戸蔦別川に砂防ダムはいらない
十勝自然保護協会は22日、北海道開発局帯広開発建設部治水課に出向き、札内川の支流である戸蔦別川の砂防ダムについて説明をしてもらいました。
戸蔦別川の砂防ダムについては、「平川一臣さんによる講座『川とは何だろうか?』」でも触れていますが、現在6つの砂防ダム(戸蔦別川堰堤、戸蔦別川第1号堰堤、同5号堰堤、同6号堰堤、同7号堰堤、同8号堰堤)と、15基の床固工(戸蔦別川床固工群)があります。
すでにある6基の砂防ダムによって戸蔦別川では著しい河床低下が生じ、15基の床固工群を造らねばならなくなりました。こんな酷い状態なのに、第1号堰堤の上流に、未着工の第2号、3号、4号堰堤をまだ造るということでした。
帯広開発建設部の説明によると、昭和29年の洞爺丸台風による風倒木被害に続き、昭和30年7月の土砂災害によって大きな被害を受けたので、この災害を契機に昭和36年から直轄による調査を開始し、昭和47年直轄砂防事業に着手したということです。つまり、1970年代はじめに8基の直轄砂防ダムを計画し、それによって造られたダムの弊害が目に見えてきているというのに、40年も前の計画をいまだに継続しようとしているのです。私たちから見れば、狂気としか思えない計画です。
で、3号堰堤についてはスリット化を考えているほか、既存の堰堤もスリット化する計画とのこと。スリットで土砂を流すのであれば、そもそも堰堤など必要ないのではないかと質すと、「土砂の流れにタイムラグをつくって、流れる土砂の量をコントロールする」のだそうです。また、戸蔦別川に流れこんでいる渓流にはまだ土砂が堆積しており、大雨などによってそれが流れ出すかもしれないので、さらに堰堤が必要だと主張します。砂防ダムが海岸浸食を加速していると指摘すると、「一概に砂防ダムに原因があるとは言えないのでは・・・」と明言を避けました。しかし、ダムが海への土砂の流下を妨げ、海岸浸食を加速させていることなど周知の事実です。
どう考えても開発建設部の説明は破たんしています。たとえ今後集中豪雨があったとしても、土石流などは既存の堰堤で十分防げるでしょう。平川さんも指摘しているように、河川管理者はダムを造れば川がどうなるのか十分わかっています。砂防ダムによって川の均衡を崩してしまえば、河は自己制御をして河床低下を起こし、取り返しのつかないようなところまで行ってしまいます。平川さんは、戸蔦別川がすでに「取り返しのつかない状態になっている」ことを説明されました。
そして、今回私たちに説明をした治水課の課長補佐はその平川さんの講演を聞いています。それにも関わらず、まだ砂防ダムが必要だと説明するのです。どうしてこんなことになるのかと言えば、日本の治水事業が上からの押し付けであるからでしょう。いったい、いつまで税金をつかって、「無駄」どころか「悪影響」しか及ぼさない工事を続けるつもりなのでしょうか。
23日の北海道新聞の「特会のからくり」という記事に興味深いことが書かれていました。それまで事業分野別に独立していた特会が2008年に一本化され、道路整備・空港整備・港湾・治水・業務の5勘定が「社会資本整備事業特別会計」になりました。この特会は10年度の当初予算額3兆6272億円のうち、歳入では一般会計からの繰入額が2兆1009億円とのこと。一般会計公共事業費の4割近くが特会に流れているといいます。また、地方自治体の負担金(受益者負担)が5433億円。そして、特会は財務省の予算査定が甘くなりがちなのだそうです。つまり、国土交通省は多額の一般会計財源と受益者負担で潤う特会を「公共事業のサイフ」として意のままに操ってきたというのです。ちなみに2010年の治水の歳出は8066億円とのこと。
戸蔦別川の河川管理者は開発局(国)ではなく北海道です。しかし、砂防事業だけは国の直轄で行われています。戸蔦別川の必要のない砂防事業が簡単に予算化されてしまう裏には、インフラ整備の名の元に「特会」で容易に予算を獲得してしまう構図があり、そこには道民税も投入されているのです。
道民は弊害と悪循環しか生み出さない公共事業に、はっきりと「ノー」を突き付けていかなければ、いつまでもこんなことが続けられてしまいます。私たちの税金が使われているのですから、もっと怒るべきことではないでしょうか。
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