石狩川源流部違法伐採合同調査での林野庁のおかしな説明
16日に石狩川源流部の違法伐採現場で、林野庁の職員と環境省の職員、そして自然保護団体である日本森林生態系保護ネットワーク(以下、ネットワーク)のメンバーで合同調査が行われました。合同調査の報告をする前に、これまでの経緯を簡単に説明します。
問題となっているのは2009年に大雪山国立公園内の三角点沢、音更沢、天幕沢で行われた伐採です。大量の木が伐られているとの情報を受けたネットワークが2009年9月と11月、2010年6月に調査に入り、盗伐の可能性のあるナンバーテープのない伐根があったこと、保安林内の作業許可条件を大きく超えた土場や集材路が作設されたことなどを確認しました。これらは新聞でも報道されました。
違法伐採の指摘をされた北海道森林管理局は調査を行い、9月10日に調査結果を公表しました。その内容は、①森林法に基づく知事の同意の範囲を超えて作設された集材路は、その距離が12キロメートル以上に及び、同じく範囲を超える土場の面積は4100平方メートルに及んだ。②知事の同意を得ずに伐採された樹木が77本(音更沢の越境伐採が52本、三角点沢の土場作設の際の過剰伐採25本)あることを認めたというものです。
ネットワークはこの9月18・19日にも現場に調査に入り、調査の様子はマスコミでも報道されました。以下は調査に参加した私の報告記事です。
石狩川源流部盗伐調査(その1)見つけた盗伐の証拠
石狩川源流部盗伐調査(その2)消えた「無印良品」
ネットワークはこの調査をもとに、9月24日付で林野庁長官あてに要望書を送付し、10月16日に自然保護団体との合同調査をすることになったのです。
さて前置きが長くなりましたが、ここから16日の合同調査の報告です。
初めに入ったのは三角点沢です。ネットワークは9月19日に方形区(約0.25ヘクタール)を設定し、伐根を数えました。その結果、ナンバーテープのついている伐根が21本、ついていない伐根が35本の、計56本の伐根を確認しました。テープ番号の連番から推測するなら、テープが脱落した可能性があるものは多くて6本です。この6本を差し引いたとしても29本のテープのない伐根があり、これは盗伐ではないかと追及しました。
この疑問を解消するためには、収穫調査をした木の本数と実際の伐根の数を比べればいいだけです。それが一致すれば盗伐はしていないことになりますし、収穫対象木より伐根の数のほうが大きければ、業者が多く伐ったことになります。ですから、私たちは伐根を数えるよう求めたのです。全域で伐根調査をするのが大変だというのなら、とりあえず一つの小班を選んで行ってもいいと。これに対する森林管理局の説明は以下のようなものでした。
製品販売(素材生産)の場合、収穫調査の時に収穫木(調査木)の幹につけたナンバーテープを伐採時に伐根に移し替えるよう、業者に義務づけていない。テープのある伐根とない伐根が混在しているのは、伐採作業をした人の習慣による違いだろう。指定した収穫木以外の木まで伐れば余計な仕事をすることになるので、そんな損になることを業者がするはずがない。伐根を調べなくても、土場に積み上げた丸太の材積から管理は十分できる。
しかし、これはとてもおかしな回答です。56本中29本もの不可解な伐根があるという事実を突き付けられたのです。国民の共有財産であり自分たちに管理責任がある樹木が倍以上伐られたのではないかと疑いをかけられた以上、国有林の管理者であり業者の監督責任のある森林管理署は、疑いを晴らすために伐根調査をするのは当たり前のことではないでしょうか。だいたい、土場に積まれた丸太の材積だけで森林管理ができるなどということ自体がおかしな論理です。土場に積まれて玉切りされてしまえば、何本の木が伐られたか分からなくなってしまいます。収穫木が適正に伐られているかどうかは、基本的には収穫木(調査木)の数と伐根の数を確認するしかありません。
伐根調査を強く求めたところ、ようやく出てきた回答は「持ち帰って検討する」でした。林野庁の職員は私たちに対して安易に「盗伐と言うな」と苦言を呈していましたが、そんなことを言うのなら、自ら伐根の数を数えて「盗伐はない」ということを証明するべきでしょう。業者をかばうようなことばかり言っていたら、業者との癒着疑惑を増大させるだけです。
午後は音更沢です。ネットワークは合同調査にあたり、越境伐採疑惑のある小班名を挙げて調べておいてほしいと要請していました。ところが集材路の奥にあるその現場にたどり着いて小班界を尋ねると、驚いたことに「わからない」という事態になったのです。自ら集材路の実測調査を行い、集材路の入口付近では越境伐採があったことを認めたのに、奥にある別の場所では小班界が分からないと言うのですから、まるでマンガのような話しです。森林管理者が林班や小班の境界も分からずに、どうやって森林管理をするのでしょうか。
音更沢では南側の林班界で52本の越境伐採を認めていますが、これらの伐採木にはナンバーテープはついていなかったと明言しました。ここで三角点沢での彼らの説明、すなわち「指定した収穫木以外の木まで伐れば余計な仕事をすることになるので、そんな損になることを業者がするはずがない」は破綻しました。現実に越境してナンバーテープのついてない木まで伐っていたというのですから。そして、この越境伐採について業者に聞き取り調査をしたのかと問いただすと、「していない」とのこと。管理者として越境伐採の原因を調べようともしないとは無責任の極みであり、不正疑惑は深まるばかりです。
最後に、林野庁の職員が漏らした本音をちょっと紹介しましょう。林野庁は、「間伐」であることをしきりに強調していました。間伐というのは優良な木を育てるために質の悪い木を間引きすることです。ところが、「ちょうど収穫どき」というような言葉を漏らしたのです。なんのことはない、売れるようなサイズに育ったから伐ったということでしょう。「間伐」などというのはまやかしです。50年以上も前の洞爺丸台風で生き残り、大きくなってきた木がようやくお金になるサイズになったので、一気に伐ったといったところなのでしょう。彼らには風倒被害を乗り越え50年かけてようやく甦りつつある森林も、単にお金の山にしか見えないのです。
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