美蔓貯水池の欺瞞(16)シマフクロウ報道で北海道新聞にエール
今日の北海道新聞の十勝版に、「点検 美蔓かんがい」のシリーズ記事として「電柱に止まり木100本 シマフクロウ保護?」との記事が掲載された。
内容は、美蔓地区国営かんがい排水事業の導水管埋設工事が行われているペンケニコロ川沿いの林道で、工事用電力を引くために設置した電柱にシマフクロウ用と見られる止まり木が約100本付けられているということを指摘したもの。取材をうけた住民の一人は、「かつてはたくさんいたが、電柱にぶつかったり、感電死したりした」と答えている。シマフクロウのような大型の鳥類は翼を広げたときに電線に触れると感電死してしまう。そのような事故対策として環境省はシマフクロウの生息地では電柱に止まり木をつけるなどの対策をとっている。
記事によると、帯広開建はこの止まり木について「環境に配慮したとしか言えない」と言っており、シマフクロウが生息しているかについても答えられないと言っているらしい。
このシマフクロウ用としか考えられない止まり木については、私の以下の記事に写真を掲載している。
このペンケニコロ林道は、世界ラリー選手権(WRC)のコースとして利用されたこともあり、私たち十勝自然保護協会はシマフクロウ・クマタカ・ナキウサギなどの絶滅危惧種や希少種の生息地でラリーをするなと反対運動と抗議を続けてきたのだ。
2004年には北海道の鳥類研究者ら6名が連名で、ラリー主催者に対して「世界ラリー選手権(WRC)『ラリージャパン2004』の新得林道コースの使用中止を求める要請書」を出している。このメンバーの中には環境省のシマフクロウ保護増殖検討委員も複数含まれている。その文書は、新得の林道コース周辺にシマフクロウが生息していること、また警戒心が強い鳥であるためラリーによる車の走行や観戦者などの立ち入りがシマフクロウに影響を与える可能性があるので、このコースの使用の中止を求めるという内容だ。
つまり、鳥類の専門家もこのあたりにシマフクロウが生息していることを認めてコース変更を申し入れているのだ。
また、同じく2004年8月31日付の北海道新聞では、このラリーコースの周辺にクマタカの営巣地が二カ所あることを報じており、猛禽類の研究者がラリーによる影響を懸念しているという内容だ。この記事の最後には「ラリー選手権をめぐっては、シマフクロウなどの生息に影響があるとして、自然保護団体が開催に反対している」とも書かれている。
ペンケニコロ林道周辺がシマフクロウの生息地であることは鳥類研究者も認めるところであり、すでに新聞でも報じられていることなのだ。ところが、導水管工事をしている帯広開発建設部はもとより、環境省も決してそのことを明らかにしない。
その理由は、おそらく保護増殖事業をしている絶滅危惧種の生息地を明らかにすると、写真愛好家などが殺到して影響を与えるということなのだろう。しかし、北海道新聞の報道は、シマフクロウが生息していると断定しているものではないし、まして具体的な営巣場所などが書かれているわけではない。シマフクロウの行動圏は広く、これだけの情報でシマフクロウを探すなどというのは至難の業だし、そんなことをする人などほとんどいないだろう。写真愛好家の多くは、口コミ情報などによって、簡単に写真撮影できる場所に集中するのである。現実に、シマフクロウが見られることを売りにしている温泉旅館すらあるが、カメラマンや見物客の影響で来なくなったという話は聞いたことがない。カメラマンなどによる影響を盾に、林道の周辺にシマフクロウが生息しているという事実をひた隠しにしようという姿勢には大いなる疑問を感じる。
この国は、絶滅危惧種というだけですぐに情報を隠ぺいしたがる。情報公開で資料を取り寄せても、絶滅危惧種は黒塗りになって出てくる。たしかに、種によっては生息情報が公開されることで盗掘されるなどの被害が予想されるものもあるから、すべて公開すべきだとは言わない。しかしこうした隠ぺい主義によって、絶滅危惧種の情報が開発行為を行う者や一部の研究者のみしか知りえない状況のまま、平然と絶滅危惧種の生息地で開発行為が行われているのがこの国の現状だ。
情報を隠ぺいすることで絶滅危惧種の保護をないがしろにしているにも等しい。希少種がいるのであれば、できる限り情報を共有してその保護策を考えるべきだろう。そのような意味からも、この北海道新聞の記事の意義は大きいと思う。
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