「えりもの森裁判」高裁から地裁へ差し戻しの画期的判決
昨日「えりもの森裁判」の高裁判決があった。判決は、原告敗訴の一審判決の一部を取り消し、地裁に差し戻しをするというもの。実質的に原告の勝訴である。高裁の橋本昌純裁判長は、一回目の口頭弁論で「いくらかでも損害があったら原判決を破棄せざるを得ない」と述べていたので、差し戻しの可能性が高いのではないかと思っていたのだが、その通りの判決だった。つまり橋本裁判長は損害があったと認めたということだ。
判決文は入手していないのだが、北海道新聞の25日夕刊と26日朝刊の記事を参考に、概要をお知らせしたい。
この裁判は、道有林の違法な伐採によって生物多様性に富む天然林やナキウサギ生息地が破壊されたことで森林の価値(公益的機能)が損なわれたこと、また指定した本数をはるかに上回る過剰な伐採が行われたことにより、北海道に300万円の損賠賠償を求めたもの。
森林の持つ公益的機能の損害を特定するのは容易ではないのは分からないではない。しかし、立木そのものに財産的な価値があることは言うまでもない。橋本裁判長は、高裁でこの立木の財産的価値の損害の有無に焦点を当てた。
伐採(販売)する立木は道職員が調査をしてナンバーやカラースプレーで印をつける。問題となっている区域では376本の立木を特定して業者に販売した。ところが業者は販売木以外に403本(そのうち直径6センチ以上の木が327本)も過剰に伐採したのである。ならば過剰に伐られたことで損害を被ったはずだ。この過剰伐採については被告の北海道も認めている(ただしそれらは価値がなかったと主張)。
ところが、驚くべきことに石橋俊一裁判長による一審判決は過剰な伐採があったかどうかも判断せず、損害について認めていない。これに対し、高裁の橋本裁判長は「過剰伐採があったか否か判断せずに請求を棄却した原判決は失当だ」(夕刊)、「過剰伐採と違法性の有無、当時の日高支庁長らの責任、損害額を審理する必要がある」(朝刊)とし、原告側が求めていた300万円の賠償金のうち100万円分の審理を地裁に差し戻ししたのだ。
民事訴訟で高裁から地裁への差し戻しが行われるのは極めて異例のことらしい。早い話、一審を否定してやり直しを命じたということだ。高裁で判断せずに地裁に差し戻した理由はよく分からないが、一審判決がそれまでの審理をあまりに無視し、判断しなければならないことについて判断を避けたいい加減なものだったからこそ、このような判決は看過できないとしてやり直しを命じたのではなかろうか。少なくとも私にはそう感じた。
高裁の判決を受け、差し戻し審では少なくとも違法性、過剰伐採による損害、道職員の責任などを判断しなればならないだろう。
北海道新聞の取材に対し、被告の北海道は「判決を精査し、道有林の森林整備・管理が適法だったことを主張したい」とコメントしている。
北海道は2002年3月に森林づくり条例を制定し、木材生産のための伐採は止めて、森林の公益的機能を重視する森づくりへと施業の方針を大きく転換させた。鬱蒼と茂っていた天然林を皆伐して植林するような施業が「適法だった」とは、よく言えるものだ。
えりもの森裁判が提起されたのは2005年の末。今年の末で丸7年になる。また地裁で審理をやり直すことになるので長丁場の裁判になりそうだ。
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