音更川の堤防洗掘の原因は何か?
十勝地方は9月に入ってから雨続きだった。音更町では音更川の堤防が決壊する恐れがあるとして、7日午前に30世帯87人に避難指示が出された。7日付の北海道新聞夕刊(十勝版)の一面トップに大きく堤防がえぐられた写真(7日午前11時55分撮影)が掲載されている。
この写真では確かに堤防が大きく削られているが、水位はそれほど高くはない。越流して洗掘されたわけではないのだ。なぜこの程度の水位で堤防が洗掘されたのか気になった。
今日の北海道新聞朝刊社会面に、今回の大雨被害のことが大きく報じられていた。「音更川 天候回復後も増水 上流の雨で『時間差』」というタイトルの記事だ。
この「時間差」について新聞では以下のように説明している。
音更川で堤防決壊の危険性が高まったのは、大雨がピークを越えた7日朝。帯広測候所によると、上流のぬかびら源泉郷(十勝管内上士幌町)で観測した1日から7日午前3時までの降水量は433ミリで、9月の月間平均降水量の倍以上。これらが7日朝も川に流れ増水につながった。
今回決壊の恐れが高まったのは、音更町東音更幹西1線50付近。周辺は音更川が蛇行し、両岸にほぼ垂直に堤防が立っている。増水で早まった流れがカーブした部分にあたり続け、7日午前8時ごろ、長さ約120メートルにわたって堤防が削られているのが見つかった。
ただ、この時点の現場の水位は、帯広開建が定める「危険水位」まで約1メートルの余裕があった。堤防の一部崩壊を受け音更町は急きょ、7日午前9時から同11時ごろにかけ、避難勧告は指示を出した。開建は「今後、堤防が削られた仕組みを詳しく分析したい」とし、危険水位まで余裕があったのに堤防が削られた経緯を調べる方針。
このほか、堤防が崩れた現場の上流約30キロには糠平ダムがある。管理者の電源開発上士幌電力所は7日午前9時半から約9時間、帯広開建の要請を受け毎秒172トンだった放水量を同80トンに絞った。
この記事で分かるように、堤防が洗掘されたところでは危険水位まで余裕があったのだ。それなのになぜ決壊寸前まで洗掘されてしまったのだろうか? 実は、この記事の最後に「おまけ」のように書かれている糠平ダムの放流こそ、今回の堤防洗掘と大きく関係していると考えられるのだ。
今回、音更川の流域で大雨が降ったのは上流部の糠平地区だ。ここには発電用の糠平ダムがある。このダムから取水した水はすぐ下流の黒石平で発電に利用されるのだが、実はその水は音更川には戻されない。黒石平で元小屋ダムに貯められ、送水管によって芽登の二つの発電所に送られる。そのあとさらに足寄と仙美里で発電に利用され、利別川に流れ込むのだ。つまり、糠平から上流の音更川の水は、利別川という別の水系に流されてしまう。
下の写真は今日の午前に撮影した糠平湖。
私は5日の夕方に糠平ダムの手前にかかる糠平大橋を通ったのだが、その時にはダムから放流は行われていなかった。雨が激しくなったのは5日の夕方からだ。そして翌6日未明には放流が行われたようだ。放流されるまでは、糠平湖の水は音更川には入っておらず、利別川に行ってしまう。音更川の水が大きく増水したのは放流後ということになる。
新聞記事によれば、「管理者の電源開発上士幌電力所は7日午前9時半から約9時間、帯広開建の要請を受け毎秒172トンだった放水量を同80トンに絞った」としている。
下の写真は今日の午前中に撮影した糠平ダムだ。三つある放水口のうち、一つは閉めている。
下の写真はダムの少し下流だ。ここは、普段なら川幅の広いところでは長靴で渡れる程度の水しかない。それが濁流となっている。2009年の放流ではびくともしなかった河道に茂っていたヤナギなどがみごとに流され、景観も変わってしまった。毎秒172トンもの水を流していたときには、濁流の規模はこんなものではなかったはずだ。
ところで、国土交通省の【川の防災情報】というサイトで調べると、下流にある上士幌橋の水位は6日の午前10時以降は「欠測」となって数値が出ていない。これは何を意味するのだろうか? 毎秒172トンという大量の放流によって水位計が壊れたのではないだろうか?
上士幌での水位の欠測、そして蛇行部での洗掘。この二つのことから、ダムからの大量放流によって下流部で急激に水量が増し、蛇行部に大きな力が加わったのではないかと推測できる。だから、それほど水位が高くなくても堤防が洗掘されたのであり、一気に決壊はしなかったのだろう。
とすると、今回の堤防洗掘はダムの放流の仕方に問題があったと言わざるを得ない。大雨を予測して、もっと早くから少しずつ放流をしていれば、おそらくこのような事態は防げたのではないかと思う。糠平ダムは治水用のダムではないから、夏の間に水位を下げて大雨に備えるということはしていない。だからこそ、大雨が降ったときの放流の操作は慎重に行わなければならない。放流によって一気に増水するというのはダムの弊害だ。
このような被害が生じると、「ゲリラ豪雨だ」「水害だ」といって堤防の改修工事が始まるのが常だ。そして時として過剰な河川整備が行われてしまう。今回の事例は大雨というよりダムの管理の問題といえるだろう。ならば過剰な整備がなされるのは問題だ。
北海道新聞が放流のことを曖昧にした書き方をしているのも不可解だ。河川管理者はしっかりと検証してもらいたい。
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