協力出版は詐欺商法か? 文芸社刑事告発回想記 その1
刑事告発の発端
このブログではほとんど触れていなかったのだが、私はかつて文芸社を詐欺容疑で刑事告発したことがある。告発からもうだいぶ経ち忘れかけていたのだが、元文芸社社員の「クンちゃん」によると、どうやら私の告発によって地検から呼び出しをくらったクンちゃんは東京地検にかなり絞られたらしい。そんなわけで、忘れかけていた告発のことについて書きとめておこうと思うようになった。
私が文芸社と契約し、トラブルとなって解約したのは2001年のことだ。文芸社とのトラブルのことは北海道新聞の取材を受けて記事にもなったし(ただし記事には文芸社という社名は出ていない)、契約から解約までの経緯は月刊誌「創」2002年11月号にも手記を投稿したので、当時はそれ以上この問題を追及するつもりはなかった。
ところが、「文芸社商法の研究」という冊子を30部程度作成して仲間内に配布した自費出版業者の渡邊勝利氏に対し、文芸社は名誉毀損で1億円の賠償を求める訴訟を起こしたのだ。訴状の日付は2002年7月30日だ。渡邊氏は、以前から文芸社や新風舎などが行っている協力出版、共同出版といった出版形態について果敢に問題点を指摘し警鐘を鳴らしていた。年間1000点以上もの本を出版して自社ビルももつ文芸社が、小さな出版社社長を相手どって1億円もの損害賠償をふっかけたのだ。私には批判を封じるためのスラップ(恫喝)訴訟としか思えず、治まりつつあった私の怒りに火を付けることになった。
渡邊さんの裁判によって、文芸社が著者に請求している制作費は実費ではなく文芸社の利益が含まれているということが明らかになりつつあった。このことこそ、私が文芸社とトラブルになった要因だった。渡邊さん監修の「自費出版Q&A」(東京経済刊)などを読み、文芸社の商法の実態を知るにつけ憤りを肥大させていた私は、文芸社が渡邊さんを提訴したことをきっかけに詐欺による刑事告発を決意したのだ。
警察署への告発
とはいえ、私は法律のことはよく分からないし相手は東京にある会社だ。そこで地元の帯広警察署に電話をして相談をしてみた。2003年(平成15年)6月頃のことだ。担当の警察官は私の話を聞き「文芸社って新聞なんかに広告を出している有名な会社でしょ。そういう会社が詐欺なんてするわけがない。詐欺商法というのは、幽霊会社みたいなのがやるんだ」とのたまう。文芸社の巧みな商法についてまったく分かっていない。私が食い下がると、資料を持って警察署に来るようにと言ってきた。一度は帯広警察署に出向くことも考えたが、帯広警察署に告発したところで捜査は東京の警察署になるはずだ。大量の資料をかかえて帯広警察署に行っても無駄になるだけだろうと考え直し、警察に行くのを取りやめた。
次に相談したのは新宿警察署だ。対応した警察官はまじめで親切に対応してくれ、文芸社の管轄は四谷警察署になるといって連絡先を教えてくれた。そこで、6月19日付で四谷警察署に資料を添えて告発状を送付したのだ。とはいえ、告発状などというものは書いたことがない。弁護士に書き方について尋ねてみると、形式は決まっていないので誰が、いつ、どこで、何をしたのか、ということをきちんと書けばいいという。とりあえず、錯誤して契約したこと、費用の分担をするとしながら実際には何ら費用負担しておらず不当な請求をしているという主旨の書面を書いた。23日に刑事課のS氏から留守電があり、検討中だから後日連絡するとのことだった。
ところがS氏からは待てど暮らせど電話がこない。そうこうしていると、8月7日に「hensyu55」という差出人名でウイルス添付の電子メールが送られてきた。「hensyu55」という名称は、私とやりとりしていた文芸社の編集者の差出人名と同じだ。不可解に思った私は、そのメールの発信者情報を調べてみたのだ。どうやって調べたのかもここに書いておこう。
その時、実はパソコンにはウイルス対策ソフトを入れていなかった。だから、添付ファイルを開けていたら感染したはずだ。普通だったら怪しいと思ったメールはすぐに削除してしまうだろう。しかし、これほど不可解なメールもない。とりあえず削除せずにそのメールをフロッピーディスクにコピーし、別のウイルス対策ソフトを入れているパソコンで開いてみた。そうすると、発信者情報などが出てくる。それを見る限り発信者は文芸社と特定できるものだった。添付ファイルはPE BUGBEAR Bというウイルスであることが分かった。プリントすると、メール本体の情報のあとにアルファベットや数字の羅列が何ページもあり、それがウイルスの部分だ。このウイルスについて調べてみると、いわゆる「トロイの木馬」というタイプで、感染するとパソコン内部の情報を盗み見ることができる。また、感染するとアドレス帳などに登録されているアドレスに勝手にウイルスを送信してしまうというタイプだ。
もちろんこのウイルスは意図的に送られたのか、あるいは文芸社のパソコンが誤ってウイルスに感染したことにより自動的に送信されたのか分からない。前者なら犯罪行為に等しい。後者なら会社のセキュリティ対策を問われるし、解約した人のメールアドレスも削除しておらず個人情報の管理も杜撰ということになる。それに誤って自動的に送られたなら、お詫びと対処法のメールを送るのがマナーだが、それもない。とにかくこのタイミングでのウイルスはなんとも不可解で不気味だ。このあとでウイルス対策ソフトをインストールしたのは言うまでもない。
こんなこともあったので、こちらから刑事課のS氏に電話をしたり質問書を送付したのだのが、S氏はうだうだと受理できないという態度をとり続けた。
さらに驚き呆れたことがある。四谷警察署は費用に関して新風舎、碧天舎、近代文藝社に事情を聞いた上で「不作為の欺罔」であると判断したという。普通の自費出版社ではなく同じような共同出版商法をやっている会社に聞いたというのだから、開いた口が塞がらない。こちらも堪忍袋の緒が切れて「検察に直接出したい」というと、S氏もこれで厄介払いができると思ったのか、検察に出してくれと言って資料などを送り返してきたのである。
(つづく)
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