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2012/09/07

原発の調整に使われるようになった水力発電

 北海道電力は、岩松発電所の新設工事に関して9月4日まで環境影響評価準備書の意見募集をしていた。以下は十勝自然保護協会が北電に提出した意見書である。

新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書への意見書 

 この工事でアセスメントを実施することになったのは、岩松発電所一帯がシマフクロウの生息地であり、工事がシマフクロウに影響を与える懸念があるということだ。ところが、北海道電力は一般の道民向けに作成した準備書の要約書にシマフクロウのことを一切書いていない。要約書しか見ていない道民は、ここがシマフクロウの重要な生息地であり、そのためにアセスを行っていることがまったく分からないのだ。

 準備書でも、「希少種の保護」を理由に、非公開扱いになっている。つまり、肝心のシマフクロウについての記述は、北電関係者、北海道のアセス担当者、一部の専門家などしか知ることができないのである。

 アセスの本質部分を道民に隠して、「環境について意見を言ってほしい」というのだから、何のためにアセスをするのかということになる。しかも、責任のある立場にある専門家の名前も非公開だ。これが今回のアセスの最大の問題点だと思う。

 ところで、この新設工事の目的は取水量を増やすことで最大出力を増大させることだ。北電によると、現状では最大使用水量が37.50立方メートル/秒で最大出力が12,600キロワットだが、これを45.00立方メートル/秒で16,000キロワットにするという。実は当初計画ではもっと発電量を大きくする予定だったのだが、発電所前の十勝川はラフティングに利用されており、川の水量が減少する区間が長くなるなどの問題が生じるため計画変更したのである。

 この新設工事は3.11の東日本大震災の前からの計画である。だから、北電は福島の原発事故とは関係なく出力の増加を考えていたことになる。

 以下の動画は元北電社員の水島能宏(よしひろ)さんによるレクチャーだ。この動画の38分40秒あたりで、水力発電の貯水池の水は蓄電池と同じであり、水力発電所はピークのための発電所であると説明している。

元社員が話す、原発をやめられない意外な理由-その1(1/2) 

 原発は出力を調整するのが困難な発電方法なので、火力発電や水力発電がピーク時の調整を担っている。とりわけ蓄電池の役割をする水力発電はピーク時電力の調整のためには都合がいい。もちろん原発がなかったころはそういう発想はなかったから、もっとコンスタントに発電をしていたのだろう。原発によって水力発電の位置づけが変わり、貯水池の水の使い方も変わってきたのだ。福島の原発事故によって、水力発電と原発との関連性が見えてきた。

 岩松発電所の場合、岩松ダムからの取水量を増加させて発電量を増やそうという計画だ。ダムに流れ込む水の量は決まっているから、ダムからの取水量をどんどん増やしてしまえばダムの水が空になってしまう。発電のために使える水の全体量には限度がある。それにも関わらず取水量を増やして最大出力の増加を図るということは、一時的に発電量を増やしたということに他ならない。

 結局、岩松発電所の新設工事は、原発を前提としたピーク時への対応ということなのだろう。

 問題は、こうした操作によって川の水量が大きく変動してしまうことだ。取水量を最大にしたあとはダムに水を溜めるために取水を絞らねばならない。すると川への放流量が激減する。今でも発電所の放流口から下流ではしばしば川の水が激減して魚が干上がってしまうことがあるそうだ。水量の変化は魚類に大きな影響を与えるのである。

 北電は十勝川でこれ以外にも環境に影響を与える工事をしている。十勝川の上流にある富村ダムの堆砂除去のためのトンネル工事だ。北電は二つの理由を挙げて堆砂除去が必要だとしている。ひとつは堆砂がダムの安定性に影響を与えるということ、もう一つは、調整池(富村ダム)末端部の河川水位が上昇することで周辺の森林に影響を与えるということだ。しかし、ダムは満砂になったとしても十分耐えうるように設計されているし、調整池末端部の水位上昇についても意味不明である。富村ダムについては以下を参照いただきたい。

トムラ三原則を反故にしてトンネル工事を強行した北海道電力 

 落差を利用してコンスタントに発電をするだけなら、大きな容量の貯水池は要らない。しかし北電はトンネル工事をしてまで堆砂除去をしたいのだ。その理由は何か?

 富村ダムの堆砂除去は、貯水量を増やすことで蓄電池全体の容量を大きくするためだろう。これもピーク時に最大出力を維持できるようにすることが目的としか思えない。岩松発電所の新設工事にしても富村ダムの堆砂除去にしても、その陰には原発の調整役として一時的な最大出力の確保があるとしか思えない。

 しかし泊原発が停止していれば水力発電をピーク時の調整役に利用する必要はない。ピーク時も火力と水力の双方で適宜調整すればいいのである。将来は原発ゼロにしようという方針の中で、環境に影響を与える工事がほんとうに必要なのか見極めなければならないだろう。

 今年はかなりの猛暑だったが電力は何の問題もなかった。ところが北電は再び冬の電力が不足する可能性があると主張している。この試算には本州からの融通は含まれていないし、節電効果も盛り込んでいない。水島さんの話しでは10月から苫東4号機が動くので電力は十分供給でき問題ないという。泊原発などなくても、今ある火力発電や水力発電で十分にやっていけるのである。

 水島さんの話しは、マスコミなどでは報道されない北電内部の事情が吐露されていて非常に興味深い。電力会社は原発のために揚水発電所を造り、オール電化住宅を喧伝してきたのだが、福島の原発事故によりそうした欺瞞が露呈してしまった。以下は水島さんの動画の「その2」である。

元社員が話す、原発をやめられない意外な理由-その2(2/2)

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