悪質出版商法のトラブル解決と告発に関する私見
共同出版・自費出版の批判記事を書いている私のところには、ときどき自費出版を考えている方、あるいはトラブルになった方から相談のメールがある。いちばん多いのは、契約前の方からの相談だ。このような方の大半は説明を聞いて適切な判断をされるようだ。
問題なのは、契約をしてから何だかおかしいと気づいた方たちだ。契約して間もない時期で編集作業などに入っていない場合は、全額返金での解約もそれほど難しいことではない。しかし、本づくりに取り掛かってしまった人や、すでに出版してしまった場合は、そう簡単にはいかない。解約はできても返金となると難しい。
10年も前のことになるが、私は文芸社とトラブルになり協議の末、全額返金での解約に成功した経験があり、そのことはこのブログでも報じてきた。このために、出版社とトラブルになったら私と同じように全額返金で解約できると思いこんでしまう方もいるようだ。しかし、本づくりに取り掛かってからの全額返金での解約はそんなに簡単なことではない。
私の場合は、契約時に見積もりの内訳をファックスで送ってもらっていた。そして「おかしい」と気づいたのは、組版に入る直前だった。見積もりでは約76万もの編集費を計上しているのに、編集者からは「完成度が高い」という理由で、ほとんど手直ししないという説明があった。それでびっくり仰天したのだ。さすがに「これはおかしい」と気づき、文芸社とのやりとりを電子メールに切り替えた。ファックスによる費用の内訳と電子メールでのやりとりという証拠がしっかりあったため、文芸社は全額返金による解約を提案せざるを得なかったのだと思っている。
しかし、契約後にトラブルになる方の多くは、このような証拠がないと思われる。たとえば、面談などで作品を持ちあげて舞い上がらせ、さも売れるかのように期待させたとしても、その営業トークを録音している著者はほとんどいない。「巧みな営業トークによって錯誤した」「騙された」と主張したところで、証拠がなければ、争いになっても勝つのは難しい。
また、本の制作に入ってしまった場合はそれに応じた経費がかかってしまっている。編集費、校正費、デザイン費、印刷・製本費・・・。だから制作が進んでしまったら、よほど出版社に非があることを証明できない限り、全額返金での解約は難しいのではないかと私は思う。
私が以前から主張している水増し請求についても、著者は実際にかかった出版費用を知ることができないのだから、証明が極めて困難ということになる。しかし、交渉において突っ込んでみる価値はある。相手が答えられなくなれば、著者にとっては有利だ。
また、本が売れるかどうかは、実際に売ってみないと誰にも分からない。褒められて高く評価されたから、「自分の本は絶対に売れる」「売れないのは出版社のせいだ」などと思いこんでしまうのは大間違いだ。確実に売れるという保障などどこにもない。冷静に考えれば誰にでも分かることだろう。ところが、人というのは褒めて持ちあげられると、冷静に物事を考えられなくなってしまうものなのだ。言葉巧みな勧誘でマインドコントロールされないよう気をつけなければならない。売れるかどうか賭けてみるのは自由だが、その結果は最終的には著者の責任だろう。
アマチュアの自費出版本の大半は増刷されることもないまま終わる。著者は、売れなかった場合のリスクをしっかり考えて契約するかどうか判断しなければならない。販売せずに私家本として出版するという選択肢もあるのだ。あとで「売れなかった」「話しが違う」と出版社だけに責任をなすりつけることにはならないだろう。
出版社を相手に裁判を起こして著者が勝てるかというと、そう簡単にはいかないだろうというのが現時点での私の考えだ。よほどの証拠を揃えていない限り、裁判で闘って全面的に勝利を収めるのは難しいし、出版社だってその点はよく分かっているからこそ、いつまでも悪質な商法を止めようとしないのだ。たとえ、出版社側に一方的に有利になっている契約書であっても、それ自体が違法ということにはならない。
しかし、著者に泣き寝入りをしろというつもりも毛頭ない。「おかしい」と思った時点で電子メールなど証拠が残る形できっちりと交渉することで、全額返金は無理だとしても一部返金で解約できることもあるだろう。特に、まだ印刷に入っていないような場合は、それができる可能性は高い。消費者センターなどが交渉の仲介をしてくれる場合もある。メリットばかり強調され不利益なことについて一切説明がなかった、お金がないので断ったらクレジットを勧められて断れなかった、などという場合は、きっちりと交渉するほうがいい。交渉によって解約できることもあるし、クレジットの場合は支払い停止抗弁が効く場合もある。
ただし、その場合は出版社からトラブルの経緯や解約の条件について口止めされると思ったほうがいい。こういうやり方は個人的には合点がいかないが、それが現実だ。
もちろん、著者は調停や裁判に訴える権利がある。しかし、法的手段に訴える場合は気力も時間もお金も必要だ。出版社側はまず弁護士を代理人に立てるから、アマチュアの著者が本人訴訟で闘うのも難しい。だから、よほどしっかりした証拠がない限り、裁判は慎重になったほうがいいと思う。そのあたりは十分に検討して後悔のない方法を選んで欲しい。
もう一つ、インターネットでの告発についても触れておきたい。
悪質な出版社とトラブルになると、その事実をブログなどで告発したいと思うのは当然の心情だ。しかし、悪質な商法をやっている会社ほど、自社のインターネット上の評判には敏感になっているものだ。時として、ブログ記事を削除しろと著者に要求してさらなるトラブルに発展することもあり得る。
