松山湿原に侵入したセイヨウオオマルハナバチ
昨日は美深町の松山湿原に行ってきた。松山湿原は、日本最北の高層湿原だ。以前から行ってみたいと思っていたところなのだが、なかなか実現できないでいたのだ。
道道から湿原に向かう道は砂利道の林道だとばかり思っていたのだが、登山口の駐車場まで舗装されているのにまず驚いた。ここにはトイレも整備されている。入口の看板には「秘境」と書かれていたが、これだけ整備されていて「秘境」というのはなんだか笑える。そもそも本当の秘境には「秘境」などという看板は立っていないだろう。
駐車場から松山湿原まではずっと登りだ。登山口に入ってすぐのところに、小さな風穴があった。こんなところで風穴に出会うとは思っていなかったので、ちょっと意外だった。9月だというのに、まだ岩の穴からは冷風が吹き出している。
ウッドチップの敷かれた登山道の脇には、9月だというのにエゾアジサイが涼しげな水色の花をつけている。もうじき紅葉の季節だというのに・・・。エゾアジサイの多い登山道だ。
咲き残りのエゾアジサイと、花盛りのエゾトリカブト、そして赤く色づいたオオカメノキの実。・・・。ちょっと不思議な取り合わせだ。北海道の夏は駆け足で通り抜け、野の花たちも短い夏を惜しむように花を咲かせて実をつける。
30分ほど登山道を登って台地に出ると、荒涼とした湿原が目に飛び込んでくる。最近はこのような場所には必ずといっていいほど立派な看板が立っているのだが、ここにももちろんその手の看板がある。しかも、ハンマーつきの大きな鐘まであるのだから首をかしげてしまう。私はどうしてもこういう看板が好きになれない。せっかくの景色が台無しだ。
さすがに9月の湿原は緑も色あせ、いくぶん褐色に色づきはじめていた。その秋色の草原にホロムイリンドウが点々と紫の色を添えている。
湿原の木道を歩いていると台地を吹き抜ける風で汗も引いて気持ちがいい。しかし、木道を半周するころから寒くなってくる。ここはかなり風が強いらしい。湿原の矮生化したアカエゾマツの樹形がそれをよく物語っている。
湿原には一周1キロほどの木道が整備されている。湿原は思っていたよりも広いのだが、大雪山の沼の原のように池塘がたくさんある高層湿原ではない。池塘は「えぞ松沼」「つつじ沼」「はい松沼」と名付けられた三つの沼があるだけで、あとはアカエゾマツが点在する平坦な湿原だ。池塘が少ないのは、乾燥化が進んでいるのかもしれない。下の写真は「えぞ松沼」。
木道を一周し終える少し手前で、ホロムイリンドウの蜜を吸う一匹のマルハナバチが目に止まった。腹部の先が真っ白な毛で覆われている。外来種のセイヨウオオマルハナバチだ。この湿原にもっとも近い街は美深町だが、距離的にはかなり離れていてここは人里離れた山の中だ。こんなところにまですでにセイヨウオオマルハナバチが侵入してしまっていることに、ちょっと愕然とした。
セイヨウオオマルハナバチは大雪山国立公園の高山帯にも入り込んでしまった。いちど野生化してしまうと、いくら駆除しても数を少し減らすだけで、根絶させることはほぼ不可能だ。在来種との共生関係を保ってきた高山帯などでセイヨウオオマルハナバチがどんどん勢力を増すことになれば、在来種を駆逐したり植物の受粉に悪影響をもたらしかねない。
そもそもセイヨウオオマルハナバチは、ハウス栽培のトマトの受粉を効率的に行えるという理由で導入された。ハウスからハチが逃げ出して野生化することは当然予測されたのだが、適切な対策がとられないまま北海道のほぼ全域に分布を広げてしまった。人間の安易な行動が、もの言わぬ小さな生き物たちに大きな脅威をもたらしていることを思うと、人間とはなんと自分勝手な生き物なのかと思わずにいられない。
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