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2012/04/23

放鳥トキのひな誕生から学ぶもの

 昨日、佐渡に放鳥したトキのひなが誕生したというニュースが流れた。自然界でのひなの誕生は36年ぶりだという。これまで繁殖に成功しなかっただけにあまり期待していなかったのだが、久々に嬉しいニュースだ。

 トキといえば私が子どもの頃から絶滅が危惧されていて、しばしばニュースに登場していた。江戸時代までは日本に広く生息していたというが、人間による乱獲や環境破壊は簡単に野生生物を絶滅に追いやってしまう。気がついたときにはすでに回復が難しいほど減少しているということになりかねない。コウノトリなどもそうだが、トキの事例はひとたび絶滅してしまった生物をふたたび野生に戻すことの難しさを物語っている。

 今日の北海道新聞朝刊に、今回のトキのひな誕生に関する記事が載っていたのだが、その記事の中の環境省の担当者が以下のコメントを寄せていた。

 「自然との共生という考えは浸透しつつあるが、保護のために農薬を減らすなど、地元の産業に負担をかけるケースも多い。地域にとってのメリットを探りながら、持続可能な形で続けることが大事だ」

 トキの保護のために農薬を減らすことが、地元に負担をかけるという発言がどうも引っかかってしまう。トキが減少した理由は、乱獲、トキが棲めるような環境の減少、農薬による餌動物の減少などがあると言われている。

 トキはドジョウやカエルなど湿地に生息する小動物を餌としている鳥なので、水田は格好の生息地となった。それゆえに田んぼを荒す害鳥とされて乱獲されたのだ。営巣には樹木が必要であり、水田と里山といった環境がどんどん減少したことに加え、農薬による餌動物の減少が絶滅に拍車をかけたのだろう。

 野生生物が安定して生きていくためには、何よりも生息環境が整っていなければならない。トキが普通に生息していた頃の環境に戻すことはできないとしても、営巣できる樹木を保全し、餌となる動物が棲める環境に戻していくことは可能だろう。地域が一丸となって地道な努力を続けなければ野生復帰もうまくいくとは思えない。

 トキの絶滅は人間の行きすぎた環境破壊への警告だ。近年の環境破壊は多くの種の絶滅をもたらしてしまった。それは自然にとって、生物の歴史にとって大きな損失なのだ。その反省にたつならば、減農薬が産業に負担をかけるという視点こそ変えていかなければならないと思う。

 農薬を減らした農業は大変な手間がかかるのは理解できる。しかし、そもそも毒物である農薬が生物である人間の健康をじわじわと蝕んでいくのは言うまでもない。しかも農薬は害虫に耐性をもたらし悪循環に陥るのだ。農薬に依存した農業から脱却するためにもトキの保護を契機にした減農薬、無農薬の取り組みは歓迎されることだ。

 トキのようには目立たないだけで、人間による環境破壊により絶滅の危機に追い込まれている生物は無数にいる。気づかないうちに、私たちの身の回りから多くの生物が姿を消している。気が遠くなるような時間を経て進化してきた生物が、ほんの短期間のうちに人間というたった1種の生物によって滅ぼされているのであり、地球の歴史にとってはとんでもない絶滅の時代を迎えているのである。生物の多様性の損失は、取り返しのつかないことであり人間の罪は大きい。

 トキの絶滅は身勝手な人間への警鐘である。その教訓を活かすことができなければトキの野生復帰に力を入れる意味もないのではなかろうか。

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