里山の生物多様性を破壊するトヨタテストコース問題
トヨタ自動車のテストコースのことについてはこれまでも以下の記事に書いているが、トヨタ自動車はこの秋にも造成に着手しようとしている。
この開発事業は、愛知県の豊田市と岡崎市にまたがる里山を破壊して652ヘクタール(東京ドームの141倍)にも及ぶ施設を建設するというものだ。ここには多数の希少動植物が生息・生育している。私は行ったことがないが、サシバやオオタカ、ハチクマなどの猛禽類やミゾゴイをはじめとした多くの絶滅危惧種が生息しているという。
サシバなどはちょっと前までは里山に普通に見られた猛禽類だが、今では絶滅危惧Ⅱ類になってしまった。こうした生物にとって残された里山はかけがえのない生息地だ。 青山貞一氏が、この問題について分かりやすくまとめた動画を作成した。13分ほどの動画なので是非ごらんいただきたい。トヨタ自動車がいかに独善的に事業を進めているのかがわかる。
21世紀の巨大開発と秀逸な里山破壊 トヨタテストコース
すでにトヨタ自動車はいくつものテストコースを持っているのであり、まずは必要性に疑問を抱かずにはいられない。こうした開発行為は税金対策ではないかと疑ってしまう。
生物多様性保全の面から考えても、大企業こそ率先して生物多様性国家戦略を遵守して開発を見直すべきだし、行政はこのような開発行為を規制する立場にある。ところが、この事業では行政(愛知県企業庁)がトヨタと手を組んで開発を進めているのである。
この動画によると、「環境保全交渉の地元窓口となっていた自然保護団体が条件つきながら開発を容認する声明を発表した」とある。私は若い頃から自然保護運動に関わってきたが、これはかなり驚きだ。生物多様性保全は国をあげて取り組まねばならないことであり、特定の自然保護団体の判断に委ねるようなことではない。
しかも行政は反対する地権者を裁判に訴えるという暴挙に出ている。中国電力が上関原発に反対する住民を提訴したのと同じ構図であり、スラップ訴訟といえるだろう。また、全国環境保護連盟の岩田薫氏らが刑事告発を行っているほか、行政訴訟も提起している。地元の自然保護団体こそ最後まで主張を貫いてほしかった。
愛知県は分厚い「レッドデータブックあいち2009」を出している。植物編と動物編に分かれており、植物編は758ページ、動物編は649ページもある。これだけ立派なレッドデータブックを出している都道府県はほとんどないだろう。「発刊にあたって」で、当時の神田真秋知事は以下のように書いている。(一部抜粋)
私たちは自然から多くの恩恵を受け、里地里山では人と自然が共生する生活を営んできました。
しかし、近年の都市化、工業化の進展や大量生産・大量消費型の社会システムの変化が自然環境に様々な負荷をもたらしており、それらを要因とする野生生物種の減少がみられ、その保護は本県のみならず、地球規模での課題となっています。
平成4年にはブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットで「機構変更枠組み条約」と「生物多様性条約」が採択され、わが国もこれらの条約を締結しました。
このような状況の中で、本県では、絶滅の恐れのある希少な野生生物種を守り、生物多様性の確保を図っていくため、平成13年度に絶滅のおそれがある野生生物の分布状況や生育状況をレッドデータブックあいちとしてとりまとめました。
里山の重要性と生物多様性保全の必要性を述べているのである。
また「レッドデータブックあいち2009動物編」の「ミゾゴイ」の項の「保全上の留意点」には以下のように書かれている。
丘陵地から山間部に存在する大小の沢筋がこの種の催事場所であることが多く、こうした環境を保全する必要がある。開発や道路建設を行う場合は、生息するすべての生物について調査を行って環境を保全する努力が重要であり、既設の道路や開発部分では環境回復の施策が必要である。
2005年の愛知万博では当初予定されていた「海上の森」の保護をめぐって反対運動が展開され、オオタカなどの希少動物の生息地を破壊する万博は時代に逆行するとの批判を浴びた。そして、結果的には会場を変更することになったのである。この時の知事が神田真秋氏だ。神田氏はこのような経緯から少しは生物多様性保全に理解を持ったのかと思ったのだが、どうやら彼の生物多様性保全は口先だけだったようだ。
トヨタのテストコース開発は、神田前知事自身が発した里山の生物多様性保全の精神に逆行するものであり、愛知県のレッドデータブックの記述を反故にするものだ。
このトヨタ自動車のテストコース問題は、事業主がトヨタという大企業だけにマスコミなどではほとんど報じられない。しかし時代錯誤の自然破壊であり、先進国としてあまりに恥ずかしい行為だ。
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