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2012/04/01

協力出版は詐欺商法か? 文芸社刑事告発回想記 その3

詐欺罪に絞り込んだ告発
 ここで、東京地検への告発の主旨について簡単に説明しておこう。容疑は前の記事にも書いたように詐欺罪で、被告発人は文芸社社長の瓜谷綱延氏と私の契約担当者であったT氏である。

 文芸社は当時、企画出版・協力出版・自費出版の3つの出版形態を提唱していた。企画出版というのは商業出版のことである。自費出版は販売をしないタイプだから、本の制作請負契約だ。問題は協力出版である。文芸社が私に推奨してきたのもその「協力出版」だ。後に「創」2003年7月号に掲載された文芸社元スタッフによる「私が関わった『文芸社』商法の内幕」という記事で知ったのだが、実は作品の善し悪しに関わらず大半の著者に「協力出版」を勧めていたという。協力出版の謳い文句は出版社と著者の共同出資である。

 文芸社は契約書(当時)の第5条で「本著作物の初版発行にあたりその制作費・販売・宣伝に要する費用は甲乙双方の分担とする。甲は、乙に次項の通りの条件で協力金を負担する。」としている。文芸社からの書面では、著者の分担金は制作費と明記されているし、私が契約の際に要求して出させた内訳費用も制作費のものであった。

 また、文芸社の協力出版の契約書は日本書籍出版協会がつくっている商業出版の契約書(出版権設定契約)のひな型をベースにしたものなのである。だから本の所有権は出版社にあるし、著者には印税が支払われるのだ。

 協力出版の契約というのは「制作費を著者が負担する条件での商業出版」なのである。制作費以外の費用は文芸社が負担するのであり、本の売上金で文芸社負担分の費用を回収できないと赤字になるという契約なのだ。だから、一冊も売れなくても利益が得られるなどということはありえない。そういう契約だ。このことは契約する前にすぐに理解できた。

 商業出版における出版費用とは言うまでもなく出版社が出版のために負担する経費であり、もちろん実費である。ところが文芸社が私に提示した制作費の内訳の金額はとうてい実費などというものではなく、どう考えても水増しをしていた。たとえば、編集費は760,352円となっていたのだが、編集者はほとんど編集作業らしきことをしないまま印刷所に回してしまった。手抜き編集などで制作費の水増し分を大きくすればかなりの利益が得られ、文芸社はなにも費用負担しないで済む。つまり、本が一冊も売れなくても利益が得られることになるのだ。契約と矛盾が生じるのである。

 したがって水増し分は詐取であり、詐欺商法であるとの主張をしたのである。

 詐欺罪というのは人を騙して財物や財産上の利益を得る犯罪である。文芸社に関して言うならば、褒めちぎって舞い上がらせて契約を決意させるとか、あたかも本が売れるかのように錯覚させるなど「錯誤」を誘う行為がいろいろある。しかし、私は告発状を書くにあたり請求金額の不当性を中心に据え、勧誘による錯誤の問題はあくまでもこの主張を補強するための説明として付け加えた。水増し請求こそ協力出版問題の核心だと思っているからだ。出版社にリスクがないから半ば騙しのトークで勧誘するのだ。

 同じような契約形態で協力・共同出版を謳い、ちゃんと費用負担している出版社もある。そういう会社では、それなりに本が売れて負担分を回収できる見込みがある著作にしか協力・共同出版を勧めない。会社がちゃんと費用負担しているなら、悪質商法だとは思わない。そこが詐欺的か否かの分かれ目なのである。

 ところで印刷所の取引価格とか、編集者やデザイナーの賃金など、著者は知る由もない。したがって著者には詐取金額を正確に特定することなどできない。しかし、水増し請求を主張する以上ある程度の詐取金額は示すべきだと思い、文芸社と取引もある印刷会社の見積もり明細をもとに詐取金額の推定もした。この推定では印刷や製本などのハード面では40万円以上の水増しをしているとした。

 難しいのが編集費やデザイン費などのソフト面での水増し額だ。こちらはきわめて寛大な数値で推定をした。当時の年間の出版点数1600点を12で割り1カ月あたりの出版点数を出すと133点になる。これを編集、校閲スタッフの人数97人(渡邊さんの裁判で文芸社が提示した人数)で割って1カ月の一人当たりの担当冊数を出すと約1.4冊になる。スタッフ一人当たりの月給を50万円と仮定して私の本の編集費を出すと52万円となった。76万円の請求額と比べると24万以上の上乗せがあったことになる。

 デザイン費も他社の事例を参考にし、高く見積もって100,000円と仮定した。実際にはもっとずっと安いに違いない。ちなみに私に提示したデザイン費は354,177円だから25万円ほどの上乗せをしたと推定した。

 ただし、文芸社の賃金は安いというから、この数字を文芸社の職員が見たら、あまりに実態と違っていて目を丸くするに違いない。また、実際には編集者一人あたり月4冊くらいがノルマだったらしい。ちなみに、「クンちゃん」の以下の記事によると、文芸社の関連会社である日本文学館のある従業員の給料は「手取りで23万円」とのこと。実際の水増し額は私の推定よりずっと多くなるだろう。このあたりのことを知っている元社員などは、コメント欄で是非教えていただきたい。

http://blog.goo.ne.jp/92freeedition44/e/5332f1892e27c8335b29706b52ec8386 

 しかし、賃金水準もしらない外部の者が推定するのだから、このくらい甘く計算しておいたほうが無難だし、検察がまじめに捜査すれば賃金の実態くらい容易にわかるはずだと思った。

 このようにして推定した詐取金額は90万から130万円になった。常識的に考えても販売や宣伝の費用はこれで十分まかなえるはずだから、文芸社はまったく費用負担しておらず、一冊も本が売れなくても儲かるということが証明できるはずだ。だいたい、本が売れなければ赤字になるのであれば、文芸社はとうの昔に倒産しているに違いない。

 東京地検が告発状を受理したということは、こうした主張を認めたからにほかならない。捜査によって文芸社がなんら費用負担していないことを確認できれば詐欺罪として立件しなければならないだろう。

(つづく)

【関連記事】
協力出版は詐欺商法か? 文芸社刑事告発回想記 その1
協力出版は詐欺商法か? 文芸社刑事告発回想記 その2
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幻冬舎ルネサンスに、あやうく、被害はなかった。手口はおなじでした。ひつこい電話。そして、甘言をささやき、スト^-カーないのひつこさ。幻冬舎と文芸社の自費出版は避けたほうがいいと追う

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