戸籍の不正取得事件で注目される刑事罰
昨年、司法書士や探偵業者などが戸籍を違法に取得して逮捕・起訴された事件があった。去る18日に、そのうちの一人である司法書士事務所経営の奈須賢二被告に、懲役3年の実刑判決がでた(ただし控訴もありえるのでまだ刑が確定したわけではない)。奈須被告は職務上請求書を偽造して愛知県の警察官などの戸籍謄本などを不正取得し、探偵事務所に売り渡していた。有印私文書偽造・同行使と戸籍法違反に問われたのである。
戸籍謄本不正取得:司法書士事務所経営者に実刑判決(毎日新聞)
司法書士や行政書士は、戸籍や住民票の写しを請求できる「職務上請求書」というものが使える。これは司法書士や行政書士が所属する司法書士会や行政書士会から購入するのだ。この職務上請求書を不正使用して個人情報を違法取得する事件が後を絶たない。多くの場合、違法取得した個人情報は探偵社や興信所に売り渡すのだ。違法に戸籍や住民票を取得しても取得された本人はまったく気づかないから、やりたい放題になっている。しかも稀に発覚しても、行政書士会や司法書士会などの処分は極めて軽いのが通例だ。
懲役3年という奈須被告の量刑が重いか軽いかは意見の分かれるところだと思うが、お金のために大量の個人情報を流出させたことの責任は重い。以下のブログでも取り上げられているように職務上請求書を1万枚も偽造して1枚5000円から15000円で売っていたという。単純計算でも5000万円は得ていたと推測できる。裁判所も「個人の信用情報にまで手を広げ、多額の利益を得ていた」と認定している。
そして、問題なのはこれらの個人情報は司法書士から探偵社、探偵社への依頼人など複数の人の手に渡ってしまうことだ。戸籍は出生や死亡、家族構成や婚姻関係などが分かるきわめてプライベートな情報であり、厳重に管理されなければならないものだ。流出したものが悪用されないとも限らない。しかもこの事件は暴力団や統一教会なども関わっているようで、かなり複雑な様相を呈している。
2008年から住民基本台帳法と戸籍法が改正され、住民基本台帳法違反と戸籍法違反は30万円以下の罰金刑が科せられることになった。住民票や戸籍の違法取得は刑事罰が科せられるのである。起訴された他の司法書士や探偵業者の判決がどうなるのか分からないが、戸籍法違反という違法行為に手を染めたことは明らかだし、自己の利益のために違法行為を平然と行っていたことにおいて悪質性は高い(実際に職務上請求書を違法に使用するのは行政書士や司法書士だが、取得を依頼した探偵事務所や興信所も共犯(教唆罪)になる)。
以前にも報告したが、私も行政書士によって戸籍を違法に取得された被害者だ。このために行政書士と興信所経営者を刑事告訴したのだが、理由もわからないまま「嫌疑不十分」で不起訴にされた。
被害者が違法行為を知り得た数少ない事例だったのに、捜査機関は訳のわからない甘い対応をしたのである。証拠があるのに告訴を門前払いしてしまうなら、何のために刑事罰を設けたのか分からない。
それにしても同じ戸籍法違反を犯しておきながら、起訴される場合とされない場合があるというのは何ともおかしなことだ。今回の事件では司法書士や探偵業者にも恐らく刑事罰が下るのだろう。
この事件、戸籍の違法取得をしたのは司法書士だけかと思っていたのだが、実は行政書士を兼務している司法書士がおり、偽造した行政書士用の職務上請求書を使用して戸籍や住民票の違法取得もしていたようだ。以下が東京都行政書士会の会長談話だ。起訴されたとなると行政書士会も軽い懲戒処分で済ますことにはならないだろう。それゆえに同じ戸籍法違反の被害者としては、司法判断や行政書士会の処分が注目されるのだ。
会員による行政書士用職務上請求書の偽造の嫌疑についての会長談話
もちろん刑事罰や懲戒処分だけでこのような不正がなくなるとは思えない。職務上請求書が不正使用されないよう、役所が本人確認をするなどのシステムの構築は必須だと思うし、そもそもこんなに簡単に他人の個人情報を取得できる職務上請求書が本当に必要なのかという疑問もある。
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