生物多様性に富む農高カシワ林の自然
2日は帯広農業高等学校の東側にあるカシワ林で観察会があった。講師はここを研究のフィールドとしている帯広畜産大学の紺野教授。
ちょうど木々の葉が芽吹いて間もない新緑のきれいな季節で、林床にはスズランが咲いている。もう少し葉が茂ったらもっと暗い森になるのだろうが、今はほどよく明るく気持ちがいい。私はこのカシワ林の中に入ったのは初めてなのだが、大径木のカシワが多い。面積は12haほどでさほど大きな森林ではないが、中に入ると人里離れた自然の中にすっぽりと入りこんでしまった感じで、とても帯広の市街地の近くとは思えない。
カシワ林といってもカシワしかないわけではない。ミズナラ、ヤチダモ、ハリギリ、イタヤカエデ、エゾヤマザクラ、アズキナシ等々、さまざまな樹が混じっており樹種はかなり多いようだ。
帯広近郊のカシワ林の調査をしている紺野教授によると、①胸高直径40~50センチほどの大きなカシワが多い、②あまり人手が加わっていない、③カシワ林と湿生林がセットになっている、ことがここのカシワ林の特徴だという。
十勝にはカシワ林が何カ所か残されているが、太い木が多いところは珍しいという。若齢のカシワ林の場合は大きな木に若木が負けてしまうため若木が枯れるが、ここのような老齢林の場合は老齢木から枯れていく。たしかに見事なカシワが多く、枯死したり、風で折れた大径木も見受けられる。
「親木の下に子どもは育たない」とよく言われるように、ここのカシワ林でも若い木は非常に少ない。芽生えて間もない稚樹はそれなりにあるが、大きくなる前にそのほとんどが枯れてしまう。親木の陰になり光環境が悪いことと、親木につく害虫や病原菌に幼木は負けてしまうことがその理由だという。大量のドングリを実らせても、後継木として生き残れるものはごく限られる。
東の端は段丘になっており、段丘から水が湧き出して湿地となっている。この段丘下はヤチダモなどを主体とした湿生林だ。水辺にはエンコウソウが群落をつくっている。カシワ林と湿生林の組み合わせによって、生物多様性に富む環境となっている。
この湿生林の中には小さな流れがあり、ここでナミハガケジグモを見つけた。このクモは北海道と東北の北部に生息するのだが、小さな川などの水辺に生息しているクモで、市街化の進んだ帯広市では生息している場所は限られているのではかろうか。
「カシワ林保護のために価値観の転換を」にも書いたが、カシワ林の北にある学園通りの拡幅のため、カシワ林の一部を伐る計画がある。しかし、紺野教授は希少なカシワ林を伐るのは反対であるとの意見だ。やはり僅かに残された希少な自然には手をつけるべきではないだろう。ここは北海道の「環境緑地保護地区」に指定されているのだが、保護区を保護できないのなら何のために保護区に指定するのか分からない。
伐ってしまえば、決して元には戻せない。安易に「伐る」という選択をするのではなく「守る」ことに知恵を絞るべきだろう。
【6月23日追記】
この問題で、十勝自然保護協会と地球環境を守る十勝連絡会が帯広市に対して3車線化の提案をした。この案ではカシワ林を伐らず、道路も曲げずに渋滞を緩和することができる。以下を参照いただきたい。
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