全国で繰り広げられている脱原発訴訟
これまで日本で行われてきた原発の裁判はことごとく敗訴してきた(一審や二審で勝ったものがあるにはあったが、最終的には敗訴している)。しかし、福島の原発事故によって、原発の安全神話は完全に崩壊した。そして福島の事故を契機に、全国の弁護士らが新たな裁判を次々に起こしているのだが、マスメディアはその闘いをほとんど報道しない。
いま日本の原発訴訟はどうなっているのかと思っていたら、昨日、原子力資料情報室による解説があった。脱原発弁護団全国連絡会代表の河合弘之弁護士が、全国で起こされている脱原発訴訟について説明をしている。
以下はこの動画の要旨。
**********
今までの原発差し止め裁判ははじめから予断と偏見を持って行われており、原告の主張は取り合ってもらえなかった。しかし、3.11は原発に関する認識を裁判官も変え、偏見で見なくなった。裁判官にもう一度問い直そうと確信し、日本中の弁護士に呼び掛けた。今までも原発の弁護団は頑張ってきたが、情報交換や勉強会がなかった。そこで、団結し、日本全国で裁判しよう呼びかけたところ多くの人が集まった。現在125人くらいの弁護士が正式登録している。
現在の各原発の訴訟の概要は以下。
泊:昨年12月に提訴。700名近い原告団。
大間:おととし7月に訴訟を起こしていたが、函館の人たちが熱心にやっている。函館市長も拒否権を主張。函館はすぐに放射能が届く位置にある。
六ヶ所:福島原発を見てもう一度気合いが入ってきた。
東通:今のところ動きがない。ここでの戦いはあまりに大変。
女川:女性の若い弁護士らを中心に弁護団ができつつある。
福島第二:福島の弁護士さんたちが訴訟を起こす動きがある。
東海:東海村村長は反対の立場。弁護団が結成されつつある。近いうち裁判がおきると思う。首都圏に一番近い原発であり、絶対差し止め裁判をしなければならない。
柏崎苅羽:最高裁までいって負けたが、福島を見たらもう一回やり直しするに十分値する。
浜岡:浜岡は、東京の控訴審とは別に地裁2つでも裁判が起こされ闘っている。控訴審では、裁判所は再稼働前に仮処分の判断をするといっている。裁判所の判断がないまま再開をすることはない。仮処分で是非止めたい。静岡で新たな原告団ができ、弁護士90人、原告団も数百人集まった。静岡に住んでいる静岡地裁の裁判長も福島を見て恐怖しただろうということで起こした。また、浜松支部で第三の訴訟が起きている。
志賀:一審で勝って二審で負けて判決が確定しているところだが、独特の戦いをしている。裁判は置いておき、まわりの市町村の首長を説得して安全協定を結ぶ運動をし、安全協定による拒否権または条件付けによって再開を止めようということを弁護士がやっている。
若狭湾:敦賀、美浜、大飯、高浜に再開禁止の仮処分をかけている。安全審査指針は無効だということが福島原発でわかった、だから止めろといって頑張っている。
島根:控訴審。裁判所はあまり熱心ではなかった。福島の現状を踏まえ裁判官も認識を改めて取り組んでいる。
伊方:原発訴訟のトップを切っていたが負けてしまった。最高裁までいった。その判決以降運動が沈滞していたが、弁護士がもう一回やろうと呼び掛け、数百人が集まって裁判が始まった。第一回期日がもうすぐ始まる。
上関:これはまだ埋立の最中。すばらしい自然が残されている海を埋め立てて原発をつくるという滅茶苦茶な計画。埋め立ての工事をめぐって差し止めの裁判が起きている。今までは、裁判官は埋立のあと何につかうかは焦点ではないと言っていた。しかし、やはり原発の問題なので埋め立てて原発を造ること、原発が安全かどうかということもテーマになると踏みこんできており、いい兆候が見られる。祝島の人たちが30年以上、一致団結して闘っている。事故がおきたら祝島の人たちは蒸し焼きになる。上関側の人たちもひどい被害を受ける。
玄海:古くて心配されている原発。海底活断層があるということで問題になっている。知事も原発推進でどうしようもないし、九州電力はヤラセもあった。事故が起きたら北九州がアウトになる。昨日、1700人の原告団で訴訟を起こした。
川内:弁護団ができつつある。今年の4月か5月の訴訟を起こす。
日本のすべての原発を止めるために頑張っている。原告や賛助会員などになって地元の裁判に参加してほしい。
正直なことをいうと、徒労感と屈辱感で一杯だったが、3.11でやっぱり自分たちの言っていたことが正しかったと思った。残りの人生を日本中の原発を止め、安心して過ごせる国にするため頑張ろうと思った。他の弁護士も同じ気持ちだと思う。
裁判所も絶対に変わっていくだろう。御用学者も、これまでいい加減なことを言っていたが、そんなことはもう言えなくなる。レッテルを張られている人たちは、そんなに勝手なことはできない。裁判官に正義感が生まれているのではないか。司法が止めるしかないと考えているのではないかと思う。
