懸念される子どもの甲状腺がん
前回の記事「内部被曝・低線量被ばくのもたらす健康被害」で紹介した西尾正道さんの講演の中で「本当?」と思うことがあった。先日、福島で甲状腺がんの子どもが確認されたというニュースがあったが、西尾さんは事故による被ばくとは関係がないという意見だ。がん細胞が分裂して大きくなるには10年から20年くらいかかるのであり、事故の翌年にがんが発症することはない、という考えのようだった。
しかし、チェルノブイリの事故のときも確か事故の翌年位から子どもの甲状腺がんが発症しており、4年後くらいに急増したはずだ。1年ではがんが発症しないというのは本当だろうか?と不可解に思った。
中村隆市さんがこのことについて新聞記事を紹介している。
福島で小児甲状腺がん「事故無関係」危うい即断(中村隆市ブログ「風の便り」)
ここで、医師でもある長野県松本市長の菅谷昭さんがチェルノブイリでのデータを示して言及している。この記事にあるグラフでは、ベラルーシで子どもの甲状腺がんが86年2例、87年4例、88年5例、89年7例、90年29例・・・と増加していて95年がピークとなっている。
同じようなグラフは以下のサイトにも掲載されている。
ついに小児甲状腺がん発見 発表の仕方めぐり論争「過剰な反応が出ないよう最低限の説明」(ざまあみやがれい!)
こちらのグラフは別のデータのようだが、やはり事故の翌年から微増している。
どちらのグラフでも事故のあった年からすでに甲状腺がんが確認され、微増ののち4、5年目から急増している。この増加の仕方を見るならば、事故後1、2年の甲状腺がんは被ばくとの因果関係がないとは言い切れないのではなかろうか。
中村さんの記事にはベラルーシ場合、子どもたちの甲状腺がん検査は半年に一回だったそうだ。福島医大の山下俊一氏は、検査は2年ごとでよく、自覚症状が出ない限り追加検査は必要ないとまで言っている。
【福島県健康調査】山下副学長のおふれ「カルテみせず」「再検査2年後」 (田中龍作ジャーナル)
いかに日本がチェルノブイリから学ぼうとしないのかがよく分かる。健康調査も旧ソ連以下だ。この国では病気に関して日頃から「早期発見・早期治療」と口を酸っぱくし検診を勧めているのではないか。ところが、おかしなことに甲状腺がんに関する対処は正反対だ。よほど被ばくとの因果関係を認めたくないのだろうが、数年もしたら認めざるを得なくなるのではなかろうか。みっともない話しだ。
私はこの国で奨励している過剰ともいえる検診には反対だが、原発事故との因果関係が懸念される病気に関してはきちんと検査や診察を行うべきだと思う。被ばくが原因で病気が発症した可能性が高いと認識できれば、被ばくへの対処も違ってくる。加害者がはっきりしていることであり、損害賠償の対象にもなる。
しかし、それ以前にやらねばならないのは移住を希望する人たちに移住を保証するということではないか。被ばくによる病気の発症が懸念されるのに、ただ検査をして経緯を見ているなどというのはモルモット扱い同然であり、棄民政策にほかならない。
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