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2012/03/31

協力出版は詐欺商法か? 文芸社刑事告発回想記 その2

難癖をつけて受理を拒む東京地検
 結局、警察署への告発は不受理に終わった。そうこうしているうちに、渡邊さんの裁判が終わり、その判決文を入手することができた。そこで、次に、この裁判で得られた情報も加えて天下の東京地検特捜部に告発することにしたのだ。

 ところが東京地検への告発もすんなりとはいかなかった。2004年1月15日に詐欺容疑で告発状を東京地検に送ったのだが、2月20日付で以下の内容の書面が送られてきた。

 貴殿から「告発状」と題する書面(平成16年1月15日付け)等が送付されましたので検討しました。
 告発事実の特定が不十分と思われますが、申立の趣旨は、告発人が被告発人との間で出版契約書を締結した際、出版契約書第5条に基づいて協力負担金(制作費)を支払ったものの、この金額は実費金額であるべきところ、被告発人会社の利益分を上乗せした金額が算出されていたので詐欺罪が成立すると主張しているものと解しました。
 ところで詐欺罪は、人を欺罔して錯誤に陥らせ、その錯誤に基づいて財物を交付するなどの財産的処分行為をさせることが成立要件になっており、要件の一つが欠けても詐欺罪は成立しないところ、本件事実経過から、被告発人らに告発人を欺罔する意思及び欺罔行為があったと解し得るかについては難しい問題もあるものと思料されますが、もし欺罔行為等があった旨の主張であれば欺罔行為の具体的内容を告発事実の中に織り込んでいただきたく、また、仮に不作為による欺罔行為があった旨の主張をするのであれば、欺罔者に法律上等に基づく真実を告知すべき義務がなければなりませんのでその根拠等を明示願いたいと思います。
 さらに書面によりますと、本件については既に契約を解除して、告発人において、被告発人に支払った協力負担金の全額について返還を受け、被害回復済みのようです。
 以上の問題等を検討願いたく、今回は告発状をお返しいたします。
 なお、疑問等がありましたら法律の専門家である弁護士等に相談されることもご一考下さい。

 どうやら告発の趣旨は理解したが、「騙した」という行為が明確ではないからもっと具体的に書けということのようだ。被害回復済みの件については、もちろん承知のうえであり不受理の理由にはならない。被害が回復したから告発するなとでも言いたいのだろうか。「『告発状』と題する書面」という書き方とか、弁護士に相談しろという一言も上から目線で腹立たしい。告訴や告発なんて、親告罪でなければ本来だれにでもできるものだ。

 とりあえず注文に従って説明を付け加え、3月26日付で再度告発状を送付した。

 すると、4月28日付で以下のような書面が送られてきた。

 貴殿から再送付された告訴状(平成16年3月26日付け)及び資料等を検討いたしましたが、いまだ以下のような問題があると思われます。
 まず、詐欺罪が成立するには、被告発人が嘘を言って貴殿を騙したことが要件となりますので、誰がいつどのような嘘を言ったのか(あるいは、隠して騙したのか)という事実関係を明確にしていただく必要がありあす。特に、本件では貴殿が負担した「制作費」の内容が問題のようですので、それに関する被告発人瓜谷綱延ないし株式会社文芸社側からの説明がどのようなものであったのかを明らかにする必要があると思います。株式会社文芸社側からの単なる説明不足であったとか、「制作費」に関する同社と貴殿との間での理解のくい違いということになりますと、詐欺罪にいうところの欺く行為には該当しないことになってしまいます。
 また、詐欺罪が成立するには、損害額がいくらになるかを特定する必要があります。実費をはるかに上回る(株式会社文芸社の利益分を上乗せした)請求をされた旨主張され、告発状には詐取金額の推測金額も明記されていはいますが、それでは十分とはいえず、実費ではない金額(詐取金額)を特定していただく必要があります。高額ではあっても実際にかかった実費の金額であるとなりますと、騙したことにはなりませんので、貴殿がお持ちの情報や資料には限りがあるとも存じますが、可能な限り、詐取金額を特定されるようお願いいたします。
 なお、警報の詐欺罪で処罰されるのは個人だけですので、法人である株式会社文芸社を詐欺罪で告発することはできません。
 以上の点につきまして、再度ご検討願いたく、お送りいただいた告発状および添付資料は、いったんお返しいたします。
 ところで、一般の刑事事件の捜査処理におきましては、まず第一次的に警察が捜査を行い、その後事件を検察官に送致し、検察官が更に必要な捜査を遂げて、最終的な処理をするというのが通常の手続となっておりますので、貴殿におかれましては、四谷警察署又は警視庁本部などにご相談されることも、併せてご検討ください。
 加えて、法律の専門家である弁護士などにご相談されて検討されるのも一方法かと思われますので、ご一考ください。