裁判所は、今までは原発事故はきわめて稀有な可能性しかないから差し止めは慎重にすべきだという意見が主流だった。唯一差し止め判決を書いた裁判長は、結局は退官している。いままでは退官を決意しないと原発差し止め判決なんて書けなかったと思う。もんじゅの高裁の裁判官など、読売新聞にぼろくそに書かれる。出世の望みのない者が判決を書いたと、メディアから叩かれる。しかし、もうそんなことはないだろう。原発を止めたら「よくやった」、「えらい」と言われる雰囲気になってきたから、裁判官もそれを感じていると思う。
浜岡原発の差し止めの一審判決などは電力側に安全の立証責任があると言った。しかし、その立証責任は原子力安全・保安院の設置許可を得たことを主張すれば良く、それでも危険であることを原告側が立証しなさいと言っていた。つまり住民側が全部立証しなければいけない。全部安全指針をクリアしたのに、福島ではあんな事故が起きたことが分かった。これからの裁判は「審査をクリア」した、では通らなくなる。立証責任が電力側に移っていった。
実際には、「国が許可したから大丈夫だろう」、「それを覆す主張はなかった」で終わっていた。その結果福島の事故が起きた。裁判はやりやすくなった。これからは、地震がおき、事故がおきたとき、判決を書いた裁判官の責任が歴史に残る。
大間原発は、熊谷あさ子さんと娘さんの小笠原厚子さんが原発敷地内にある自分の土地を売らずに闘ってきた。熊谷さんが土地を売らないため、電源開発は炉心の位置を動かして安全審査を通してしまった。許可が下りて建設がはじまっている。建設敷地内にある「あさこはうす」に通じる道の両側は有刺鉄線で囲まれている。
あさ子さんは裁判で闘って負けたが、河合弁護士はもういちど差し止め裁判を起こすと法廷で宣言。人格権にもとづいて差し止め裁判しようと言っていたのに、あさ子さんが急死された。これで終わりかと思ったら、娘さんの小笠原さんが同じ気持ちだと言った。それで、函館に行って「お金はいらない、手弁当でやる」といったら、弁護団も原告団もできた。
大間原発の問題点は、世界ではじめてのフルモックス燃料を使うということ。高速増殖炉ができないのでプルトニウムがどんどん溜まる。だからフルモックスを造らないと矛盾が解決できない。世界で一番大きく、一番危険なフルモックス燃料を使う原発。普通よりずっと多くのプルトニウムが入っていて、事故が起きたら非常に深刻。これを止めなければならない。もうひとつの問題は、大間は工事中で36パーセントくらいできている。新設なのか新設ではないのか評価が分かれる。これを止められるかどうかは新規を認めるかどうかの分かれ目であり、負けられない。非常に重要な闘い。
日本だけは原発をやってはいけない。大きな地震が発生するところで原発をやっているのは日本だけ。原発は巨大精密機械であり、精密機械は振動と水に弱い。日本の地震発生率は世界平均の130倍。世界の人たちは日本をもっと非難すべきだ。即時全部やめ、とりあえずは化石燃料でやるしかないのでは。二酸化炭素より放射能のほうが怖い。
これからの裁判は福島原発で何が起きたか、何が原因か。それを究明し、それがクリアできているかどうかが問われる。福島は事故究明が終わっていない。何もわかっていないのに、なぜ再稼働ができるのか。はじめに再開ありきだからだ。放射能に苦しむより少々電気代が上がってもいいではないか。そして自然エネルギーを普及させていく。産業の空洞化など20年前から始まっている。嘘で塗り固め、それでもやろうという人たちとは闘うしかない。
**********
全国の原発で裁判が行われている、あるいは始められようと準備が進んでいるのだが、実は3.11のあとで原発訴訟はどうなっているのか、あるいはどこで新しい裁判が始まったのか、この動画を見るまでは私もはっきりとつかんでいなかった。こういう動きをマスコミはほとんど報じないから、一般の人たちも具体的なことはほとんど知らないのだろう。しかし、多くの人に知って関心をもってもらいたいことだ。マスコミはいつまで原子力ムラの一員でいるのだろうか。
« もう一度原発が過酷事故を起こしたらこの国は終わる | トップページ | 投獄されたバンダジェフスキー夫妻へのインタビュー記事 »
「原子力発電」カテゴリの記事
- 震災から14年に思うこと(2025.03.11)
- 大地震に警戒を(2024.01.04)
- 二つの大罪(2023.08.24)
- 汚染水を海に流すという犯罪(2023.08.14)
- 原発事故から10年(2021.03.11)
« もう一度原発が過酷事故を起こしたらこの国は終わる | トップページ | 投獄されたバンダジェフスキー夫妻へのインタビュー記事 »
コメント