十勝川の河畔林伐採は意味があるのか?
1月26日の北海道新聞帯広十勝版に「樹木の伐採希望者募集」という記事が掲載されていて驚いた。帯広開発建設部が、十勝川の河畔林の伐採希望者を募集しているという。記事では公募伐採について以下のように書いている。
国管理の河川内の樹木は、各開建が行うが、予算縮減のため「開建だけで対処するのは難しい」と実施を決めた。河道の樹木は、環境・景観上の財産である一方、増水時の障害となるため、同開建は「計画的管理が必要」だとしている。
帯広開建に問い合わせると、この河畔林伐採については昨年の秋にワークショップで議論し承認されているという。そこでそのワークショップの議論を見てみると、たしかに音更川合流点上流の左岸の樹木伐採が提案、了承されている。
開建が伐採を予定している地域というのは、十勝川水系河川整備計画の中で「河道掘削」を予定していたところだ。それをワークショップの中で樹木伐採に切り替えたのだ。パブリックコメントを行い公聴会を開いたうえで確定させた整備計画を、ワークショップで簡単に変更してしまうなら、何のための公聴会だったのだろう。
そこで十勝自然保護協会は帯広開発建設部に河畔林伐採について現地での説明を求めていたのだが、昨日ようやく実現した。以下が現場の写真。胸高直径が10センチ程度のヤナギ林で、ケショウヤナギもある。
開建の説明で確認できたことは以下。
・伐採の目的は流下断面を確保して洪水を防止するため。樹木が密に生えている部分は水の流れを100%阻害、疎に生えている部分は30%程度水が流れるとして計算した。
・伐採箇所は十勝大橋から左岸上流730メートルまでくらいの間で、4.75ヘクタール。応募者が少なかったので、対象地(上流堤防側)の2割ほどで実施する。
・伐根をそのままにすると萌芽するため、帯広開建で抜根し、在来種の種子が多いと思われる土壌を入れて草原となるようにする。
河畔林のある部分は川の流れを阻害することは確かだ。しかし、密に生えているといっても水は木の幹や枝の間を通って流れるのであり、100%阻害することにはなりえない。100%阻害するとして計算するのはどう考えてもおかしい。
伐採する木の体積(材積)はどのくらいか、伐採によってどの程度水位が低下すると計算しているのか質問したのだが、開建は答えることができなかった。洪水防止が目的としながら、その効果がどのくらいであるのかも計算していないのだ。
抜根は大変な作業である。重機を入れて抜根したならオオアワダチソウなどの外来種がはびこる可能性が高いし、裸地にして客土したなら土砂の流出にも繋がるだろう。ヤナギの種子も飛んできて数年したらまたヤナギ林になりかねない。草原が維持されるような環境にはない河川敷を草原化することに無理がある。
また、十勝川水系河川整備計画では「樹木の大きさ、密度、成長速度等を踏まえた効果的な樹木管理方法、流木対策について、関係機関と連携しつつ、引き続き調査・検討を進める。」としているのだが、伐採予定地の樹木については調査をしていないという。調査もせずにどうやって河畔林の管理をするのだろう。
はっきり言って、期待するような治水効果があるとは思えず、単なる自然破壊としか思えない。
昨日の説明で私が一番カチンときたのは、「洪水を起こしてはならない」という言葉だった。十勝川では150年に一度の洪水に対応した河川整備を行うことになっている。そして、1981年には300年に一度とも言われるような大雨が降っているのだが、その時も帯広付近では堤防から水は溢れていない。しかもその後十勝ダムができているので上流部の大雨はダムに貯められるのだ。つまり、現状の堤防で150年に一度の洪水はクリアされていると言えるだろう。ところが河川管理者は、算出根拠不明で過大としか思えない計画高水流量や目標流量などを設定しまだまだ治水対策が必要だという。
もちろん将来的には1981年を上回る大雨が降ることだってあるだろう。しかし、そのような設計を超える洪水が生じたときには、堤防から水を溢れさせるしかない。越流しても破堤しない堤防を造ってできる限り農耕地など安全なところで溢れるようにし、住民の避難対策を万全にするなど、越流した際に被害をできる限り小さくさせるのが防災だ。どんな大雨でも堤防の間に水を閉じこめようという発想が誤りなのだ。
3.11の大津波と同じで、いくら巨大な防波堤を造ったところで、それを超える大津波がきたら安全なところに逃げるしかないのだ。人工構造物で自然の力を封じ込めようとする発想は人間の傲慢でしかない。
洪水被害が生じやすい堤防の近くや河川の合流部を宅地として許可してきた行政にも問題がある。川の合流点などはもともと水につかりやすいところなのだが、そういうところに家を建てるから大雨で浸水被害が生じ「洪水対策をしっかりしてほしい」という声になるのだ。本来なら河川沿いや川の合流点付近は林地や農地などにして居住を制限すべきだろう。どうしてもそのようなところに住まねばならないのなら、高床式の住宅を義務化するなどの対策をとるべきだ。
このように根本的なところで発想を変えない限り、永遠に治水のための土木工事を続け、河畔林伐採などの自然破壊をすることになるのだ。
もう一つ言っておかねばならないのは、ワークショップというシステムだ。これまで事業者によって○○検討会、○○審議会、○○委員会といった御用学者を引きずり込んだ会議が開催され、無駄な公共事業が承認されてきたことを、私たち自然保護団体は嫌というほど知っている。はじめから事業を行うことを前提とした会議だから、決して中止という決定はなされない。住民参加を謳ったワークショップも、詰まるところはこれと大差ない。
「十勝川中流部川づくりワークショップ」は、河川管理や治水、自然のことなどほとんど分からない一般住民を集めて、開建の提案を了承させる場だ。住民参加の名の元に事業者の提案を通すためのシステムに過ぎない。
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