 今度は前回指摘していない詐取金額の特定、警察への相談、被疑者の適格性について書かれている。なんで前回これらのことを指摘しなかったのだろう! それに著者に詐取金額の特定などできるわけがないことくらい、検察官だってわかるはずだ。特定できないからこそ私は捜査してほしいと求めているのである。詐取金額の特定は受理の必要条件とは思えない。四谷警察署は検察に直接出せと言っていたが、検察は警察に相談しろという。冗談じゃない! こうなると「受理したくない」がために理由をこねまわしているのではないかと思えてくる。ならば、なおさらここで引くわけにはいかない。今度は弁護士の意見も聞いたうえで、7月26日付けで告発状を送付した。

 さて、こんどこそ東京地検は何も言ってこなかった。それどころか半年たっても、告発人に対して電話の一本もない。それはそれでいい加減ではないか? そこで、2005年1月21日付けで書面による問い合わせをしてみた。すると28日に事務官より電話があり、告発状は9月に受理されたと言い担当検事の名前(浦田啓一)も教えてくれた。何のことはない、詐取金額の特定など受理の必要条件ではなかったのだ。

 あとは結果を待つだけだ。それにしても、東京地検からはなんの音沙汰もない。本当に捜査をしているのかという疑問が消えることはなかった。

 ところで、捜査機関が告発状をすんなりと受け取らないというのは普通のことらしい。この記事を書いていて、ジャーナリストの山岡俊介さんが武富士の武井保雄氏らを盗聴で告訴したときにも警察に呼び出されて書面の書きなおしを求められたと「銀バエ 実録武富士盗聴事件」(創出版刊)に書いていたことを思い出した。その本を引っ張りだしてみると、山岡さんは以下のように書いている。

  私が誰かを刑事告訴するのは、この時が初めての経験だった。法的には、警察は告訴はすべて受理しなければならないことになっている。私たちは、もちろん告訴状を持参したが、別に口頭だって構わない。しかし、現実にはそれは建前にすぎない。
「全部、告訴を受けていたらきりがない。だから、実際は告訴状に不備があるとか、いろいろイチャモンをつけて帰らせる。それを何度も続けているうち、告訴人の方が嫌気がさして来なくなる。また、とりあえず告訴状コピーを預かっておくとして、そのまま放置してうやむやにするんだよ」
 ある警視庁OBは、こう本音を漏らす。

 山岡さんは告訴状も用意し、弁護士のほかに警察問題に取り組んでいるジャーナリストの寺澤有氏と元公安調査庁キャリアのフリーライター野田敬生氏も伴って警察署に告訴に赴いている。それでもいちゃもんをつけて書き直しをさせられたのだ。ただの市民である私が書いた告発をすんなりと受け取ってもらえないのは当然といえば当然なのだろう。それにしても、警察や検察というのはいい加減なものだ。

【刑事告発の教訓】
・告訴、告発は誰でもでき、不備がない限り捜査機関は受理しなければならない。難癖をつけられても諦めないで出し続けるべし。

(つづく)

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