「ダムか」「代替案か」の選択でいいのか?
政府が見直しの対象としている全国のダムについて、ダム以外の治水対策を検討し、再検証する「検討の場」が始まりました。北海道では、国が建設主体のサンルダム・平取ダム・新桂沢ダム・三笠ぽんべつダム、北海道が建設主体の厚幌ダムが「検討の場」の対象です。14日に厚幌ダムの「検討の場」が開かれ、20日には平取ダム、24日にはサンルダムの「検討の場」が予定されています。平取ダムもサンルダムも「検討の場」の「構成員」は北海道知事と関係する自治体の長、そして「検討主体」は北海道開発局長。建設主体と建設を推進している地元の自治体だけが集まって検討するというのですから、お話になりません。
国は、治水対策について「ダム」か「ダム以外」かの二者択一を迫っているのですが、そもそもこの図式には「ダムも代替案も不要」という選択がありません。また、ダムに替わる治水というのはどんな対策を指しているのでしょうか? 堤防のかさ上げや強化、あるいは河道の掘削などの河川改修なのでしょうか?
河川管理者は河川整備計画を立てるにあたり、計画の規模(たとえば十勝川水系では150年に1度の確率で発生する洪水)の大雨が降った場合、基準となる地点での流量(基本高水)を定めています。十勝川水系では150年に1度の降雨確率を前提に治水計画が立てられているのですが、「計画の規模」は河川によって異なり、100年に1度の降雨確率にしている河川もありますし、200年に1度の降雨確率にしている河川もあります。
しかし、300年に1度とか、500年に1度の確率の降雨など、想定外の大雨が降ることは当然あります。たとえば、十勝川水系でいうなら1981年の大雨です。この時は300年に1度と言われる大雨が降りました。こういう想定外の大雨が降ったなら、堤防から水があふれ出るのはやむを得ないのです(ただし、この時には人口密集地の帯広周辺で堤防から水が溢れることはありませんでした)。
想定外の大雨なら氾濫するのもやむを得ないのに、「洪水被害が起こらないよう治水対策をしっかりしろ」とか、「ゲリラ豪雨に対応した対策を講じろ」などといっていたらきりがありません。あちこちダムだらけにしたあげく、さらに堤防のかさ上げや強化をしていかなければならなくなるでしょう。川は死に、自然の砂浜は消失していきます。そうして堤防のかさ上げを続け、万一堤防が決壊したなら、その時の被害こそ恐ろしいことになります。
ですから、こういう想定外の大雨が降った時には、堤防から水が溢れることを前提にしたうえで被害が最小限になる対応策を考えるしかありません。具体的には、迅速な非難体制の確立、洪水の農地への誘導(遊水地等)、浸水に耐える住宅(基礎を高くするなど)、危険地域からの移住促進などです。
ダムや代替案を検討する際に最も肝要なことは、「基本高水の流量が適正に算出されているのか」、ということなのです。この数値が過大であれば、過剰な治水対策をすることになります。つまり、不要なダムをつくったり、不要な河川整備をするということになるのです。
そして、この基本高水というのは多くの場合過大になっていることが指摘されています。八ッ場ダムでも過大になっていることが明らかになり、国もそれを認めました。十勝川水系では十勝自然保護協会が数値の根拠を明らかにするよう求めていますが、帯広開発建設部は無視を続けています。
まずは全ての河川において再計算をし、これ以上の治水が必要かどうかを見定めなければならないのです。基本高水が適正に算出されていたなら、「ダムもいらないし河川整備もほとんど必要ない」という河川だってたくさんあるでしょう。必要なのは、想定外の大雨で溢れたときの対応策なのです。
また、「ダムによる治水か」「ダム以外による治水か」という議論には、自然環境にもたらす悪影響が考慮されていません。ダムが河川生態系に大きな影響を与えることは言うまでもありませんが、ダム以外による治水、たとえば河道の掘削などをしたなら河川生態系に影響が出るのです。ダムじゃなければいいというものではありません。
ところが、実際には過大な基本高水流量の問題は棚に上げ、ダムかダム以外の代替案かという議論にすり替えられています。しかもその判断基準はコストというのですから、自然環境のことは無視も同然です。
まずは計画規模の基本高水流量を計算し直して計算式を公開し、さらなる治水対策が必要という結論になった場合にのみ、生態系への影響を考慮した治水を検討し、それとともに計画規模外(想定外)の降雨における対策をきちんと考えるべきでしょう。二者択一とコストにこだわる「検討の場」は欠陥としかいいようがありません。
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