ナキウサギ生息地をスキー場にする加森観光の暴挙
7日の十勝毎日新聞に「道『北斜面』を許可 加森観光サホロスキー場の増設 13年冬開業へ」という記事が掲載された。加森観光がサホロスキー場の北斜面にスキーコースを増設する計画をめぐり、自然保護団体が中止を求めていたことはこのブログでも何回か書いてきた。
スキー場開発に関しては土地所有者である林野庁の使用許可と、北海道自然環境等保全条例に基づく特定開発行為の許可が必要なのだが、自然保護団体の反対によりこれらの許可が下りていなかった。ところが、林野庁が5月30日付けで許可を出し、それを受けて北海道も6月5日で開発許可を出したのである。このために加森観光は7月にも伐採を開始する予定だという。
このサホロスキー場開発で最も問題にされているのは、ナキウサギ生息地の保全だ。この5月には十勝自然保護協会やナキウサギふぁんくらぶ、サホロリゾート開発問題協議会のメンバーらが現地調査を行ったのだが、開発予定地にはナキウサギの生息できる立派な岩塊地が存在する。サホロ岳一帯には数カ所の岩塊地があり、過去にはナキウサギのフンも発見されている。このスキー場予定地の立派な岩塊地は、サホロ岳一帯のナキウサギ生息地のコア的存在であり、極めて重要な場所と考えられる。
ところが、加森観光から自然環境の調査の委託を受けた森林環境リアライズは、この岩塊地でのナキウサギ調査をわずか1回(1日)しか行わず、報告書では「生息していない」と結論づけてしまった。
私は「えりも」の大規模林道予定地や、新得町のラリーコースでのナキウサギ調査に何度も参加しているが、ナキウサギが生息しているか否かは1回の調査で結論づけられるものではない。何度も現地に足を運び、貯食や食痕、フンなどを根気よく探さねばならない。食痕は見つかっても一度も鳴き声を聞いたことのない生息地はたくさんあるし、わずかな食痕しか見つけられなかったが何度か通ってようやく鳴き声を聞いた場所もある。
調査を請け負ったコンサルタント会社が、受注者の意向を汲んだ結論を出すというのはこの業界の常識だ。ここのナキウサギ調査も、「生息していないことにしよう」という結論が先にあったとしか思えない。そうでなければ1回の調査だけで「生息していない」と結論づけることなどとてもできない。
ここから見えてくるのは、加森観光という企業の自然保護に対する姿勢だ。加森観光がサホロスキー場の経営を手掛ける前にも北斜面のスキー場開発の構想があったのだが、それは中止に追い込まれたという経緯がある。その頃より生物多様性保全の意識はずっと高まっている今、加森観光は希少動物の生息地の開発を平然と行おうとしている。
さらに情けないのは北海道だ。北海道も生物多様性保全を謳い、希少な動植物の保全に取り組む立場にある。
サホロ岳のナキウサギの問題に関しては、自然保護団体が北海道に許可をしないように要請していたのだが、自然保護団体の指摘など無視同然だ。いくら立派なことを謳っていても、希少動物の生息地を破壊する開発行為を規制できないのなら、生物多様性保全計画など絵に描いた餅にすぎない。こうしたことは環境省もまったく変わらない。
もう一つ、指摘しておかねばならないことがある。冒頭で7日の十勝毎日新聞がこのニュースを報じたと書いたが、北海道新聞は8日および9日の「帯広・とかち版」で報じた。十勝毎日新聞より1日遅いのである。
さらに十勝毎日新聞の記事では、自然保護団体について以下のように書いている。
開発をめぐってはこれまでに、町民は自然保護団体などを交えて説明会を開催。一部に国有林の伐採に慎重な意見もあった。
これに対し、北海道新聞(9日の記事)では、以下のようになっている。
一方、開発計画をめぐっては、道内の自然保護団体が計画区域内にあるナキウサギ生息地に適した岩塊堆積地や天然林の重要性を指摘し、開発中止を求めてきた。
十勝毎日新聞は、自然保護団体が明確に反対していた事実を曖昧にし、許可を歓迎するかのような論調だ。士幌高原道路の反対運動の際も同じ傾向があったのだが、十勝毎日新聞は私に言わせれば「御用新聞」だ。
その御用新聞の方が北海道新聞より1日早く記事を書いたということは、御用新聞だけにリークし、北海道新聞が十勝毎日新聞の記事を見て後追い記事を書いたということだ。
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