どうしても告発したいという方は、まず「削除要請がくるかもしれない」という覚悟をもったうえで書いて欲しいと思う。そして、証拠に基づいて事実を書くということが肝要だ。もちろん、罵詈雑言は避けなければならないし、社員の実名なども出すべきではない。告発は、出版を考えている人に注意喚起したり悪質会社に警鐘を鳴らすためにもとても意味のあることだが、書かれた側も黙っていないというのが常だ。そのことを十分に認識してほしい。
また、たとえ公共の利益を目的に事実を書いたとしても、書かれた側は「事実ではなく名誉毀損だ」と主張して削除要請してくることもありうる。だからこそ、証拠を示せることが大事なのだ。また、証拠があるからといって削除要請を受けないとは限らない。証拠があっても「法的手段をとる」などと言ってくることもありうるので、脅しと判断される場合は開き直るくらいの覚悟がほしい。
ブログ運営会社に削除要請がなされた場合は、会社の対応も様々だ。勝手に削除してしまう会社もあれば、基本的に当事者同士に解決を委ねる方針の会社もある。告発者はそういうことも頭に入れ、圧力に強そうなブログ運営会社を選ぶということも考えておいたほうがよさそうだ。
また、告発をすると、同じ出版社から本を出した著者などから非難されることもありうる。自分の本の版元の悪評など聞きたくないという気持ちもわからなくはない。自分も半ば騙されたなどとは誰も思いたくはないものだ。しかし私は、事実は事実として受け止める必要もあると思っている。知りたくないと耳を塞いでしまうことは、悪事をはびこらせ被害者を増やすことにも繋がる。告発者を非難するのはお門違いだろう。これは原発事故にも言えることだ。放射能汚染について情報収集をして実態を知ったうえで、自分で判断し行動するしか自分や家族を守る術はない。それなのに情報発信して注意喚起している人に食って掛かる人もいる。恥ずかしいことだ。
トラブルを極力避けたい場合は、出版社名を伏せて匿名やペンネームで告発するという方法もあるだろう。出版社名がはっきり分からなくても、注意喚起にはなる。消費者庁などに報告するということも是非やってほしい。「塵も積もれば山となる」で、苦情が多ければ公の機関が何らかの対策に乗り出すこともあり得るからだ。
ちなみに、文芸社の元社員である「クンちゃん」のブログもgooから削除要請を受けた。どうやら文芸社がgooに対して削除要請をしたらしい。以下参照。
gooの説明はまったく意味不明で支離滅裂だ。こんな回答しか出せないところをみると、gooは圧力をかけられているのではないかと思えてならない。
なお、名誉毀損については「クンちゃん」の以下の記事がとても参考になる。
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松田さんこんばんは。
蒸し暑くて眠れないため、こんな夜中のコメントになりました。
しかし、本文中の
「書かれた側は「事実ではなく名誉毀損だ」と主張して削除要請してくることもありうる。(中略)脅しと判断される場合は開き直るくらいの覚悟がほしい。 」
は、本当に
「やり方次第、書きかた次第」
ですよね。。。
私も、某G社のことをぼちぼち書き綴っておりますが、ギャグとして、極力私怨をまじえず、記事削除依頼が来たらにこやかに応じてやって・・・・、
ということを繰り返していけば、あちらさんも
「酒井だけはしょーがねぇ」
という感じで、ある種の
「私とG社との友情」
が芽生えるのではないかと思っています☆
とにかく、G社さんは私にとってはもはや持ちネタなので、一生ギャグとして言い続けたいですね。
そんで、ギャグとして広まったところで、いよいよきちんと
「自費出版経験者による自費出版希望者のための、いい話ばっかりではないリアル出版相談会☆」
を、明るく楽しく行えたらなぁと、考えております。
自費出版は、いまやかなりポピュラーなものではないでしょうか。
だったら、そこでの失敗や、売れなかった心の傷も、明るく堂々と笑い飛ばして、もっともっと多くの経験者が泣き寝入りせず、自身の実体験を明るみに出すことが、より広く問題を考えることに繋がると思うのですが・・・。
別に自費出版で失敗したからって、それで自分を世に売り出す道が閉ざされるわけではないのですが、多くの著者さんは
「自費出版して、笑われた挙句、もう自分を世に出す道まで失った」
と、妙に悲観的になってしまうのですよね。。。
もっと明るく語り合えるようなムード作りをすることが、私の使命かなぁと、大袈裟かもしれませんが考えております。
また遊びに来ます☆
投稿: 酒井日香(下ユル子) | 2011/09/17 02:34
酒井日香様
コメントありがとうございます。酒井さんのブログも読ませていただきました。
自費出版を経験した人が、同じような失敗をすることのないように事実を書いていても、「事実じゃない」「名誉毀損だ」と言ってくるのであれば、著者を二度も陥れることになりかねませんね。
人は誰でも「騙された」なんて思いたくないし、失敗を恥ずかしことと思って隠したり忘れ去りたいものです。でも、事実と異なる説明をされたような場合は、もっと開き直っていいのではないかな、と思います。なにせ、大抵の場合は出版社側の説明責任の問題なのですから。
G社の販売方法はよく知りませんが、商業出版と同じような取次を通した委託販売であるなら、「1000部を10冊ずつ100店舗に配本」なんてあり得ないと思いますよ。どこの書店に配本するかは取次が決めるわけですし、書店側からの注文でもない限りアマチュアの本を10冊も置くことはないでしょう。著者にこんな説明をしているのなら、やはりかなり問題でしょうね。民法でいうところの詐欺に該当するのではないでしょうか。
ですので、そういう問題のある営業トークについては著者の方がきちんと追及したり告発することが、不適切な説明を止めさせることに繋がると思います。
ブログでの告発、無理のない程度にやってくださいね。
投稿: 松田まゆみ | 2011/09/17 11:51