出力の調整が困難なために電力供給のベースとして使用し、原発で足りないピーク時の電力調整を水力発電で行うようになってきたからです。今回の新設事業は福島の原発事故以前に計画されたものですから、最大出力の増加は原発の調整に対応したものと考えられます。しかし、福島の原発事故以降、世論は脱原発へと向かっており、原発の依存度を減らしていくというのが国の方針です。泊原発が稼働していない現時点でも電力は足りており、最大出力の増加はどうしても必要なこととは思えません。
新設をせずに機器の交換だけに留めるという選択肢を加え、環境影響評価をやり直すべきです。
なお、準備書は意見募集の期間の終了とともに非公開になり、公聴会の意見を書く際に見ることができません。公聴会開催までは準備書を公開しておくべきであることを申し添えます。
以上
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