政府がSPEEDIによる放射能拡散予測を公開したくない理由
政府は、3月12日に1号機のベントが難航していた際、格納容器が破損して致死量相当の被ばく量になるとの「最悪のシナリオ」を想定していたという。
12日の爆発のあとにも、確かテレビでは御用学者が登場して安心・安全を振りまいていたし、政府も最悪のシナリオなどおくびにも出さなかった。国民は、現場がどれほど緊迫して大変な状況になっていたのかを知らされていなかったのだ。すっとぼけていた政府には言葉もない。
昨日(5月3日)の「たねまきジャーナル」の小出さんへのインタビューがアップされている。
SPEEDIによる放射能の拡散予測が、今ごろになって公表されたことについても話題になっている。事前に被ばくを防ぐことを目的とした予測なのに、あとで過去のデータを出してもまったく意味がない。なぜ、こんな馬鹿げたことをしているのか。政府はパニックを防ぐためだと説明しているのだが、その理由は先日内閣官房参与を辞任した小佐古敏荘氏の辞意表明の文書から推測できる。この文書は以下のNHK科学文化部のブログに掲載されている。
この資料には、「原子力災害の対策は『法と正義』に則ってやっていただきたい」として、初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、とりわけ小児の甲状腺の等価線量については、その数値を20、30km圏の近傍のみならず、福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県、他の関東、東北の全域にわたって、隠さず迅速に公開すべきである。さらに、文部科学省所管の日本原子力研究開発機構によるWSPEEDIシステム(数10kmから数1000kmの広域をカバーできるシステム)のデータを隠さず開示し、福島県、茨城県、栃木県、群馬県のみならず、関東、東北全域の、公衆の甲状腺等価線量、並びに実効線量を隠さず国民に開示すべきである」と記述している。
そこで、今回政府が公表したSPEEDIのデータを見てみた。以下に掲載されている。
http://www.nsc.go.jp/mext_speedi/past.html
これを見て分かったのだが、政府が公開したのは福島原発の近隣への拡散予測だけなのだ。爆発のあと、放射能は関東地方にも降り注いだ。チェルノブイリの事故でも分かっているように、放射能は風邪に乗って飛散し、数百キロ離れたところにも高濃度の汚染地帯をつくる。SPEEDIによる予測図が福島近郊だけのものしかないなどということはあり得ない。ずっと広範囲のものもつくっているはずだが、それを公開したら関東地方にまで拡散する予測結果が出ていたことがバレてしまう。だから5000枚といわれている図の一部だけを公開したのだろう。
政府は12日には格納容器の爆発という最悪の事態を想定していたのだから、風向きによっては東京の人たちが被ばくすることも分かっていたはずだ。何せ東京都だけでも1300万人もの人が住んでいる。最悪の事態になったなら、とんでもない数の人たちが被ばくする。それだけの人を政府が責任をもって避難させるのは物理的にも金銭的にも無理だろう。格納容器爆発という最悪のシナリオや放射能の拡散予測などを公表しても、政府は被ばくに対して責任がとれないのだ。だから、「みんなで被ばくしましょう」とばかりに情報の隠蔽を決め込んだのではなかろうか?
小佐古氏は原発を推進してきた人物であるが、さすがに政府が法律に違反してまで情報を隠蔽しようとすることに嫌気がさしたのだろうと私は思う。
政府が一番大事なのは保身のようだ。そのためには情報の隠蔽も嘘もはばからない。国民を被ばくさせることなど、何とも思っていないのだろう。
TBSが福島第一原子力発電所のライブカメラを公開している。原発から頻繁に蒸気が立ち上っているのがよく分かる。再臨界の可能性もあるし、まだまだ予断を許さない状況だ。なのに、政府の隠蔽体質はまったく変わらない。万一爆発しても政府はすみやかに国民に知らせるかどうかも分からない。ときどき様子をチェックしていたほうが良さそうだ。
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