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2011/02/16

根拠のない集団検診をやめた網野皓之医師の取り組み

 先日、網野皓之医師の著書「なぜ、村は集団検診をやめたか」(自費出版)を読んだ。集団検診は疾病死亡の減少を目的として行われるのだが、死亡率の優位な低下が証明されなければ有効とはいえない。実は疾病による死亡率を下げているという根拠がないにも関わらず、日本では早期発見・早期治療を目的に集団検診が行われている。そのことを網野医師ご自身が具体的に説明したのがこの本だ。ところが、日本人の多くはこの事実を知らされず、早期発見・早期治療が有効だと信じ込まされている。

 この本の内容については、渡辺容子さんの以下の記事を参照してほしい。

『なぜ、村は集団検診をやめたか』

 日本ではとても集団検診が盛んだ。自治体で集団検診を勧めたり、職場で実施しているところも少なくない。だから、集団検診には科学的根拠がなく、長寿願望という人間の感情によって施行されていると聞かされたなら驚く人も多いだろう。私も何の知識もなくいきなりこの本を読んだなら、かなり驚いたと思う。しかし、渡辺容子さんのブログ「暗川」によって検診には意味がないことを知っていたので、とても納得できる内容だった。そして、今でも集団検診に熱心なこの国の自治体や医療関係者の姿勢こそ大いに疑問に思った。

 私の住んでいる町でも、集団検診が盛んだ。以前は結核検診のお知らせが毎年きて、受けないと催促まできた。はじめのうちこそそれほど疑問に思わず受けていたが、途中からやめた。結核などすっかり影をひそめたし、検査による放射線被ばくの害のほうが大きいのではないかと疑いをもつようになったからだ。

 また、中高年といわれる年齢になってからはいわゆる成人病検診のお誘いが執拗にくるようになった。しかし、私は検診には一度も行ったことがない。私の父もそうだったが、そもそも不調でもないのに検診によってわざわざ病気を発見しようということに、素直に納得できないからだ。不治の病にかかったならあきらめるしかない、という考えが根底にある。

 ただし、子宮がん検診を2回、大腸がん検診を1回受けたことがある。地域の健康増進員の人が執拗に勧誘したのがきっかけだった。でもなんとなく有効性に疑問をもち、それもやめた。

 しかし、自治体は何としてでも検診を受けさせたいらしい。最近は、乳がん・子宮がん検診の無料クーポン券なるものが送られてくる。私は、渡辺さんの「乳がん、後悔しない治療」(径書房)という本を読んでがん検診は意味がないことを知っているので、もちろんそれも無視している。

 集団検診を受けることが良いことであるかのように宣伝されている日本では、検診を受けないと、健康に無関心だと非難されがちだ。しかし、非難すべきは有効であるという根拠もないのに、早期発見・早期治療がさも重要なことであるかのように謳って集団検診を押し付ける側だ。網野医師がこの本を書いたのは1992年だ。もう20年も前に集検の有効性に疑問をもち、集検を廃止して方向転換をした自治体があったのに、その指摘を受け入れずに集団検診を住民に勧めている自治体はいったい何を学んでいるのだろうか。

 網野医師は「医学によって解決できたことは、一部の感染症だけであり、他は自然の経過だったのです。私たちの保険医療行為が疾病を減少させたかに見える場合でも、自然経過に重なった偶然にすぎなかったのです」と書いている。自分自身の体験を振り返っても、たしかにそうだと思わざるをえない。

 私も体調が悪くなって医者に行ったことが何回かあるが、医者の処方した薬で治ったといえるのは膀胱炎くらいだ。腰痛や微熱などで医者にかかったときは自律神経失調症だといわれ自然に治癒。めまいがひどくて医者に行ったときも、悪性の病気ではないと言われ自然に治った。下痢が続いたときも内視鏡検査をして異常なし。尿管結石のときは、石が自然に出て治った。治療を受けて治ったというより、自然に治癒したと感じることのほうが多いのだ。

 最後に網野医師の以下の文章を紹介しておきたい。何事においても自然に逆らうことに疑問を持つ私には、とても納得のいく指摘だ。

 「検診で健康を保持できるというような幻想とは絶縁し、人間と疾病の関係について考え直す時がやってきたと思います。人間は疾病と共生の関係にあるのです。また、人間は老い、疾病に罹患し死ななければならない存在です。その過程は人それぞれであり、なかには若くして一生を終える方々もいるでしょう。しかし、これが病気という側面から見た人間の多様性であり、私たちはこれを認めるべきであると思います。なぜなら、現代医学はこれを乗り越える力量を持っておらず、今後もその見込みがないからです。人間は医学とは無関係に寿命限界に近付いているのです」

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