夢のようなアカシジミの乱舞
38年前(1974年)の今ごろ、私は一人で北海道をほっつき歩いていた。大学2年の夏休みがはじまると、のこのこと北海道に探鳥旅行に出かけたのだ。北海道には本州では見ることのできない野鳥がたくさんいる。草原でのびやかに囀るノゴマやシマアオジ、シマセンニュウやマキノセンニュウ・・・。岩礁海岸にはウミガラスやケイマフリ、エトピリカ・・・。そんな野鳥の姿を求めて北海道の旅を計画した。
北に位置する北海道はさぞかし涼しいのではないかと長袖しか持っていかなかったのだが、予想とは裏腹に空は毎日のように晴れわたり、直射日光がじりじりと照りつける炎天下はまさに灼熱だった。ただし、木陰に入ると乾いた風があっという間に汗を吹き飛ばした。じとじととした本州の暑さとは雲泥の差だ。そんな中を、野鳥を求めて歩き回ったのが懐かしい。
あれは、豊富温泉に泊まった7月19日のことだ。ユースホステルに着いて宿泊の手続きをしたあと、夕食まで間があったので双眼鏡を持って散歩に出た。いかにもひなびた温泉街で、歩くところはさほどない。
すぐにゆったりと流れる川にぶつかった。なにげなく川を覗くと、オシドリの夫婦がひっそりと泳いでいる。今は夏なので、雄はあの派手な衣装はまとっていない。雌と同じような黒っぽい羽毛で目の周りだけが白くなっていて、まるでケイマフリのようだ。オシドリといえば樹洞で営巣をする。この近くで繁殖したのだろうか。人の生活圏の近くでオシドリが繁殖しているとは、なんとのどかなところなのだろう。
川のほとりに佇んで北辺の地のしずかな夕暮れの景色をぼんやり眺めていると、対岸に茂る木々のあたりに何かがチラチラしているのに気がついた。双眼鏡の視野に入ったそれは、橙色をした小さなチョウだった。アカシジミの乱舞ではないか! アカシジミは見たことがなかったが、そのチョウがアカシジミの仲間(アカシジミまたはキタアカシジミ)であることはすぐに分かった。
だいぶ傾いた日差しの中で、濃い緑の葉(たぶんミズナラだったのだろう)をバックに無数のアカシジミが舞っている。翅の表のオレンジと裏の白っぽい色が交差して、チラチラと輝いている。なんと幻想的な光景なのだろう。まるで夢の中にいるかのようだ。そして、こんな光景が展開されているのに、それを見ているのは私しかいない。私は狐につままれた心地でしばし見とれていた。
アカシジミの乱舞を見たのは、後にも先にもこの時だけだ。今でもあんな光景は見られるのだろうか。
ちょうど同じような光景がYouTubeにアップされている。
アカシジミ夕方活動~津軽での大発生
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