放射能汚染された食品にどう対応すべきか
福島の原発事故問題について書き続けている「カレイドスコープ」の以下の記事を読んで、いろいろ考えさせられた。
武田邦彦氏の批判については、私も同じようなことを「原発容認派の武田邦彦氏の発言は見過ごせない」で書いており、同感だ。考えさせられたというのは、小出裕章氏に対する意見の部分だ。実は、私も小出氏の「消費者が、汚染されている福島の農産物や近海の海産物を拒否したら、福島の農業、漁業は崩壊してしまう」という意見に、頭から賛成する立場ではない。これを声高に言えば、汚染された食べ物の流通を促進させることになりかねない。
「カレイドスコープ」の著者が書いているように、すでに野菜や海産物の産地偽装が始まっており、汚染された食べ物は高齢者用にし、汚染の少ないものは子どもたちに、などと区別すること自体が難しい(というか不可能な)状態だ。それに、関東や東北に住んでいたなら、汚染されていない食品を買うことすら困難だろう。こんな状態で、いくら「子どもにだけは安全な食べ物を」と言ったところで虚しいだけだ。
結局、汚染の酷い農地では耕作をやめるしかない。その分、汚染の少ない地域で主食である米や味噌の原料となる大豆の生産を増加させるべきだと思う。今の日本人の食生活は贅沢を極めている。しかし、ひと昔前の日本人はもっとずっと質素な食生活をしていた。ハウス栽培などしていなかった頃は、冬に新鮮な野菜が食べられないのは当たり前のことだった。それでも人間は工夫して生きていけるのだ。今は戦争と同じような非常事態なのだから、これからしばらくは主食である米と、味噌や醤油の原料にもなりたんぱく質も多い大豆をしっかり確保することが肝要だ。野菜は貯蔵や加工のできるものを多く栽培すれば、冬場もある程度は確保できる。
だから福島近郊の汚染された農地で汚染された作物をつくるのではなく、「耕作放棄地の活用を」に書いたように、まずは汚染の少ない地域の休耕田で主食である米の生産を増加させるべきだと思う。水田を畑に変えたところも、できれば水田に戻して米作りをすべきだろう。
たしかに故郷を捨てて、まったく知らない土地で農業をやるというのは大変なことだが、しかし、日本の農業を守っていくにはそれしかないのではなかろうか。汚染された土地でも故郷から離れたくない高齢者はそれでいいだろう。しかし、若い農業従事者はなんとか汚染の少ない土地に移住して頑張ってもらいたい。政府や地方の自治体もそれを後押しすべきだし、それこそ被災者に対する補償だろう。
私も福島の原発事故が起こったときには、小出さんのように、原発を容認してきた大人たち全員の責任だと思った。しかし、原子力ムラのあまりにも酷い体質が暴露されるにつれ、見方が変わった。
日本社会というのはとても民主的とはいえない状態なのだ。利権構造とマスコミを利用した騙しの構図によって国民が騙され、原子力の危険性を訴える一部の科学者が、原子力ムラの人たちにいくら正論をつきつけてもビクともしない構造があった。世界から見てもあまりに特異で異常な国だ。だから、この事故の責任はまずは危険性を知りながら国策として原子力発電を進めた国にあり、不都合なことを隠して国民を騙しつづけた電力会社にあり、片棒を担いだ御用学者やマスコミにある。裁判で電力会社の味方をした司法にもある。
国民の責任がまったくないとはいわないが、都合の悪いことを隠蔽したり騙すほうが何倍も責任は重い。だから、大人が等しく汚染された食品を食べることが原発事故の責任をとることだとは思わない。それに、「大人が汚染された作物を食べて農業を守ろう」という前に、できるだけ汚染の少ない食品を確保する努力をするのが先決だろう。政府が基準を緩め、産地偽装がまかり通る昨今、そうでもしなければ子どもたちに汚染の少ない食べ物を食べさせることもできない。結局、高価な産直米や産直野菜を手に入れられる人は、一部の裕福な人に限られてしまう。
私はこの事故を契機に、日本の一極集中を少しずつ変えていくべきだと思う。過疎地では人口が減り、高齢者が細々と農業をしているところも多い。休耕田や耕作放棄地もそれなりにある。この機会に農村の若がえりが図れないだろうか。耕作放棄地は何回も耕運機をかけて雑草を除去しなければ作物をつくれない。だからこそ、来年の農耕に備え今のうちから準備をしなければならないのだ。いったい政府は何を考えているのかと、腹立たしくなる。
2008年に北欧を旅行した。フィンランドの首都であるヘルシンキは驚くほどこぢんまりとしていて、歩いて用事が済ませられるような街だ。人口が違うとはいえ、東京がいかに頭でっかちで不自然な都市であるかを実感した。大都市に人が密集し、地方でどんどん過疎化が進む日本は狂っている。電気にしても、できるだけ地産地消にしていくべきだ。
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鬼蜘蛛様 いつも新しい情報やコメント、ありがとうございます。鬼蜘蛛様のこのページから、今まで知らなかったいろいろな、がんばっていらっしゃる方の情報を知りました。
ところで鬼蜘蛛様の小出裕章さんのご意見に対するご見解に、私も賛成です。小出裕章さんがそうおっしゃる気持ちはよくわかりますが、大人が選択的に汚染されたものを食べて、子どもには汚染の少ないものを与えるのは不可能です。たぶん、小出裕章さんもそのへんのところは重々わかっていらして、事の重大さを少しでも広い範囲に認識してもらうために敢えてああ言っておられるのではないでしょうか。
投稿: Ha-Ko | 2011/06/30 06:05
Ha-Ko様
こんにちは。コメントありがとうございます。小出さんのご意見ももちろんよく分かりますが、やはりそれは国が放射能の基準値を適正に定め、きちんと検査し、産地偽装などないようにして流通させるということが前提です。
それに農家の方たちの気持ちはどうなのでしょうか。汚染された食べ物をつくり、それを国民に食べさせたいと思っているのでしょうか? できればそんなことはしたくないと思っているでしょう。
やはり「汚染された食べ物はできる限り作らないし食べない」ということでしかないし、まずはそういう努力をすべきだと私は思います。
小出さんがどのようなご意見を持つのかは自由ですが、影響力が大きいだけにちょっと気になります。
投稿: 松田まゆみ | 2011/06/30 10:35