「黒い雨」と放影研の欺瞞
NHKは政府におもねった番組が多くて期待はずれのことが多々あるが、8月6日のNHKスペシャル「黒い雨 活かされなかった被曝者調査」は、久々に重要な内容の告発番組だった。
広島、長崎の原爆による被曝者の調査を行ってきたABCC(原爆障害調査委員会。のちに放射線影響研究所として引き継がれた)は、原爆投下直後に降った「黒い雨」に当たった人たちの調査を行っており、「黒い雨」などの残留放射線の影響について指摘した報告書も出されていた。しかし、放影研は残留放射線の影響を考慮しようとせず、「黒い雨」の調査も隠し続けてきたのである。
守田敏也さんと「さつき」さんが番組内容を書き起こししている。以下は守田さんによる書き起こし。
明日に向けて(526)「黒い雨 活かされなかった被曝者調査(NHKスペシャルより)
以下は「さつき」さんによる書き起こしと感想。
「黒い雨」のことについては毎日新聞に加藤小夜さんの「『黒い雨』被害者切り捨て」という記事が掲載されている。広島の「黒い雨」で被曝した人々は政府に対して「擁護対象区域」の拡大を求めた。また広島市も援護対象区域の6倍の広さで黒い雨が降ったと主張して「援護対象区域」の拡大を求めた。ところが、厚労省の有識者検討会は、多数の被曝者らの証言を無視して対象区域の拡大を認めず、国もそれを追認した。「黒い雨」の被害者は今も被曝者として認められていないのである。
毎日新聞の記事は守田さんも紹介している。リンク切れの際はこちらを参照いただきたい。
明日に向けて(524)「背を向けたまま費学国を名乗るな」(毎日進軍「記者の目」より)
もうひとつ、週刊金曜日8月10日号(907号)の「『ヒロシマからフクシマへ』-闘い続ける写真家、福島菊次郎。90歳」という記事から、ABCC(放影研の前身である原爆傷害調査委員会)について書かれている部分を以下に引用しておきたい。
ABCCは日米合同の委員会と言うが、ペンタゴン直属の軍事機関。巨大な国家機密の暴力そのもの。疫学・生物統計学部では被曝者36万人の戸籍原簿を保管し、被曝地点、熱線を受けた角度、周囲の状況等を地図に落とし、10万人を二年に一度検査し、死亡届が出ると直ちに喪服を着た職員が遺体の提供を遺族にお願いしに行く。僕はABCCを騙して実際に中に入り、どれくらい被曝者が解剖されたかを知るわけです。48年からの二年だけで5592体。あらゆる臓器の克明なプレパラートを作っていた。ペンタゴンは当時、被曝者を核兵器開発の実験材料にするため「一切治療しないように」と通達を出していた。中村さんも奥さんが亡くなったとき、葬式を出すために解剖を受け入れ、3000円もらいました。
一方、最近になってイアン・ゴッダード氏は日本の原爆被曝者のデータを解析し、低線量被曝による発癌や癌以外の病気について警鐘を鳴らしている。ホルミシス(危険性よりも放射線が健康によいとする説)の疑問点も具体的に示している。また、遺伝子の受けるダメージは低線量被曝が高線量より害があるという推論を裏付ける証拠もグラフを用いて指摘している。
原爆被曝者に関する膨大なデータを持ちながら、低線量による被ばく、「黒い雨」による被ばくを徹底的に無視し、被曝者たちを治療もさせずに放置してきた放影研の責任は極めて重い。広島、長崎の原爆被害者はまさにモルモットにされたのである。
原爆投下から67年経ち、原発事故という惨事を経たいまになってようやく原爆による被害実態が明るみになりつつある。そして何よりも恐ろしいのは、また福島の原発事故で同じことを繰り返そうとしているこの国の姿勢だ。原爆による被ばくの事実がこれほどの年月、隠されてきたのである。日本政府は福島で起こっていること、これから起こることも隠し続けようとするに違いない。
南相馬市の「ぬまゆ」さんも、原発が爆発したときに雨に当たっている。
大震災と原発事故に・・どう対処する?(ぬまゆのブログ その1)
そして彼女には原発事故以来、原因不明の不可解な症状が次々と現れている。今日はご自身と友人の脱毛について書いている。
わたくしと、親友の「頭」(ぬまゆのブログ その3)
ぬまゆさんを襲った症状は被曝の急性症状である可能性が高い。首都圏でさえ鼻血、下痢、紫斑など、被ばくによる急性情状が疑われる報告が多数ある。ところが、政府は8月10日に楢葉町の警戒区域を解除して、町民に帰還を呼び掛けた。子どもたちの甲状腺の検査も消極的だ。またも被曝者をモルモットにしようというのだろうか。
被曝者がどれほど事実を訴えても、データを隠し責任逃れのために事実を見ようとしない人たち。ここまで過去に学ばない国であるという現実に、身の毛のよだつ恐ろしさを感じてしまう。
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